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友好の分断と戦争のはじまり…映画「イニシェリン島の精霊」

2023-01-31 | movie/劇場公開作品

■1月29日(日)■

マーティン・マクドナー監督の映画「イニシェリン島の精霊」を見に行きました。

例によって仕事でいっぱいいっぱいで、ろくに前情報を入れずに鑑賞。
把握していたのは「弱っている時に観に行くべきではない」ってことと、
「鑑賞前にホットドックは食べないほうがいい」ってこと…

アイルランドの孤島に住むパードリック(コリン・ファレル)は、
いつものように親友コルム(ブレンダン・グリーソン)の家を訪れ、
窓の外からパブに誘うが、なぜかコルムは彼を無視する。
不思議に思ったパードリックは再度誘いに行くが、
コルムはすでにパブに向かったらしく家にはいない。
やっとパブで彼の姿を見つけるが、コルムから驚きの言葉を投げかけられる。

「今日から友達をやめる」

突然友人から別離を告げられたり距離を取られたりと言う経験は、
ある程度人生を生きて来た人なら心当たりがあるんじゃないでしょうか。
私はあります。距離を取られたことも、自分から距離を取ったことも…
そういう時は諦めるしかなかったり、なるべく自分からも距離を取るのが一番ですが、
この世間が狭いイニシェリン島では否応もなくパードリックとコルムは顔を合わせることになります。

知的な妹シボーン(ケリー・コンドン)やパードリックにちょっかいを出す青年ドミニク(バリー・コーガン)も
コルムに関わらないよう勧めますが、
パードリックは突然「退屈だから」と嫌われた理由が理解できず、
酔った勢いでコルムに当たり散らし、ついにコルムは最終手段に出ます。

その手段とは… 予告を見てくださいな↓

『イニシェリン島の精霊』予告編│2023年1月27日(金)公開!

 

ここからはネタバレありの感想。

 

この映画でまず面白かったところは、
パードリックとコルムが仲違いすることになった「その日」からを描いていて、
二人の仲が良かった時期は想像するしかないところ。

パードリックがどんなくだらない話をコルムに投げかけていたのか、
コルムはその話に耳を傾けながらも、だんだんと彼の話題に呆れてきたのか、
それとも実はちょっとした一言が彼の心境に変化をもたらしたのか…
その辺りは観客の想像で受け止められるのが面白いですね。

そしてコルムがパードリックを遠ざけるために取った行動の異常さ…
そこまでするかね?っていう驚きを超えて笑ってしまいます。
存在を拒否しながらも、パードリックが痛い目にあっている時は助けてあげたり、
意外と気持ちがブレてるコルムの都合の良さをズルく感じます。
見ている間「おお〜これは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』以来の胸○ソ映画になるかー?」
逆な意味でのワクワク感が発生(笑)。

そしてはじめは戸惑うしかなかったパードリックも、
この騒動の末に大事なものたちを失い、ついにコルムに対し反撃を開始…

この映画では、時折対岸の本当で起こっている(イングランドからの独立に対する)内戦の音が聞こえてきますが、
言うまでもなくこれは孤島で起こっている「内戦」と対比させているものだとわかります。
そう考えると、周りがわけのわからないままにぶち上げたコルムの対立や、
「お前のためを思って」と親切心のように理由付けする距離の取り方も、
戦いをふっかけてくる側の言い分にそっくりな気がしますね。

そして、自分の想定以上に相手(とその周辺)を傷つけた時の「そんなつもりじゃなかった」という言い分も、
まるで民間人に誤爆した側の言い分みたい。
大きな戦いを、個人レベルまで落とし込んだような作品。

でも、完全に対立するようになったパードリックとコルムは、
なんだかすっきりとしているように見えるのが不思議。
まるで、この狭い世界の中で本当に正しい関係性を見つけたような、
これでいいんだというような納得した表情が印象的でした。

結局、すごく単純な言い方をすると、
「とても人騒がせな親友同士の仲違い」だった、っていうのも呆れて笑ってしまいますね。

しかし、この映画の中でブレンダン・グリーソンがフィドルで聞かせるアイルランド音楽
(グリーソン自身が作曲し演奏している)は素晴らしいし、
とにかく荒涼としたアイルランドの風景は圧倒的な美しさです。
その美しさに引き寄せられた何も知らない観客が呆気にとられるところを想像するのも
この映画の面白さかもしれない…(苦笑)

 

ちなみに。

マーティン・マクドナーの作品は実は20年ほど前にパルコ劇場で
日本版「ピローマン」を見たのが初体験でした。
今感想を読み返してみると「イニシェリン島…」との共通点が多いです。

 

演劇『ピローマン』&映画『インファナル・アフェア~無間序曲』 - だから、ここに来た!

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アカデミー賞にノミネートされた「スリー・ビルボード」
もちろんお気に入りの映画の一つ。
これも途中まで胸○ソ悪いながらも、最後は意外な爽快感を残す作品でしたね。

NT Liveの映画館中継で見た「ハングメン」も暗いのに愉快という面白い作品でした。

これは我らがリース・シェアスミスも出演していたこともあって大事な芝居の一つです。

 

 

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高橋幸宏さんを偲んで…

2023-01-27 | music

2023年1月11日に、高橋幸宏さんが逝去されました。

私がこのニュースを知ったのは、ついに新型コロナウィルスに感染し、症状も治まった頃
3日間熱が出たくらいで喉の痛みもなく、食欲も十分にありましたが、
この訃報を聞いてからはショックで2日間ほとんど何も喉を通りませんでした。

教授こと坂本龍一さんが闘病中で最後のパフォーマンスになるかもしれないと、ピアノ演奏を配信した直後の訃報。
幸宏さんも闘病中でトリビュートコンサート後はツイートしていないけど、
どうされているのかな…と気になっていたところでした。

それでも、YMOのメンバーの中では特に細野さんの仕事を追っていた私は、
幸宏さんはそこまで深く追いかけてライヴを見に行っていたわけでもなかったので、
自分でもこんなにも衝撃を受け、何日も引きずってしまうのが意外でした。

↑ニューヨーク・タイムズ紙オンラインにも掲載された訃報

全世界、各業界からの幸宏さんを惜しむ声が聞こえてきましたが、
もちろんYMOのメンバーお二人もそれぞれの心境を投稿しています。

今まで詳しくここに書いたことがありませんでしたが、
私が(運動会のBGMとしてではなく)YMOを聴くようになったのは21世紀に入ってからのことです。

その当時よく聞いていたyes mama, ok?の曲が入っているSOUND DICTIONARYという無料配布のカセットがあり、
それがスネークマン・ショーの生みの親である桑原茂一氏によるフリーペーパーのカセット版であることを知りました。

高校の頃、モンティ・パイソンが大好きだった私は、
同級生から「ミウモちゃんは絶対スネークマン・ショーが好きだと思うよ!」と言われていたことを思い出し、
レンタルショップで借りてきたのが
「スネークマン・ショー(急いで口で吸え!)」とYMOの「増殖」のCDだったわけです。

奇しくもその頃、YMO復活の序章とも言える細野さんと幸宏さんのユニットSKETCH SHOWが結成され、
すっかりYMOが好きになっていた私はそのライヴに足を運び、
初めてYMOのお三方が揃った姿を生で見ることが出来たのでした。

それからはSKETCH SHOWの細野さんと幸宏さんがオススメするエレクトロニカの曲をレコード屋で探したり、
触発されて自分で好きな曲を発掘してきたり… お二人のおかげで毎日音楽を聴く喜びに満ち溢れていました。

幸宏さんは、ミカバンドやYMOといった懐かしの音楽に関わっていた伝説的な人というだけでなく、
私にとっては、現在進行形で面白く新しい音楽を紹介し、
自らも先鋭的な音楽を発信し続ける現役のミュージシャンだったのです。

だからこそ、何故こんなにも早く行ってしまったのかと…
行くことになってしまったのかと、本当に残念でなりません。

Out There (feat. Yukihiro Takahashi)

幸宏さんが大好きだったLali Punaとの共演曲↑

 

改めて幸宏さんの曲を聴き返すと、思った以上に思い入れのある曲が多くて、
METAFIVEのような最近の曲や数十年前のミカバンドやソロ曲を行ったり来たりしていると、
この曲20代の頃よく聴いてたわー!とか、
前はそんなに聴いてなかったけど今はこの曲好きだわー、などと色々と発見があります。

ちなみに私が10代の時、初めて幸宏さんを歌うドラマーだとはっきり認識したのは、
東京スカパラダイスオーケストラとの共演曲でした。

80年代の曲を聴いていると、不思議と英国の空気まで思い出します。
濡れた石畳の上を、ひんやりとした空気の中、一人ロンドンの街を散歩するような、
しっとりと、懐かしい時間。

高橋幸宏- Drip Dry Eyes (Official Music Video)

そしてテレビでの幸宏さんを思い出すと、思わずニヤニヤしちゃったり。
♪二人揃って、流してまぁ〜す!

竹中直人と高橋幸宏の流しのチャーリーボブ彦ジャッキーテル彦

 

とびっきりオシャレだけれど、どこかふんわりとした愉快な雰囲気もあり、
人と人を繋ぐような気遣いの人でもあり、その一方で最高にクールでタイトなドラマーでもあり。

よく細野さんを天才、教授を奇才を表現して、
「僕は凡人で太鼓持ち。ドラマーだけに」なんて謙遜して仰ってたけれど、
その二人にもない特別な輝きを持っていた幸宏さんこそ、本当のYMOの「主役」だったんだな。
今はそんな風に思っています。

幸宏さん、安らかに…

NHK MUSIC SPECIAL 高橋幸宏 創造の軌跡

NHK MUSIC SPECIAL 高橋幸宏 創造の軌跡

総合 2023年2月16日(木)午後10:00~10:45 惜しまれつつ亡くなった高橋幸宏の足跡を辿る特番が放送決定

NHK MUSIC

 

NHKの特集番組があるそうですよ!↑

 

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