ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅           アシアナ(医療監房)・・・・・3

2012-12-10 | 2章 デリー中央第4刑務所アシアナ


朝の作業が終ると陽当りの良い場所に気の合った患者達が集り冗談を言ったり情報交換をしていた。前庭の奥にある水浴用プールでは身体を洗う人も多い。ここでは水浴をする事によって体内から薬物を流し出し同時に冷水の刺激による神経と身体の細胞の活性を促がすと考えられていた。1日5回の水浴は大切な治療法として取り入れられていた。
玄関フロアーに全員が集ってきた。フロアーの時計は10時を少し回っていたる、投薬の時間だった。中毒から回復し元気になった患者が世話をする。素焼きの水瓶と一個のコップが用意された。名前が呼ばれる順番は新しい患者から、ぼくは新参だから最初に呼ばれた。薬務員の前に出ると処方箋を確認しながら用意されている薬、5~6個の赤、黄、白の錠剤やカプセルが手の平に置かれた。薬を一気に口に含みコップの水を飲んだ。
「口を大きく開けて」
薬務員から指示された。薬を残らず飲んでいるかの確認だった。薬を飲まないで舌の裏に隠し後でトイレなどに吐き出すインド人がいるらしい。薬が嫌いなのか薬局が出す処方薬に不信があるのか、薬が必要なぼくには分からない。ぼくは薬を飲むため水を普通に飲んだ。すると周りのインド人からブーイングされた、コップの縁に唇が触れたと。インド人の習慣だからなのか、ヒンズー教徒だからなのか、人が口をつけたコップは不浄で使わない、コップを洗った後は清められるので問題はないということらしい。ひとつのコップの飲み物を回し飲みするときは顔を上に向けコップが唇に触らない高さから開いた口に水を注ぎ込む。これがなか々難しい、目標を誤って鼻であったり下唇から喉、胸に水を流すこともあった。
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ジャンキーの旅           アシアナ(医療監房)・・・・・2

2012-12-07 | 2章 デリー中央第4刑務所アシアナ
暗い空が微かに変化し始めると鳥の声と羽ばたきが聞えた。夜から朝への移行を鳥は知っている。鉄格子を打つ金属音がして目の前を収監者達はのろ々と動き出した。10月28日、逮捕されて4日目の朝、ベッドから出るように言われた。ふら々と人の後ろについて行く、立つことも歩くことも辛かった。腰巻ひとつで朝の水浴を終えたインド人達とすれ違った。ぼくは前庭の壁に凭れ掛かり座り込んだ。そこへ着替えを済ましたインド人達が塀に沿って二列に並ぶ。彼らはサンダルを脱いで筵の上に立ちゲートの方を向いた。各列の前に一人が向かい合って立ち彼のリードで全員の合唱が始まった。ヒンズー教のお経と言うよりは宗教歌のようなものではないだろうか、二曲目も大声で歌い終わった。それが終ると食器置場から各自コップを持って来て莚に座りティーが運ばれて来るのを待った。塀側の列はどうして長くなるのか?禁断で体力のない者は塀に凭れ掛からないと座っていられないからだろう。ステンレス製のバケツに入れられたティーが運び込まれた。コップにティーが注がれその上に二枚のトーストが置かれた。全員に配り終わると短い唱和があり食事が始まる。ぼくにとって4日振りの食事なのだが食べられそうもない、トーストは隣のインド人にあげた。ティーは少しずつゆっくりと飲んだ。
食事が終ると各自コップを洗い元の食器置場に戻した。ぼくは誰もいない病棟に戻ろうとした時、入口でインド人に止められた。施錠以外の解放時間にベッドで横になることは禁止されていた。症状が良くない数名を除いてそれぞれ軽い作業分担があるようだ。前庭と病棟の両横・裏庭の掃除。玄関、病棟内それに皆が嫌がるであろうトイレ掃除。ぼく達は邪魔にならない場所を見つけては莚を引き摺って移動した。
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ジャンキーの旅           アシアナ(医療監房)・・・・・1

2012-12-05 | 2章 デリー中央第4刑務所アシアナ
     アシアナ・ホスピタル
 アシアナ・ホスピタルはデリー中央第4刑務所内にある。麻薬で逮捕されたスタッフ中毒の受刑者を治療、更生させる医療監房である。アシアナは第1~第4刑務所内で最も小さな収監区・ワードであろう。ワードゲートを入ると狭い前庭があり2~3歩階段を上がると10畳程の玄関フロアーになっていた。左側は薬局、事務室等があり右側はドクター室、その奥の廊下を進むと監督官マダムの執務室がある。玄関フロアーから5mぐらいの渡り廊下の先に病棟出入り口の鉄格子があった。裁判所への出頭、ムナカッタ(面会)以外ワードゲートから外へ出る事は許されない。例外は3度の食事とティーを厨房へ取りに行く模範囚だけである。治療が終ったとドクターが認めてもマダムの政治的判断によって退所許可が出ない事もある。マダムによる他ワードへの移転手続きが終了する迄ここを出る事は出来ない。ぼくは激しい中毒症状と自殺の恐れがあるとして緊急に移送、入所させられた。24日夜、逮捕され27日アシアナに入所するまでオールド・デリー裁判所で私服のポリからコップ一杯の水を飲ませてもらった以外何も食べていなかった。体力は消耗し限界に達していた。
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