男というのは、まことにかわいそうな生き物です。
“我が家”とは申しますが、我が家のどこにも
秘密を隠せる場所がありません。
夫が寝室にしている部屋で
季節の洋服を入れ替えていた私は
衣類の隙間に押し込まれていた困ったものを見つけてしまいました。
一糸まとわぬ裸の女性のポラロイド写真数枚。
グラビアモデル気取りでポーズを取る女性…。
30代前半というところでしょうか。
股を大きく広げて、大事なところを正面から写したのまであります。
げ…
美人でスタイルも良いかたですが
胸やお腹に妊娠線の痕跡があるので、一般のお母さんです。
今さら何をコレクションしてもかまいませんが
年頃の男の子がいることも考えてもらいたいものです。
その時は、だまって捨ててしまいました。
携帯電話が一般に普及して久しく、夫のことは完全に野放しでした。
私にとってそれは、一種の安堵でした。
嫌がらせの電話を受けることがなくなり
腹を立てる必要がなくなったからです。
うるさい…面倒臭い…
おまえらの「シモ」のことで人に迷惑かけるな、という怒りです。
しかし、もしもまだ、夫を信じて疑わない自分だったら
またはうすうす何かを感じていて、どうにかしたい自分だったら
携帯の存在にとても苦しんでいたと思います。
便利な携帯に支配された婚外恋愛は、発覚した時が大変です。
こんな便利なものを利用していながら発覚するのは
携帯を見られた、何か態度に出てしまったなど
大きなヘマをやらかした結果です。
連絡の取りやすさによって深く密かに進行した恋は
予兆もなく一気に白日のもとにさらされ
したほうは、恥ずかしいやら情けないやらで動揺しまくりでしょう。
されたほうは、疑惑や気配などの助走期間のないまま
一気に証拠を突きつけられるのですから、その衝撃は計り知れません。
バレた者は、そこで何が一番怖いかというと
暴風圏内に入ってしまった家庭ではなく
失いそうな恋でもなく
メールで浮気相手に信じ込ませた
とってもステキな自分の虚像の崩壊です。
のぼせ上がっているピエロにとって
本当の自分を知られてしまうのが最高の恐怖なのです。
したてに出て謝ったりしたら
図に乗った配偶者は何をするかわかりません。
謝った時点で、刑が確定します。
運が良ければ執行猶予ですが、自白の強要は必至です。
悪くすると死刑に値する
「相手の所へ乗り込んで何もかも暴露される」
の刑かもしれません。
それを少しでも先延ばしにし
ほとぼりが冷める期間を確保するには
逆ギレのふりをして居丈高に振る舞い
「何を考えているのかわからない」ふうを装うのが
とりあえずの安全策です。
ピエロのガラスのハートは
すでに不倫相手云々の騒ぎではなく
おのれの命の象徴とも言える理想像を死守するために
苦肉の策をこうじているだけなのですが
配偶者は配偶者で
「悪いことをしておいて謝罪の言葉もない」
「そこまで相手をかばうのか」
といっそう傷つき嘆いて消耗する…。
携帯電話はそんな争点のちぐはぐが生じやすく
離婚増加の一因ではないかと思います。
夫は待望?の厄年を迎えました。
変わったことといえば、扁桃腺炎で入院しました。
下の妹の結婚式が北海道で行われ
夫婦で出席した時に風邪をひいたのです。
三日間、真冬の札幌でこっそり外に抜け出しては
夜昼なく電話やメールをしまくっていました。
あの素っ裸のネエちゃんかいな…
人目を避けるためにホテルの非常階段に出て
ラブコールをしていたら閉め出され
長時間凍えて、すっかりこじらせてしまったのでした。
凍死しろ…
命からがら部屋へ戻り
真っ青な顔で震えている夫を見て、心から思ったものです。
夫は私には悪行三昧ですが
昔から私の父とはなぜか仲が良いのです。
父にとって夫は「娘を苦しめる悪い婿」ではなく
かわいい息子のままでした。
夫もまた、おだやかな父が大好きだと言います。
「彼と君は、相性が良すぎて
かえってぶつかり合ってしまうんだ。
つらいだろうが、もう少し辛抱してごらん。
あの子はきっと改心して、君を幸せにするよ」
滞在中、父は幾度となくそう言うのでした。
M子の時、子供を置いて帰るようにと言う祖父にあえて反対しなかったのは
そうすれば絶対私が離婚しないと考えていたからだそうです。
父に言わせれば、私は離婚に向いておらず
さらに苦労を背負い込むだけに思えるのだそうです。
無関心に見えた父が、内容はどうあれ
わりといろいろ考えてくれていたのを知り
驚きましたが、嬉しくもありました。
せめて離婚しないのが唯一の親孝行だろうか…。
うぅ…痛いぜ…
夫はこの際、昔から難聴だった片耳を手術して
人工鼓膜にすることになりました。
一応全身麻酔なので、術中は身内が付き添う決まりだそうです。
義父が付き添いを申し出ましたが、病院から
「奥さんがいるのになぜ?」
と言われ、私が行くことになりました。
明日手術…という日の夜、義母が泣きながら電話をしてきました。
声を聞くのは九州以来5年ぶりのことでした。
開口一番
「あの子、死ぬかもしれない…」
「死にませんよ」
「でも、大手術らしいわ。頭だもん。どうしよう…」
「同じ手術するんなら、下半身切るとか
もぐとか、してもらやいいのにさ」
「ワハハ!本当よ~!」
5年の空白は、これで終了でした。
“我が家”とは申しますが、我が家のどこにも
秘密を隠せる場所がありません。
夫が寝室にしている部屋で
季節の洋服を入れ替えていた私は
衣類の隙間に押し込まれていた困ったものを見つけてしまいました。
一糸まとわぬ裸の女性のポラロイド写真数枚。
グラビアモデル気取りでポーズを取る女性…。
30代前半というところでしょうか。
股を大きく広げて、大事なところを正面から写したのまであります。
げ…
美人でスタイルも良いかたですが
胸やお腹に妊娠線の痕跡があるので、一般のお母さんです。
今さら何をコレクションしてもかまいませんが
年頃の男の子がいることも考えてもらいたいものです。
その時は、だまって捨ててしまいました。
携帯電話が一般に普及して久しく、夫のことは完全に野放しでした。
私にとってそれは、一種の安堵でした。
嫌がらせの電話を受けることがなくなり
腹を立てる必要がなくなったからです。
うるさい…面倒臭い…
おまえらの「シモ」のことで人に迷惑かけるな、という怒りです。
しかし、もしもまだ、夫を信じて疑わない自分だったら
またはうすうす何かを感じていて、どうにかしたい自分だったら
携帯の存在にとても苦しんでいたと思います。
便利な携帯に支配された婚外恋愛は、発覚した時が大変です。
こんな便利なものを利用していながら発覚するのは
携帯を見られた、何か態度に出てしまったなど
大きなヘマをやらかした結果です。
連絡の取りやすさによって深く密かに進行した恋は
予兆もなく一気に白日のもとにさらされ
したほうは、恥ずかしいやら情けないやらで動揺しまくりでしょう。
されたほうは、疑惑や気配などの助走期間のないまま
一気に証拠を突きつけられるのですから、その衝撃は計り知れません。
バレた者は、そこで何が一番怖いかというと
暴風圏内に入ってしまった家庭ではなく
失いそうな恋でもなく
メールで浮気相手に信じ込ませた
とってもステキな自分の虚像の崩壊です。
のぼせ上がっているピエロにとって
本当の自分を知られてしまうのが最高の恐怖なのです。
したてに出て謝ったりしたら
図に乗った配偶者は何をするかわかりません。
謝った時点で、刑が確定します。
運が良ければ執行猶予ですが、自白の強要は必至です。
悪くすると死刑に値する
「相手の所へ乗り込んで何もかも暴露される」
の刑かもしれません。
それを少しでも先延ばしにし
ほとぼりが冷める期間を確保するには
逆ギレのふりをして居丈高に振る舞い
「何を考えているのかわからない」ふうを装うのが
とりあえずの安全策です。
ピエロのガラスのハートは
すでに不倫相手云々の騒ぎではなく
おのれの命の象徴とも言える理想像を死守するために
苦肉の策をこうじているだけなのですが
配偶者は配偶者で
「悪いことをしておいて謝罪の言葉もない」
「そこまで相手をかばうのか」
といっそう傷つき嘆いて消耗する…。
携帯電話はそんな争点のちぐはぐが生じやすく
離婚増加の一因ではないかと思います。
夫は待望?の厄年を迎えました。
変わったことといえば、扁桃腺炎で入院しました。
下の妹の結婚式が北海道で行われ
夫婦で出席した時に風邪をひいたのです。
三日間、真冬の札幌でこっそり外に抜け出しては
夜昼なく電話やメールをしまくっていました。
あの素っ裸のネエちゃんかいな…
人目を避けるためにホテルの非常階段に出て
ラブコールをしていたら閉め出され
長時間凍えて、すっかりこじらせてしまったのでした。
凍死しろ…
命からがら部屋へ戻り
真っ青な顔で震えている夫を見て、心から思ったものです。
夫は私には悪行三昧ですが
昔から私の父とはなぜか仲が良いのです。
父にとって夫は「娘を苦しめる悪い婿」ではなく
かわいい息子のままでした。
夫もまた、おだやかな父が大好きだと言います。
「彼と君は、相性が良すぎて
かえってぶつかり合ってしまうんだ。
つらいだろうが、もう少し辛抱してごらん。
あの子はきっと改心して、君を幸せにするよ」
滞在中、父は幾度となくそう言うのでした。
M子の時、子供を置いて帰るようにと言う祖父にあえて反対しなかったのは
そうすれば絶対私が離婚しないと考えていたからだそうです。
父に言わせれば、私は離婚に向いておらず
さらに苦労を背負い込むだけに思えるのだそうです。
無関心に見えた父が、内容はどうあれ
わりといろいろ考えてくれていたのを知り
驚きましたが、嬉しくもありました。
せめて離婚しないのが唯一の親孝行だろうか…。
うぅ…痛いぜ…
夫はこの際、昔から難聴だった片耳を手術して
人工鼓膜にすることになりました。
一応全身麻酔なので、術中は身内が付き添う決まりだそうです。
義父が付き添いを申し出ましたが、病院から
「奥さんがいるのになぜ?」
と言われ、私が行くことになりました。
明日手術…という日の夜、義母が泣きながら電話をしてきました。
声を聞くのは九州以来5年ぶりのことでした。
開口一番
「あの子、死ぬかもしれない…」
「死にませんよ」
「でも、大手術らしいわ。頭だもん。どうしよう…」
「同じ手術するんなら、下半身切るとか
もぐとか、してもらやいいのにさ」
「ワハハ!本当よ~!」
5年の空白は、これで終了でした。