数珠ブレスうさんくさ男は、数日のうちに
夫と会った時の様子を伝えにやって来ました。
夫はなんと、一人で出稼ぎに行かされていました。
長距離トラックの運転手として寮に入っていたのでした。
初めて人に使われる厳しさを知り
寒い中での洗車や
自分より年下の人間に命令されるのがつらいと言って
涙を浮かべていたそうです。
またこのおっさんが、しみじみと語り部のように話すのです。
両親はそれを聞いてワンワン泣いていました。
三人で酔っとれ…
入って二ヶ月足らずですが
最初の給料の大半は
I子が集金に来て持って行ってしまったそうです。
「だから、お金と…それから寮は寒いので
毛布を持って来て欲しいと頼まれましたよ」
また金かよ…
「今夜また行って来るから、お金と毛布を用意してください」
「わかりました」
ところで…私は善人気取りうさんくさ男にたずねました。
「夫がその会社にいることを
どうやってお知りになったんですか?」
「それは…まぁ、蛇の道は蛇というか…」
一瞬ですが、蛇うさんくさ男の目は
向かい側に座る義母に注がれ、再び泳ぎました。
やっぱり…
義母は、いつからかまたこっそり夫に送金するようになっていたわけです。
親子ですから、無理もありません。
甘やかし、なめ回して育てた我が子が
そのような憂き目に遭っているのですから
時々金を送るのなんか終わりにして
そりゃあ何とかして一日でも早く連れ戻したいことでしょう。
以前夫が「ちっとも暖かくない」と文句をつけた毛布と
封筒に入れた三万円を用意しました。
封筒には折った便せんを数枚入れたので、厚みは申し分ありません。
家出をしておいて金の無心なんて、芸が無いにもほどがあります。
しょせん、外の風は冷たかったということでしょう。
じきに帰って来る気配は濃厚だし
本当に夫の手に渡るかどうかも未知なのです。
大判振る舞いなど、できません。
夫はごく近いうちに帰って来る…。
私はアパート探しを始めました。
しかし、思いのほか難航です。
転校したくない、という子供たちの希望に添えば
範囲が限られます。
しかもアパートの数からして少ない田舎。
腕白盛りの男の子を二人連れた母に
喜んで部屋を貸す所は少ないのです。
名字を名乗っただけで
「面倒なことになったら困るから」
と断る不動産屋もありました。
さて夫は、達成感で頬を染めたうさんくさ男に連れられて
ほどなく帰って来ました。
よそで使われるつらさから解放されて
帰れる時を指折り数えて待っていたくせに
今回もプンプン、ツンツン
「しかたなく帰って来てやった」を装い、ご苦労なことです。
義母はいそいそと別室に夫の寝床を用意しました。
息子の帰還が嬉しくてたまらない様子です。
今回は、働くのが嫌で逃げて来ただけなんだぞ…
そろそろ自分の子を知れよ…
帰ってきたことが、改心したことにはならないのです。
しかし、親にしてみればそんなことはどうでもいいことでした。
とりあえず今さえ良ければいい…の性格は遺伝だと
あらためて思いました。
私は、毛布一枚用意してもらえないI子との関係に
もっと別の何かがあると感じていました。
夫と会った時の様子を伝えにやって来ました。
夫はなんと、一人で出稼ぎに行かされていました。
長距離トラックの運転手として寮に入っていたのでした。
初めて人に使われる厳しさを知り
寒い中での洗車や
自分より年下の人間に命令されるのがつらいと言って
涙を浮かべていたそうです。
またこのおっさんが、しみじみと語り部のように話すのです。
両親はそれを聞いてワンワン泣いていました。
三人で酔っとれ…
入って二ヶ月足らずですが
最初の給料の大半は
I子が集金に来て持って行ってしまったそうです。
「だから、お金と…それから寮は寒いので
毛布を持って来て欲しいと頼まれましたよ」
また金かよ…
「今夜また行って来るから、お金と毛布を用意してください」
「わかりました」
ところで…私は善人気取りうさんくさ男にたずねました。
「夫がその会社にいることを
どうやってお知りになったんですか?」
「それは…まぁ、蛇の道は蛇というか…」
一瞬ですが、蛇うさんくさ男の目は
向かい側に座る義母に注がれ、再び泳ぎました。
やっぱり…
義母は、いつからかまたこっそり夫に送金するようになっていたわけです。
親子ですから、無理もありません。
甘やかし、なめ回して育てた我が子が
そのような憂き目に遭っているのですから
時々金を送るのなんか終わりにして
そりゃあ何とかして一日でも早く連れ戻したいことでしょう。
以前夫が「ちっとも暖かくない」と文句をつけた毛布と
封筒に入れた三万円を用意しました。
封筒には折った便せんを数枚入れたので、厚みは申し分ありません。
家出をしておいて金の無心なんて、芸が無いにもほどがあります。
しょせん、外の風は冷たかったということでしょう。
じきに帰って来る気配は濃厚だし
本当に夫の手に渡るかどうかも未知なのです。
大判振る舞いなど、できません。
夫はごく近いうちに帰って来る…。
私はアパート探しを始めました。
しかし、思いのほか難航です。
転校したくない、という子供たちの希望に添えば
範囲が限られます。
しかもアパートの数からして少ない田舎。
腕白盛りの男の子を二人連れた母に
喜んで部屋を貸す所は少ないのです。
名字を名乗っただけで
「面倒なことになったら困るから」
と断る不動産屋もありました。
さて夫は、達成感で頬を染めたうさんくさ男に連れられて
ほどなく帰って来ました。
よそで使われるつらさから解放されて
帰れる時を指折り数えて待っていたくせに
今回もプンプン、ツンツン
「しかたなく帰って来てやった」を装い、ご苦労なことです。
義母はいそいそと別室に夫の寝床を用意しました。
息子の帰還が嬉しくてたまらない様子です。
今回は、働くのが嫌で逃げて来ただけなんだぞ…
そろそろ自分の子を知れよ…
帰ってきたことが、改心したことにはならないのです。
しかし、親にしてみればそんなことはどうでもいいことでした。
とりあえず今さえ良ければいい…の性格は遺伝だと
あらためて思いました。
私は、毛布一枚用意してもらえないI子との関係に
もっと別の何かがあると感じていました。