仲居というのは、なかなか味のある仕事です。
一晩にお座敷のいくつかを受け持って
お客様が楽しい時間を過ごせるように
板場と連携して料理を出すタイミングをはかったり
座の雰囲気を察して気配を消したり
求められれば会話に入ったり…。
自分の裁量ひとつでお座敷を回していく面白さ
「楽しかった」と言われる時の喜び…。
自分に適している仕事だと実感しました。
二階は宴会場になっていて
割安のセット料金で飲食ができるシステムもありました。
週に二度は順番で宴会を手伝うのですが
宴会場には「公(こう)」という隠語がありました。
呼んで字のごとくです。
「今日のお客様は公」と聞くと
料理のテイクアウト用のパックと紙袋を多めに用意します。
食中毒防止の観点から、テイクアウトは通常禁止ですが
「公」の方には通用しません。
お断りして険悪なムードになるよりは…ということです。
お帰りになるまで、食べ残しが少しでも新鮮さを保つよう
それとわからないように涼しい所に置いたり
生ものはこっそり廃棄したり…宴会中はかなり気を使います。
そのかわり、後片付けは楽です。
刺身のツマ(サラダに)、蟹の殻(ダシに)
ワサビや大根おろしまで持って行ってくださるので。
後にはきれいになったお皿や鉢が残っているだけです。
宴会が終わると、必ず数名の方が残っておられます。
酔ったふり、話が盛り上がったふりをして座り込み
みんながいなくなると、おもむろに立ち上がって行動開始です。
これはさすがにいらないだろう…と思って片付けようとすると
「待て!まだ置いておけ!」
とものすごく怒ります。
そして各自けん制し合いながら
慣れた手つきで残ったものをせっせとパックに詰めます。
一人で何個も使うので、たくさんのパックがいります。
「子供が喜ぶから」
「犬に…」
子供という名の奥様や、犬という名のご家族が
お土産を待っておられるのでしょう。
たいてい、中年の男性でした。
マイホームパパでしょうか。
大きくふくらんだ紙袋を抱え、大満足で帰って行かれます。
良い悪いではありません。
もちろん、お仕事もちゃんとやっていらっしゃるでしょう。
ただ、公のかたの中の必ず一割から二割に
このパック男が存在する現象を興味深く思いました。
靴を見るとその人がわかる…というのも本当です。
初めてのお客様でも、顔を見ないうちから
靴でおよそのことはわかりました。
お客様の大半を占める
綺麗に磨かれた上質な靴が並んでいるお座敷は
静かで明るく、わがままを言わないので手がかかりません。
何より安全です。
その靴を買う経済力と
それを磨き管理する良き妻を得ている人は
いばったり、無理を言ったりしません。
ボロ・古・安の靴が混じっているお座敷は要注意です。
メンバーの中に、立場上、卑屈にならざるを得ない人がいることを
表しているので、楽しい雰囲気になるよう心がけます。
仕事を回してもらっている、援助してもらっているなど
経済的上下、つまり強者と弱者の席だからです。
「板長を呼べ!」
「着物の下には何をはいてるんだ」
などと言い出すのもそういう座敷の人です。
自分の強さを見せびらかすのです。
だからどうした…というところですが
人間観察にはもってこいの職場ではありました。
同僚にも面白い人がたくさんいました。
単なる割りのいい仕事として来ている普通の奥さん
留学費用を貯めている学生
ホステスさんの終着駅として働く人
事情があってどこかから逃げて来た人…。
借金組は悲惨でした。
日払いの金融業者から借りている人には、店に毎日電話がかかります。
逃げてないかを確認するためらしいです。
そういう人が、元は社長夫人だったりするのです。
物腰や身に付けているもので、過去の隆盛がしのばれました。
業績不振から銀行、商工ローン、カードローン、サラ金と進んで
最後は高金利の日払いやトイチの闇金に手を出すのです。
毎日その日の日当を現金でもらっては翌日支払っていました。
自己破産なりして抜け出す方法はあると思うのですが
保証人が自分はおろか娘婿の親にまで及んでいたり
借金の元である夫が行方不明だったりで
弁護士に相談しても、どうにもならないのだそうです。
個人でなく会社単位だと、負債の額も大きく
話を聞くだけで頭が痛くなりました。
仲良くすると、金を貸してくれと言われるので
気をつけるようにと先輩から注意されたこともあります。
新入りは皆やられるそうです。
私はその話を聞く前に、すでに何万か貸していました。
もちろん戻っていませんが、後悔はしていません。
返してもらうつもりで貸すのは金貸しだけです。
そういう人は、返済のお金には困っているのに
なぜかランチを食べに行くお金はあるのです。
昨日泣きながら人からお金を借りて
今日は「ごはん食べに行こう」と明るく言えるのです。
「つらい人生だけど、時には息抜きも必要」
と言いながら、喫茶店でコーヒーも飲めるのです。
息抜きばっかりだからこうなったんじゃないのか…
もはやこれまで…という引き際を見極められずに
いったん負のスパイラルに巻き込まれると
なかなか出られないのだろうな…
しかしそれは性格に起因することも大きいな…と思いました。
良い勉強をさせてもらいました。
さて、一人暮らしのアパートに
夫が長男を伴って突然やって来ました。
久しぶりに会った長男は、私が痩せているのを見て
かわいそうだと泣き出しました。
ちがうんだよ…
ゾウリはいて走り回ってたら、こうなっちゃったんだよ…
12キロやせていました。
ゾウリはキキます。
一晩にお座敷のいくつかを受け持って
お客様が楽しい時間を過ごせるように
板場と連携して料理を出すタイミングをはかったり
座の雰囲気を察して気配を消したり
求められれば会話に入ったり…。
自分の裁量ひとつでお座敷を回していく面白さ
「楽しかった」と言われる時の喜び…。
自分に適している仕事だと実感しました。
二階は宴会場になっていて
割安のセット料金で飲食ができるシステムもありました。
週に二度は順番で宴会を手伝うのですが
宴会場には「公(こう)」という隠語がありました。
呼んで字のごとくです。
「今日のお客様は公」と聞くと
料理のテイクアウト用のパックと紙袋を多めに用意します。
食中毒防止の観点から、テイクアウトは通常禁止ですが
「公」の方には通用しません。
お断りして険悪なムードになるよりは…ということです。
お帰りになるまで、食べ残しが少しでも新鮮さを保つよう
それとわからないように涼しい所に置いたり
生ものはこっそり廃棄したり…宴会中はかなり気を使います。
そのかわり、後片付けは楽です。
刺身のツマ(サラダに)、蟹の殻(ダシに)
ワサビや大根おろしまで持って行ってくださるので。
後にはきれいになったお皿や鉢が残っているだけです。
宴会が終わると、必ず数名の方が残っておられます。
酔ったふり、話が盛り上がったふりをして座り込み
みんながいなくなると、おもむろに立ち上がって行動開始です。
これはさすがにいらないだろう…と思って片付けようとすると
「待て!まだ置いておけ!」
とものすごく怒ります。
そして各自けん制し合いながら
慣れた手つきで残ったものをせっせとパックに詰めます。
一人で何個も使うので、たくさんのパックがいります。
「子供が喜ぶから」
「犬に…」
子供という名の奥様や、犬という名のご家族が
お土産を待っておられるのでしょう。
たいてい、中年の男性でした。
マイホームパパでしょうか。
大きくふくらんだ紙袋を抱え、大満足で帰って行かれます。
良い悪いではありません。
もちろん、お仕事もちゃんとやっていらっしゃるでしょう。
ただ、公のかたの中の必ず一割から二割に
このパック男が存在する現象を興味深く思いました。
靴を見るとその人がわかる…というのも本当です。
初めてのお客様でも、顔を見ないうちから
靴でおよそのことはわかりました。
お客様の大半を占める
綺麗に磨かれた上質な靴が並んでいるお座敷は
静かで明るく、わがままを言わないので手がかかりません。
何より安全です。
その靴を買う経済力と
それを磨き管理する良き妻を得ている人は
いばったり、無理を言ったりしません。
ボロ・古・安の靴が混じっているお座敷は要注意です。
メンバーの中に、立場上、卑屈にならざるを得ない人がいることを
表しているので、楽しい雰囲気になるよう心がけます。
仕事を回してもらっている、援助してもらっているなど
経済的上下、つまり強者と弱者の席だからです。
「板長を呼べ!」
「着物の下には何をはいてるんだ」
などと言い出すのもそういう座敷の人です。
自分の強さを見せびらかすのです。
だからどうした…というところですが
人間観察にはもってこいの職場ではありました。
同僚にも面白い人がたくさんいました。
単なる割りのいい仕事として来ている普通の奥さん
留学費用を貯めている学生
ホステスさんの終着駅として働く人
事情があってどこかから逃げて来た人…。
借金組は悲惨でした。
日払いの金融業者から借りている人には、店に毎日電話がかかります。
逃げてないかを確認するためらしいです。
そういう人が、元は社長夫人だったりするのです。
物腰や身に付けているもので、過去の隆盛がしのばれました。
業績不振から銀行、商工ローン、カードローン、サラ金と進んで
最後は高金利の日払いやトイチの闇金に手を出すのです。
毎日その日の日当を現金でもらっては翌日支払っていました。
自己破産なりして抜け出す方法はあると思うのですが
保証人が自分はおろか娘婿の親にまで及んでいたり
借金の元である夫が行方不明だったりで
弁護士に相談しても、どうにもならないのだそうです。
個人でなく会社単位だと、負債の額も大きく
話を聞くだけで頭が痛くなりました。
仲良くすると、金を貸してくれと言われるので
気をつけるようにと先輩から注意されたこともあります。
新入りは皆やられるそうです。
私はその話を聞く前に、すでに何万か貸していました。
もちろん戻っていませんが、後悔はしていません。
返してもらうつもりで貸すのは金貸しだけです。
そういう人は、返済のお金には困っているのに
なぜかランチを食べに行くお金はあるのです。
昨日泣きながら人からお金を借りて
今日は「ごはん食べに行こう」と明るく言えるのです。
「つらい人生だけど、時には息抜きも必要」
と言いながら、喫茶店でコーヒーも飲めるのです。
息抜きばっかりだからこうなったんじゃないのか…
もはやこれまで…という引き際を見極められずに
いったん負のスパイラルに巻き込まれると
なかなか出られないのだろうな…
しかしそれは性格に起因することも大きいな…と思いました。
良い勉強をさせてもらいました。
さて、一人暮らしのアパートに
夫が長男を伴って突然やって来ました。
久しぶりに会った長男は、私が痩せているのを見て
かわいそうだと泣き出しました。
ちがうんだよ…
ゾウリはいて走り回ってたら、こうなっちゃったんだよ…
12キロやせていました。
ゾウリはキキます。