「まあ、しょうがないだろう」と彼、隣の部屋にいる次席官からサインを貰いなさいと言って申請書をぼくに戻した。それは希望を持ったぼく達をただたらい回しにしただけにすぎなかった。次席官はぼくの申請書に目を通すと、それを投げ捨てるようにしてぼく達に戻した。お願いします、助けて下さいと頭を下げるぼく達に彼は手の甲を向けて出て行きなさいという仕草をした。尚も食い下がるぼく達に駄目なものは駄目だと言い出て行けという仕草をくり返した。次席官の部屋を出た。階段の手すりにつかまりぼくは1階へ下りた。
ビザが取れないとネパールから出国はできない。1月21日でトラベル・ドキュメントの有効期限が切れる。この状態が続けば不法滞在者としてぼくはネパール警察からも追われる。次回22日はデリー・ティスハザール裁判所への出頭日だ。これをキャンセルすれば2回目となり裁判所はインドの新聞にぼくの逃亡告示を出すだろう。インドとネパールの両警察の追跡から逃げ切る事は不可能だ。ぼくの下痢は続いていた。トイレから出て通路に行くとスンダルがぼくを待っていた。
「トミー、大使館へ行こう・・・」
その先を彼は言わなかった。行ってどうなるのか彼もぼくも分からない。だがここでやるべき事は全てやった。
「大使館へ行こう、スンダル」
寒い冬型の気圧配置が続いている
1月のカトマンズと重なって かすみの向こう その記憶がある
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