二ヶ月後、義母は元気に退院しました。
入院、手術で大事にされ、すっかり姫様気分を味わった義母は
大変なわがまま婆さんと化していました。
自分を「病人さん」と呼び
「病人さんが食べたがるものを作るようにしてちょうだい」
「私は病人さんなんだから、一番大事にしてもらわなければね」
まるで地球を救ったような威張りようですが
あれだけの目に遭ったんだから
しばらくは無理もないと思っていました。
仕事を失った私は、空虚な気持ちにさいなまれていました。
夫のこと、家のこと…色々な問題をなんとかくぐり抜けて来られたのは
仕事という避難所と、わずかながら毎月手にするお金から得る力だと
痛感していました。
半年がたち、義母も泊まりがけの旅行に行けるほど回復したので
新しい仕事を探し始めました。
面接日を知らせる電話を義母が取ったため
ややこしいことになりました。
「また働きに出るつもり?」
病後、明るいのんびり屋さんから
天下御免のツボネへと進化した義母は、あからさまに不満そうでした。
「はい」
こっちは自立して子供を育てなければならないのです。
「それって、いつ何が起きるかわからない
病人さんを放って外出するってことよね」
旅行はええんかい…
「嫁として、それで役目が果たせるの?」
「お義姉さんもそばにいるし」
「私に何かあったら、全部あの子に押しつけるつもり?」
「通報や連絡くらい出来るでしょう」
「あの子はね、もうよそへ嫁いだ人間なの。
実家のことでわずらわせることはできないのっ!」
すごい理論ですが、こんなことで驚いていては生きていけません。
「じゃあ、働きに出るなということですね」
「ダメとは言わないわ。
娘は一人っ子と結婚したんだから
いつかはあっちの親の面倒を見ることになるでしょ。
その時は、家のことも会社のことも、全部あなたに任せるつもりよ。
だから、よそへ勤めても辞めることになるじゃない」
「それ、いつです?」
「それは…いずれそのうち、時期が来たら…」
「今」しか見えない義母が精一杯阻止しようと
言葉を尽くしているのがわかりました。
「いずれそのうち…」は、彼らの常套句です。
時期が来たら…出来るようになったら…。
賢くない私は、この手法で何度もだまされました。
でも、言ったほうは決して嘘はついてないのです。
やる気はあったけど、ただ時期が来なかっただけ…
出来るようにならなかっただけです。
オトナの方便…善処と同じです。
しかし、私はあることを考えつきました。
離婚したって同じ職場で働く人はいる…。
そしてこの頃、困ったことに
将来を考える年齢になった長男が、家業に強い興味を示していました。
「やりたい仕事と家の仕事が同じで、僕は幸せだ…」
自分の生んだ子供です。
あまり優秀でないのは承知していました。
何が何でも引き離して、就職で苦労させるのも道なら
ここは選択肢を一つキープしておいてやるのも愛かもしれない…。
そんな思いもありました。
「じゃあ、お義母さん、私、明日から会社行きます!」
「ええっ?」
「そしたら、お義母さんに何かあっても
すぐ駆けつけられますよね!」
「ちょっと…待って…お父さんが何て言うか…」
「お義父さんには私が言います。
大丈夫ですよ。I子だって入れたんだから
私も入れてくれますよ」
たまには私も一矢報いたい気分でした。
義母の入院で仕事を辞めた自分…。
ほとんど何もしなかったのに給料を貰い続け
仕事を失う懸念すら無かった上に
両親から看病の礼金までせしめた義姉…。
この差が気に入りませんでした。
翌日から、出社しました。
止める者はいません。
なぜ止めるのか…の問題になった時、言い訳が難しいからです。
I子を入れて私を入れないもっともな理由が
誰にも思い浮かばなかったからでした。
入院、手術で大事にされ、すっかり姫様気分を味わった義母は
大変なわがまま婆さんと化していました。
自分を「病人さん」と呼び
「病人さんが食べたがるものを作るようにしてちょうだい」
「私は病人さんなんだから、一番大事にしてもらわなければね」
まるで地球を救ったような威張りようですが
あれだけの目に遭ったんだから
しばらくは無理もないと思っていました。
仕事を失った私は、空虚な気持ちにさいなまれていました。
夫のこと、家のこと…色々な問題をなんとかくぐり抜けて来られたのは
仕事という避難所と、わずかながら毎月手にするお金から得る力だと
痛感していました。
半年がたち、義母も泊まりがけの旅行に行けるほど回復したので
新しい仕事を探し始めました。
面接日を知らせる電話を義母が取ったため
ややこしいことになりました。
「また働きに出るつもり?」
病後、明るいのんびり屋さんから
天下御免のツボネへと進化した義母は、あからさまに不満そうでした。
「はい」
こっちは自立して子供を育てなければならないのです。
「それって、いつ何が起きるかわからない
病人さんを放って外出するってことよね」
旅行はええんかい…
「嫁として、それで役目が果たせるの?」
「お義姉さんもそばにいるし」
「私に何かあったら、全部あの子に押しつけるつもり?」
「通報や連絡くらい出来るでしょう」
「あの子はね、もうよそへ嫁いだ人間なの。
実家のことでわずらわせることはできないのっ!」
すごい理論ですが、こんなことで驚いていては生きていけません。
「じゃあ、働きに出るなということですね」
「ダメとは言わないわ。
娘は一人っ子と結婚したんだから
いつかはあっちの親の面倒を見ることになるでしょ。
その時は、家のことも会社のことも、全部あなたに任せるつもりよ。
だから、よそへ勤めても辞めることになるじゃない」
「それ、いつです?」
「それは…いずれそのうち、時期が来たら…」
「今」しか見えない義母が精一杯阻止しようと
言葉を尽くしているのがわかりました。
「いずれそのうち…」は、彼らの常套句です。
時期が来たら…出来るようになったら…。
賢くない私は、この手法で何度もだまされました。
でも、言ったほうは決して嘘はついてないのです。
やる気はあったけど、ただ時期が来なかっただけ…
出来るようにならなかっただけです。
オトナの方便…善処と同じです。
しかし、私はあることを考えつきました。
離婚したって同じ職場で働く人はいる…。
そしてこの頃、困ったことに
将来を考える年齢になった長男が、家業に強い興味を示していました。
「やりたい仕事と家の仕事が同じで、僕は幸せだ…」
自分の生んだ子供です。
あまり優秀でないのは承知していました。
何が何でも引き離して、就職で苦労させるのも道なら
ここは選択肢を一つキープしておいてやるのも愛かもしれない…。
そんな思いもありました。
「じゃあ、お義母さん、私、明日から会社行きます!」
「ええっ?」
「そしたら、お義母さんに何かあっても
すぐ駆けつけられますよね!」
「ちょっと…待って…お父さんが何て言うか…」
「お義父さんには私が言います。
大丈夫ですよ。I子だって入れたんだから
私も入れてくれますよ」
たまには私も一矢報いたい気分でした。
義母の入院で仕事を辞めた自分…。
ほとんど何もしなかったのに給料を貰い続け
仕事を失う懸念すら無かった上に
両親から看病の礼金までせしめた義姉…。
この差が気に入りませんでした。
翌日から、出社しました。
止める者はいません。
なぜ止めるのか…の問題になった時、言い訳が難しいからです。
I子を入れて私を入れないもっともな理由が
誰にも思い浮かばなかったからでした。