殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

裏話

2008年11月15日 11時45分02秒 | 不倫…戦いの記録
仲居というのは、なかなか味のある仕事です。


一晩にお座敷のいくつかを受け持って

お客様が楽しい時間を過ごせるように

板場と連携して料理を出すタイミングをはかったり

座の雰囲気を察して気配を消したり

求められれば会話に入ったり…。


自分の裁量ひとつでお座敷を回していく面白さ

「楽しかった」と言われる時の喜び…。

自分に適している仕事だと実感しました。


二階は宴会場になっていて

割安のセット料金で飲食ができるシステムもありました。

週に二度は順番で宴会を手伝うのですが

宴会場には「公(こう)」という隠語がありました。

呼んで字のごとくです。


「今日のお客様は公」と聞くと

料理のテイクアウト用のパックと紙袋を多めに用意します。

食中毒防止の観点から、テイクアウトは通常禁止ですが

「公」の方には通用しません。

お断りして険悪なムードになるよりは…ということです。


お帰りになるまで、食べ残しが少しでも新鮮さを保つよう

それとわからないように涼しい所に置いたり

生ものはこっそり廃棄したり…宴会中はかなり気を使います。


そのかわり、後片付けは楽です。

刺身のツマ(サラダに)、蟹の殻(ダシに)

ワサビや大根おろしまで持って行ってくださるので。

後にはきれいになったお皿や鉢が残っているだけです。


宴会が終わると、必ず数名の方が残っておられます。

酔ったふり、話が盛り上がったふりをして座り込み

みんながいなくなると、おもむろに立ち上がって行動開始です。


これはさすがにいらないだろう…と思って片付けようとすると

「待て!まだ置いておけ!」

とものすごく怒ります。

そして各自けん制し合いながら

慣れた手つきで残ったものをせっせとパックに詰めます。


一人で何個も使うので、たくさんのパックがいります。

「子供が喜ぶから」

「犬に…」

子供という名の奥様や、犬という名のご家族が

お土産を待っておられるのでしょう。

たいてい、中年の男性でした。

マイホームパパでしょうか。

大きくふくらんだ紙袋を抱え、大満足で帰って行かれます。


良い悪いではありません。

もちろん、お仕事もちゃんとやっていらっしゃるでしょう。

ただ、公のかたの中の必ず一割から二割に

このパック男が存在する現象を興味深く思いました。


靴を見るとその人がわかる…というのも本当です。

初めてのお客様でも、顔を見ないうちから

靴でおよそのことはわかりました。


お客様の大半を占める

綺麗に磨かれた上質な靴が並んでいるお座敷は

静かで明るく、わがままを言わないので手がかかりません。

何より安全です。


その靴を買う経済力と

それを磨き管理する良き妻を得ている人は

いばったり、無理を言ったりしません。


ボロ・古・安の靴が混じっているお座敷は要注意です。

メンバーの中に、立場上、卑屈にならざるを得ない人がいることを

表しているので、楽しい雰囲気になるよう心がけます。

仕事を回してもらっている、援助してもらっているなど

経済的上下、つまり強者と弱者の席だからです。

「板長を呼べ!」

「着物の下には何をはいてるんだ」
 
などと言い出すのもそういう座敷の人です。

自分の強さを見せびらかすのです。

だからどうした…というところですが

人間観察にはもってこいの職場ではありました。


同僚にも面白い人がたくさんいました。

単なる割りのいい仕事として来ている普通の奥さん

留学費用を貯めている学生

ホステスさんの終着駅として働く人

事情があってどこかから逃げて来た人…。


借金組は悲惨でした。

日払いの金融業者から借りている人には、店に毎日電話がかかります。

逃げてないかを確認するためらしいです。

そういう人が、元は社長夫人だったりするのです。

物腰や身に付けているもので、過去の隆盛がしのばれました。


業績不振から銀行、商工ローン、カードローン、サラ金と進んで

最後は高金利の日払いやトイチの闇金に手を出すのです。

毎日その日の日当を現金でもらっては翌日支払っていました。


自己破産なりして抜け出す方法はあると思うのですが

保証人が自分はおろか娘婿の親にまで及んでいたり

借金の元である夫が行方不明だったりで

弁護士に相談しても、どうにもならないのだそうです。

個人でなく会社単位だと、負債の額も大きく

話を聞くだけで頭が痛くなりました。


仲良くすると、金を貸してくれと言われるので

気をつけるようにと先輩から注意されたこともあります。

新入りは皆やられるそうです。

私はその話を聞く前に、すでに何万か貸していました。

もちろん戻っていませんが、後悔はしていません。

返してもらうつもりで貸すのは金貸しだけです。


そういう人は、返済のお金には困っているのに

なぜかランチを食べに行くお金はあるのです。

昨日泣きながら人からお金を借りて

今日は「ごはん食べに行こう」と明るく言えるのです。

「つらい人生だけど、時には息抜きも必要」

と言いながら、喫茶店でコーヒーも飲めるのです。

       息抜きばっかりだからこうなったんじゃないのか…


もはやこれまで…という引き際を見極められずに

いったん負のスパイラルに巻き込まれると

なかなか出られないのだろうな…

しかしそれは性格に起因することも大きいな…と思いました。

良い勉強をさせてもらいました。



さて、一人暮らしのアパートに

夫が長男を伴って突然やって来ました。

久しぶりに会った長男は、私が痩せているのを見て

かわいそうだと泣き出しました。


           ちがうんだよ…

   ゾウリはいて走り回ってたら、こうなっちゃったんだよ…


12キロやせていました。

ゾウリはキキます。

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お水の鼻水

2008年11月14日 10時18分06秒 | 不倫…戦いの記録
「恥知らずが!死んでしまえ!」

おばさんは昔から夫をかわいがっていましたが

こんな一面があるとは知らなかったのです。


「あんたのとこは、みんなおかしい!

 前の女の時だって、あんたの母親は

 せっかく先生とつきあったんだから

 できたら結婚させてやりたいなんてほざいた。

 昔はあんな女じゃなかったのに!

 狂ってるんだ!

 キチ○イ一家だ!」  


おばさんに襟首をつかまれたまま

夫はしばらくゆらゆらとゆすられていました。


「俺もどうしていいのかわからないんだよう…

 帰ってほしいのは本当なんだ。

 でも、今は女と別れたくないのも本当なんだ。

 自分でも、どうにもならないんだ」


「それを断ち切るのが人間じゃないのかえ?

 汚れた体で、よくもうちの敷居がまたげたもんだ!」


「…こいつが出て行ったとわかった時

 お袋はこいつの茶碗を玄関で割ったんだよう」


「茶碗を…?」

葬式の時にやる、アレです。 
 

「オレ、どうしていいかわからなくなって…

 早く帰ってもらわないと、大変なことになるような気がして…」 


「それで毎晩はるばる通ったってわけかい」

海千山千のおばさんも、さすがに驚いたようでした。

「そんな家へ、なおさらおめおめ帰らせるわけにはいかんね!」


子供たちの連休は明日で終わり。

住民票の移動や転校手続きは

落ち着き先が決まり次第、妹がしてくれることになっていました。

しかし、興奮したおばさんが気分が悪くなったため

そちらに気をとられている間に、夫は子供たちを誘い出しました。

「ジュースを買いに行こう」


それっきり、どこへ買いに行ったのやら、戻ってきませんでした。

連れ去られたのです。

いつの間に持ち出したのか、子供たちの荷物も無くなっていました。


             うっそ~ん…


子供を取り返して強気になった義母は

翌日からジャンジャン電話をしてきました。

黙って家を出たことも怒っていますが

自分の親戚へ逃げ込まれたことで、さらに怒り狂っていました。


「とにかく帰って来るように。今なら謝れば許す」

そう言われて、はいそうですかと帰れるものではありません。

連日の押し問答のすえ

私は子供たちのところへ帰るきっかけを失ってしまいました。


しばらくは悔しさと子供に会いたさで泣いて暮らしていましたが

おばさんの勧めで、働くことになりました。

「子供は必ず取り戻せる。

 今は気を紛らしながら、生活の基盤を作ってその日の準備をしなさい」


私はおばさんの紹介で

料亭の仲居として就職することになりました。

着物を着るのが大変な以外は

これまた面白く、毎日楽しく働きました。

毎日先輩のお姐さんに着せてもらうのが申し訳なくて

着付けもそのうち覚えました。


そのうち店の近所に手頃なアパートが見つかったので

そちらへ引っ越しました。

店には寮もありましたが

子供が訪ねて来た時に気兼ねのないように…

というおばさんのアドバイスでした。


九州に来てからも

子供の学校費用や、公共料金などが引き落とされる通帳は

ずっと管理していました。

夫に任せていると、すぐ引き出して引き落とし不能になるからですが

そのことが、自分と子供たちをつなぐ細い一本のラインに思えました。


子供たちから、時折手紙が届きました

子供の家庭教師が、夫に頼んでおばさんの住所を聞き出し

宛名を書いて子供の手紙を入れてくれたのでした。

住所変更したアパートに、その手紙が届いたわけです。


先生からの手紙には、返事を自分の住所に送るように…とありました。

「その手紙を勉強の時に僕がお子さんに届けます。

 お子さんの手紙は僕が預かって、お送りします。 

 お子さんたちは心配いりません。

 元気で過ごしていらっしゃいます。

 でも、お母さんが必要です。

 あのおうちは、他人の僕が言うのもはばかられますが

 普通ではありません。

 どうか一日も早く、お子さんたちを救い出してあげてください。

 ご家族水いらずで暮らせる安らいだ日々が訪れますように」


長男からの手紙は…

「お母さん、どうか帰って来てください。

 お父さんはもうだめです。

 何かにたましいを食われているみたいです。

 見捨てましょう。 

 この家で暮らすのが無理なことは

 僕たちもよくわかっています。 

 一日も早く僕たちと三人で暮らしましょう。

 待っています」

次男は私の顔の絵を描いてくれています。


心配とか、会いたいとか、そんな生やさしい言葉で表現できない

気も狂わんばかりの感情に、ただ泣くしかありませんでした。

その手紙を帯にはさんで、店にいる時はひたすら仕事に打ち込みました。


長男の受験が迫っていました。

私もまた、岐路に立っていました。


店が高級なせいか、お客さんは金持ちばかりで

バブルはとっくにはじけたとはいえ

その余波はまだ九州に届いていないかに思えました。


ひいきのお客さんの中に、ある企業の社長さんがいて

今度、系列店の一つとしてラウンジをやることになった…

ついてはそこの雇われママをやってみないかという

話が持ち上がっていました。


「遊びでやるのだから、気楽に来い…。

 一生仲居でいるつもりか…」


マユツバの話で釣ろうとする人もよくいたのですが

それは正確な引き抜きの話です。

これを引き受ければ、子供を引き取って生活できます。

そんなに甘くはないかもしれませんが

また次のステップになる可能性もあります。

このことを手紙で子供に問うと

やはり九州でなく、こちらで暮らしたいということでした。


長男は、家から離れた高校を受験することに決めたと言ってきました。

「そうすれば、じいちゃんやばあちゃんは

 遠くて意地悪ができないから安全です。 

 僕が絶対お母さんを守ります」

子供にこんなことまで心配させてはいられません。

ラウンジの話は、断りました。

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脱走

2008年11月13日 19時54分22秒 | 不倫…戦いの記録
夫は仕事にも出ず、行方をくらませました。


「あの女にそそのかされたんだ」

「この日を狙っていたのね」

両親はあれこれ言い合っていました。


「誰かが責任を取って辞めるべきだと思うわ」

義姉が言い出しました。

「こうなったら、形に表したほうがいいと思うの」

三人の目は、私に注がれました。

打ち合わせ済みだとわかっています。

このチャンスに、私を辞めさせたいのです。


浮気者の女房という自覚はありましたが

泥棒の女房にまでなる気はありません。

明日にでも家を出るつもりの私ですが

なんだか釈然としないので、何か言ってやろうと思いました。


    「じゃあ、私も辞めますから、お義姉さんも辞めてください」


「なんで私がっ!」


    「形がいるんでしょ?」


「うわぁ~ん!」


            また泣く…


「なに言ってんの!

 この子はね、一生ここにいるのよ!」

義母が鬼のような顔で叫びました。

「よくもそんなことが言えたわね!

 私たちからこの子を引き裂こうだなんて

 そうはさせないわよっ!」


       誰もそんなこと言ってないし…


「仕事が生き甲斐なのに~…」

義姉はなおも泣き続けます。


そりゃ生き甲斐でしょう。

会社のメンバーも若返って

最近はその中の一人、S君を追いかけ回している義姉でした。

タイプなのです。


S君、S君とつきまとうので

S君は本気で辞めたいと悩んでいました。


どうでもいい人や、自分に反抗的な人には

足やアゴで指示を出したり

頼んだ事務手続きをしてやらなかったり

間違えたふりをして給料のはしたをもいだりするので

会社のみんなは、それぞれ義姉に恨みを持っていました。


負けずにみんなで頑張ろうね!と言っていた私ですが

真っ先にリタイヤです。

          すまん…


翌日、子供たちとこっそり家を出ました。

離婚届はサインして置いてきました。

両親に言うと、また騒ぎになります。

もう、その声や、聞き苦しい発言を耳にすることすら嫌でした。


行き先は九州です。

どうせ行くなら遠くがいいと思いました。


「何かあったら必ずここへ来るんだよ」

といつも言われていた義母の親戚です。

あのゲタ味噌の話をしてくれたおばさんでした。


人に迷惑をかけたくないのはやまやまでしたが

ボーナスの弁償で所持金が減っていたので

とりあえずおばさんの家までドライブがてら行って

今後の相談をしてからまたどこかへ流れるもよし

そのまま九州に居着くもよし…と思いました。


パーキングで休んだり、海辺を通って観光したりして

ゆっくり向かいました。

思えば、子供たちとこんなにゆったりとした気持ちで過ごすのは

初めてでした。


食事の支度も掃除洗濯も

義母の望む時間に望むことをしなくていい開放感。

最高です!

本当に楽しい数百キロの旅でした。


おばさんの家に着くと、すでに義母から連絡が回っていました。


「あそこの家のあんたの扱いには前から私も腹を立てていた。

 ここでゆっくり休みなさい。 

 いつまでもいたらいい」


ホッとして、その夜はすぐに眠ってしまいました。

何年かぶりで、何も考えずに眠れました。


2日後、夫が九州へやって来ました。

私の乗って来た車で一緒に帰るつもりで、電車で来たと言います。


ほとぼりがさめて帰宅し、私たちがいなくなったのを知ったのでした。

大泥棒、わずか3日の短いほとぼりでした。

金を受け取ったI子に帰らされたのでしょう。

そばに居続けたら一円にもならないのです。

家に戻して、また次の収入を考える…といったところでしょうか。

さすがI子。


夫はボーナス着服の件を

まとまった金を渡さなければ子供に危害を加えると言われた…

と言い訳をしていましたが

本当にそうなら警察に言えばいいことです。

まだ化かされている…ともどかしい限りでしたが

あ、そうそう、もう関係ないんだ、と思い直しました。


泣きながら手をついて

「お願いです。帰って来てください」

と畳に何度も頭を擦りつけます。


ずっと泣いて謝っていましたが

どうも私の乗って出た車が目的のようなので

キーを渡したらすぐ帰りました。


我々を連れて帰れなければ、車奪還の土産でもないと

家の敷居が高いわけです。

義父に言われて来たのだな、とわかりました。

あの一家のそういう姑息なところがヘドが出るほど嫌なのです。


翌日も、その翌日も、夜になると夫が来ました。

夫も大変でしょうが、毎晩だとこっちも疲れます。


「話だけでも聞いて欲しい」

と言う夫に、無理難題を言いました。


「まずI子と別れてから、改めて話をしにおいで

 そしたら聞くだけ聞く」

別れなくてもいっこうに構わないのですが

こう言えばもう来ないだろうと思いました。


「別れる…そのうち必ず別れるから…」


「あんた、まだ女と続いてるのに

 女房や子供をノコノコ迎えに来てたのかい!」

おばさんが激怒しました。

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恋乱

2008年11月12日 10時43分24秒 | 不倫…戦いの記録
ご主人の酒乱やDVで悩む奥さんは多いと思います。

その人たちがよく言う

「普段は優しくて、いい人なの…」

それ、普段じゃないです。


酒乱中、DV中が、本当の姿です。

優しくていい人の時は休憩時間です。

24時間暴れっぱなしでは身が持ちません。


我が夫は、さしづめ「恋乱」でしょうか。

おかしくなるのは人間としての弱さや何かのタタリ…と思っていました。

そう思いたかった自分がいました。


相手の女性に惑わされている…親のせい…因縁や相性…。

もちろん自分に原因があるとも考え

まず自分が変われば相手も変わると信じて

色々やってみた時期もありました。

でも今ならはっきりわかります。

夫の言動は豹変ではなく、それが真実の姿だと。


心理学的、宗教的、その他の方面から原因を煮詰めれば

意見は様々あるでしょう。

でも、人としての弱さや因縁みたいなものは

誰でも持ち合わせて生まれていると思います。

同じ条件でありながら、つつがなく一生を終える人もたくさんいます。

また、この部分が悪い!と原因を究明できたからといって

解決するものではないのです。


今、目の前にいる悪魔みたいな男…

それが星の数ほどいる中から選んだ、ただ一人の男。


       クジをひいたらスカだった…

それを認めたくなくて、右往左往していたような気がします。


でも、それはお互い様です。

結婚したら、なんやかんやあるのは当たり前。

それを乗り越える手段として、私は「愛」を使いませんでした。


次々と襲ってくる困難に、怒りと憎しみで対応。

怒りや憎しみにセットで付いてくるのは、疑いです。

疑っていると、自分が安心なのです。


    まただまされるんじゃないか、煮え湯を飲まされるんじゃないか…

          ほ~ら、やった…


そうして、何かコトが起きても

自分はあらかじめ予測していたという

無意味なプライドを満足させるわけです。


疑いは、さらにバージョンアップされた次の困難を呼び込みます。

これもセットです。

悪循環の中で、ひたすら来もしない幸福を求めていたわけです。


この連鎖を絶つために必要なのは「愛」です。

夫を愛し、敬うことも愛ですが

そんなに補欠と結婚したがっているなら

あっさり別れてあげるのも愛だったのではないかと、今なら思えます。


負け戦で終わりたくないばっかりに

いたずらに夫や自分を傷つけ、摩耗させた結果

理性の中に隠れていた真の姿を

双方が必要以上に大きくさらけ出してしまったのではないかと…。


そして私は蟻地獄の底で、1等のハワイ旅行や自転車を望み続け

与えられた健康や子宝、その他多くの恵みに目もくれませんでした。


「足るを知る」「感謝の心」と言うと

いささか宗教めいて不本意ですが

再出発が難しい年齢になって、やっとわかった幸福の鍵です。


そしてもうひとつ大事なことがあります。

…カネです。

そもそも、なぜ秘密にしておくべきことが早々にバレるのか。

怒られ、笑われながらも居直って、なぜやめられないのか。

それを知って、なぜこうまで腹が立つのか。

ここまでコケにされて、なぜ別れないのか。

…すべて、カネが充分でないからです。


秘密を守るには、金が必要です。

現金が少なければ、デートは自家用車か近所一辺倒

行動範囲もワンパターンとなり、人目につきやすくなります。

プレゼントや食事だって、彼女にいろいろしてやる分を

女房にも同じようにサービスしておけば安全なのですが

フトコロが淋しいと

どうしても一本に絞らざるを得ない状況になってしまいます。


そしてバレたら居直るしかありません。

なにしろ女房の満足する慰謝料や養育費が出せないのです。

だからといって謝罪して、生涯そのことをネタにいびられるのはつらい。

どうせなら居直って好きなことにふけり

敵があきれて出て行くのを待つほうが楽。

金が無いための悪循環です。


一方、女の疑惑は不満が引き金です。

精神的、物質的、肉体的に不満があれば

その不満を解消するために原因を突き止めたくなるのが女です。

当然配偶者にも原因究明の鋭い視線が注がれる羽目になります。

こうなれば税務署と同じ。

ひとたび標的を定めたからには、必ず何か見つけるまで食らいつきます。


しかし、鬼神も裸足で逃げるほどの怒りに燃えながら

妻のほうも金が無いために、おいそれと動けません。

家を飛び出すくらいはなんとかなっても

先々のこと…子供連れでの生活費、教育資金などが心配になると

「いや…待て待て…」

となるのです。


嫌なら黙ってさっさと別れりゃいいのです。

特技無し、資格無し、安定した仕事無し…よって金は無し。

つまり働いて食べていく自信無し。

ないない尽くしの身の上でも、この怒りをもってすれば

たとえ我が子もろとも路傍の露と消えようと本望のはずです。

しかし、それは恐ろしい…。


おのれの無能と意気地のなさをカムフラージュし、正当化するために

亭主の落ち度をあばきたて、グダグダ言うことになります。

他のかたのことは知りませんが、少なくとも私はそうでした。

金で幸福は買えないけど、不幸は救えます。ほほほ。



さて、ボーナスはいずこ…。

日給月給のガテン業界

ボーナスといっても寸志に毛が生えた程度ですが

まとまるとちょっとした金額です。


現金支給なので、義姉はいつものように

みんなの分をまとめて夫に渡したと言います。

犯人は明らかでした。


夫のことを「マ○コ盗っ人」と呼んだ人がいます。

当時なぜか私のことをかわいがってくれていた億万長者です。


「男はなぜ不倫をするか…タダだからだ」

金の世界で強い人は、言うことも強烈です。


「タダほど怖いものは無い。

 これをやると、金のかわりに泣かせる人数が多くなる。

 人を泣かせる者は、必ず金でも問題を起こす。

 盗っ人だから当然だ。
 
 金に嫌われた者と一緒にいてもいいことはないぞ。ガハハ」


     でも今回は、本当の盗っ人になっちゃったのね…


夫がどうこうより、ボーナスが先です。

会社から新たに出す余裕はありません。

ヘタに会社に入り込んだのが運の尽き…

すったもんだのあげく折半ということになりました。


夫はその日、帰って来ませんでした。
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ドロちゃん

2008年11月11日 15時42分46秒 | 不倫…戦いの記録
出勤した私を見て

夫は事務所の窓やドア、社内で使う重機など

外から私の存在が分かるガラス製のものすべてに

急いでシールドを貼りました。


「日焼けしたらいけないから…」

誰も聞いてないのに苦しい言い訳をしていましたが

I子に知られると怖いからです。

しかし、その手際の良さ、素早さには驚きました。

こんなことを思いつき、また実行できるなら

ぜひ仕事の方面にも生かしてもらいたいものです。


会社には、事務員として義母の妹もいます。

入社にあたって、私は彼女の所に電話をしていました。

…自分はそこであなたがやっている仕事をしたいと思う。

ついては、辞める気はないのかと…。


そもそもこの人は、義母の実の妹ではなく

戦後の動乱で親族の何人かの縁が変わったために

突き詰めると妹にあたるという複雑な関係の人でした。

おいしい時だけ親戚を名乗る身内の一人です。


「下の子が大学を卒業するまでは勤めたい」

という答えでした。

人の子の卒業を待つなど悠長なことは言っていられません。

四面楚歌のこっちは命がけです。


その人、私、時々来る義姉、幽霊社員の義母…。

元々必要のない女が従業員の3分の1を締める

きわめて不経済な体制が整いました。


邪魔しかできませんでしたが

仕事はなかなか面白く、毎日楽しく過ごしていました。


現場は夫、数字は義姉の管轄でしたが

この両方を一人の人間で回せるようになれば

無敵だと思ったので、必要な資格を取りに行ったりもしました。


面白くなかったのは、義姉でした。

「私みたいに簿記1級を取らないと経理はさせられない」

と、ことあるごとに言うのですが

いくら決済権のある1級を持っていても

会計士がついているから不要だと言ったら、泣いて帰りました。


他の従業員と仲良くおしゃべりするのも気にいらず

義父に何やら言いつけたようでした。


「仕事がしたいんなら、明日から化粧をするな」

           「は~?」

「派手な者がいると風紀が乱れる」

義姉が後ろでニヤリと笑っていました。


こういう理不尽な言動は、無視です。

何日か経っても、義父は執拗に言い続けました。


「するなと言ったろう」

         「日焼け止めです」

「目とかもしてるじゃないか」

         「虫除けです」




「これで派手だったら、自分の女房や娘はお水だね…」

決して味方ではない義母の妹も、これにはあきれていました。


しかし、それはごく些細なことでした。

娘の立場が日々侵犯されていくのを親として心配する気持ちは

こちらが考える以上に大きいものだったようです。

家ではまた、不条理な出来事が多々起きていました。


風呂に入っていたら外から閉じ込められたり

靴を全部捨てられたり

夕食の支度にとりかかるのが数分遅れると

なじみの料理屋に電話して

「病人なのに嫁が支度をしてくれない」

と二人分の食事を頼むようになりました。

それを受け取りに行けと言うのです。

もちろん行った先では白い目でごらんいただき

イヤミや説教が待っています。

平気ですが。


以前より悪質な上に、義母まで荷担しているので

今度はちょっと大変でした。

強引に押して、失敗したかなぁ…と思っていた矢先

口のきき方が生意気だという理由で

長男がお年玉を何年も貯めて買い、大事にしていた釣り竿を

義父がバラバラに折って燃やしてしまいました。

孫だけは可愛かったはずでしたが

私がゴリ押しした娘の領域侵犯への見せしめでした。

長男は涙を流して黙っていましたが、そろそろ限界を感じました。


ボーナス支給日の夜、会社の人が家にやって来ました。

「若から、今年はボーナスが無いって聞いたんで、もう辞めます」


両親は呆然としていました。

義姉が銀行へ行ったのを知っている私も驚きました。

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押しかけ就職

2008年11月10日 13時20分09秒 | 不倫…戦いの記録
二ヶ月後、義母は元気に退院しました。

入院、手術で大事にされ、すっかり姫様気分を味わった義母は

大変なわがまま婆さんと化していました。


自分を「病人さん」と呼び

「病人さんが食べたがるものを作るようにしてちょうだい」

「私は病人さんなんだから、一番大事にしてもらわなければね」


まるで地球を救ったような威張りようですが

あれだけの目に遭ったんだから

しばらくは無理もないと思っていました。


仕事を失った私は、空虚な気持ちにさいなまれていました。

夫のこと、家のこと…色々な問題をなんとかくぐり抜けて来られたのは

仕事という避難所と、わずかながら毎月手にするお金から得る力だと

痛感していました。


半年がたち、義母も泊まりがけの旅行に行けるほど回復したので

新しい仕事を探し始めました。


面接日を知らせる電話を義母が取ったため

ややこしいことになりました。


「また働きに出るつもり?」


病後、明るいのんびり屋さんから

天下御免のツボネへと進化した義母は、あからさまに不満そうでした。


        「はい」

こっちは自立して子供を育てなければならないのです。


「それって、いつ何が起きるかわからない

 病人さんを放って外出するってことよね」


      旅行はええんかい…


「嫁として、それで役目が果たせるの?」

      「お義姉さんもそばにいるし」

「私に何かあったら、全部あの子に押しつけるつもり?」

      「通報や連絡くらい出来るでしょう」

「あの子はね、もうよそへ嫁いだ人間なの。

 実家のことでわずらわせることはできないのっ!」


すごい理論ですが、こんなことで驚いていては生きていけません。


     「じゃあ、働きに出るなということですね」


「ダメとは言わないわ。

 娘は一人っ子と結婚したんだから

 いつかはあっちの親の面倒を見ることになるでしょ。

 その時は、家のことも会社のことも、全部あなたに任せるつもりよ。

 だから、よそへ勤めても辞めることになるじゃない」


       「それ、いつです?」


「それは…いずれそのうち、時期が来たら…」


「今」しか見えない義母が精一杯阻止しようと

言葉を尽くしているのがわかりました。


「いずれそのうち…」は、彼らの常套句です。

時期が来たら…出来るようになったら…。

賢くない私は、この手法で何度もだまされました。

でも、言ったほうは決して嘘はついてないのです。

やる気はあったけど、ただ時期が来なかっただけ…

出来るようにならなかっただけです。

オトナの方便…善処と同じです。


しかし、私はあることを考えつきました。

離婚したって同じ職場で働く人はいる…。


そしてこの頃、困ったことに

将来を考える年齢になった長男が、家業に強い興味を示していました。

「やりたい仕事と家の仕事が同じで、僕は幸せだ…」


自分の生んだ子供です。

あまり優秀でないのは承知していました。
 
何が何でも引き離して、就職で苦労させるのも道なら

ここは選択肢を一つキープしておいてやるのも愛かもしれない…。

そんな思いもありました。

 
   「じゃあ、お義母さん、私、明日から会社行きます!」       

「ええっ?」     

    「そしたら、お義母さんに何かあっても

     すぐ駆けつけられますよね!」

「ちょっと…待って…お父さんが何て言うか…」

    「お義父さんには私が言います。

     大丈夫ですよ。I子だって入れたんだから

     私も入れてくれますよ」



たまには私も一矢報いたい気分でした。


義母の入院で仕事を辞めた自分…。

ほとんど何もしなかったのに給料を貰い続け

仕事を失う懸念すら無かった上に

両親から看病の礼金までせしめた義姉…。

この差が気に入りませんでした。


翌日から、出社しました。

止める者はいません。

なぜ止めるのか…の問題になった時、言い訳が難しいからです。

I子を入れて私を入れないもっともな理由が

誰にも思い浮かばなかったからでした。
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菊男

2008年11月09日 15時59分29秒 | 不倫…戦いの記録
入院、検査、手術…と慌ただしく日が過ぎて行きました。


手術が終わった義母を

義父も義姉も夫も、遠巻きで見守ります。

意識の無い義母は、しきりに娘の名前を呼び

点滴をしてないほうの手で宙をさぐります。


「手を握ってあげたら?」と言っても

「怖い…」

と後ずさりするので、仕方なく義姉になりすまし

「お母さん…」と手を握りました。

すると義母は安心した顔つきになるのです。


今度は夫の名前を呼ぶけど、夫も逃げるので

ちょっと低い声で「母ちゃん…」と、呼んでなりすまし

義父を呼んだら「ヨシコ…」と義父になりすまし…。


やれやれ忙しいことです。

でもこういう時、後から記憶に登場した嫁や孫は

潜在意識に無いんですね。

義母の親とか知らない人が出て来たらどうしよう…

と心配しましたが、結局一人三役までですみました。


「痛い、苦しい…」

うわごとを言う義母を

義父は遠くからいつもの調子で怒っています。

「おまえがさっさと医者へ行かないからだ!」

困惑した時は、このパターンです。

離れたところで悪態をつく、いじめっ子みたいです。


そんな義父を「照れ屋さんだから…」

と義母はいつもかばっていましたが

何でも照れ屋で済むなら警察はいらん…と思う私です。


やがて面会時間が終わったので

各自、言葉を交わすこともなく解散。

家に帰ると、義父が先に着いており

テーブルに突っ伏して泣いていました。

妻の痛々しい姿に、本当は深いダメージを受けているのでした。


「どうしよう、あいつがこのまま死んだらどうしよう…」

             「…」

「つらい目にばっかり遭わせた…傷つけることばっかりしてきた…

 今死なれたら…俺は一生後悔する…」

     「麻酔が効いてるからですよ。

      明日になったらケロッとしてますって」

「本当に元気になるだろうか?」

     「なります。手術の後は、みんなああです」


「今まで悪かった。

 いざという時、頼りになるのは子供じゃなかった。

 さんざんバカにしていじめてきたおまえだった。

 頭じゃあわかっていても、つい我が子に味方してしまう。

 自分が情けない」

     
義父は、ずっと泣いていました。

そんな殊勝な気持ちになるのも今だけです。

人間、そう簡単には変われません。


この人は今、確かにそんな清らかな気分です。

それを見たほうは、悔い改めたと錯覚しやすいものです。

しかしその現象は、今この瞬間だけで

時が経てば…そしてメンバーの組み合わせが変われば…

コロコロと変貌して、結局元のもくあみに戻っていくのを

すでに嫌というほど体験してきました。


翌日から、忙しい日々が始まりました。

義姉は朝から晩まで病院に詰めて、母親につきっきりです。

意識が戻れば怖くないようでした。


義姉は几帳面な人間なので、線引きが好きです。

見舞客の対応と義母の話し相手は自分で

義父の世話や雑用は、嫁の私の仕事と決めていました。


義姉の夫が大輪の白い菊を二本持ってお見舞いに来ました。

花を持って来たのは自分が最初だったと、得意そうな義兄…。

枕元に飾られ、複雑な表情の義母…。

義兄は悪人ではありませんが

すべてにおいて、配慮の点で今ひとつ…というところがあります。


彼らの結婚の前に

義姉を毎日帰らせて会社を手伝わせる約束が交わされました。

ずいぶん後になって夫から聞きましたが、義兄一家には

「外見からはわからないが嫁の知能に問題があり、娘の協力が必要」

との説明がなされたそうです。

義兄はいまだに私を「気の毒な子」と思い込んで、優しくしてくれます。


私には

「相手の母親の精神に異常があり、娘がつらいから帰らせる」

という説明がありました。

私もまた、長い間義兄とその母親に同情していました。

だまされたと気付いたのは、何年も後でした。


私は仕事を辞め、一日おきに片道一時間かけて病院へ通っていました。

義父は手のかかる男で

持病に良いという健康食品や煎じ薬、お灸など

毎日飲まなければならないものや

やらなければならないことが山ほどありました。

加えて食事療法の上に、箸ひとつ、タオル一枚自分で出す習慣がなく

義母のことより、こっちのほうが大変でした。


夫は相変わらずI子と会っていましたが

手のかかる義父に加え

夫までそばにいられたらお手上げなので

この時ばかりはI子に感謝です。


入院前に断った仲人ですが

義母はまだあきらめられず、病床で神戸、神戸と言っていました。

しかし、阪神大震災が起きて結婚式場が倒壊し

結婚式は無くなりました。
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ガーン!

2008年11月08日 17時11分00秒 | 不倫…戦いの記録
12月に入り、やっと私と子供たちが住むアパートが決まりました。

来月空くというので、手付けを支払いました。

さ来年には長男も高校受験です。

できるだけ早く落ち着いた環境を整えてやりたいと考えました。


籍だ養育費だ言う前に

とにかくまず、あの一家の顔を見ずにすむ場所へ移動。

当時の私には、それしか考えられませんでした。


この時、私の祖父はすでに亡くなっていました。

前回の件が終わった直後のことでした。

今回、とうとう家を出ることになるわけですが

生きていたら何と言うだろう…。

女教師相手で「けだもの」なら、未亡人だと何だろう…?

生きていたらぜひ聞いてみたい。

しかし、祖父をまた嫌な目に遭わせなくてすんで

ホッとしていました。



「ある日突然実行する…」

その日のことを考えるとワクワク。

荷造りやゴミ捨ても、ばれないように少しづつ進めていた時

義母が検診で引っかかっていることを知りました。


去年も結果が良くなかったのに

なんだかんだと言って精密検査を受けず

今回も自覚症状が無いと言って数ヶ月…

何かの間違いにしようとしていました。


風邪などの軽い病気は大好きで

大騒ぎして病院に飛んで行く人でしたが

深刻なものは、なかったことにする気満々です。


一応よくある対応…

「早く検査して、安心したほうがいいよ」

と薦めましたが

「仲人を頼まれているから、責任が…」

と言います。


我が身を犠牲にしてまで他人のために責任を負うなど

義母の辞書には絶対ありません。

来年1月に神戸で行われる結婚式に

仲人として義父と出かけるのが、ただ単純に楽しみなのです。

義母の三大ハッピー…

「おしゃれ・お泊まり・注目される」

がセットで詰まっているからです。


    よそのキューピットができる身の上じゃないだろ…


しかし、義母の微妙な変化には心当たりがありました。

料理の味付けが変わり、怒りっぽくなっていました。

怒る回数が増えたというか、着火点が変わってきたのです。

それだけのことですが、病人の多い家で育ったので

なんとなく気にかかるものがありました。



       …この家の奴らはおかしい…

前からわかっていましたが、この時が一番でした。

義父に大きい病院へ連れて行くよう頼みましたが

ぐだぐだと言葉を濁して逃げられました。

義姉に言うと、いつもの

「私は家を出た者だから」

夫は「そういうことは親父の役目だろう」

しまいには三人それぞれ

「検査して、何ともなかったら無駄足だ」


なんとまあ、薄情な…と腹を立てましたが

考えればそうではなくて、現状が変化するのが怖いのです。

家族四人、未来永劫不死身だと信じているのです。


仕方がないので、嫌がる義母を引っ張って

紹介された遠くの病院へ連れて行きました。

付き添って来た者の宿命として

私は医師の説明を一人で聞く羽目に…。


結果は癌でした。

しかも進行していて、すぐに手術しないと危ないそうです。

義母にはポリープということにして、年内に決行です。


義母は、ポリープくらいだったら1月以降に…

と医師に頼んでいましたが、聞き入れてもらえず

がっかりして帰途につきました。


仲人が…神戸が…

助手席でうわごとのようにつぶやく義母を横目に

葛藤していました。



         じき他人になるんだし…

         でも一宿一飯の恩義が…

      あの様子じゃ誰も看病しないだろうしなぁ…

         人として…どうよ…



その日のうちに、アパートを解約しました。


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位牌がダンス

2008年11月06日 11時44分36秒 | 不倫…戦いの記録
「あいつは、前の奥さんに毎日嫌がらせをしてノイローゼにしたと…。

 奥さんはおかしくなって、車で家を飛び出して、崖から落ちたらしい」


     「お義父さんはノイローゼにはならんと思うなぁ…」


「それだけじゃない。

 東京時代に知り合った

 闇から闇へ葬ってくれる商売の人がいると言うんだ。

 でも…親父は嫌いだけど、人を頼んで殺すとなると…」

     「本気にしてんの?」

「のぼせてる時は大賛成してたんだけど

 よく考えたら恐ろしいし…」

     「タダじゃやってくれんし、ウソだよ。

      I子、お金無いし、崖っぷちだもん」

「芸能界に出入りしてるんだぜ?マンションだってあるんだぜ?」

     「あれ、ウソらしいよ…」

「え…?」

     「困ってなかったら、好き好んで

      手当たり次第によそへ入り込んだりしないよ。 
      
      あんたと同じ、大ボラ吹きなんだよ」


夫はしばし呆然としていましたが

「でも…あいつの家、おかしいからマジで怖い。何するかわからない」

と頭を抱えます。


二階の二人の新居?にある

整理ダンスの上に並べた13個の位牌が

夜になったらカタカタ鳴るのだそうです。


「出て行け、働けと言われたのもあるけど

 それが怖くて寮に入ったんだ。

 自殺したお父さんの幽霊は出るしさ…」


        おぉっ!すばらしい家ではないか!


    「殺すとしたら、まず私じゃないの?

     お義父さんは、その後でいいんじゃない?

     家に入り込んでからで」     


「最初はおまえのことも確かに狙っていたけど

 離婚すればすむことだし

 おまえが死んだって何もないけど

 親父が死んだら会社がオレのものになるから…」


            「そう言われたんだ…」

「うん…」

それに…と夫は私を恨めしげにいちべつし

「おまえはしぶといから絶対死なないと思う…」
 
と言いました。                      


       14番目の位牌になってしまえ…

  

     「思い通りにならないから、石を投げてみたいだけよ。

          子供っぽいおどしよ。」       


こうなると、悪い癖が出ます。

鼻の穴にこっそりピーナツを詰めては

ドキドキ感を楽しむ子供でした。

友達が掘りコタツに頭を突っ込んで死にかけたと聞いて

親戚の家で試したくてウズウズしました。


面倒臭がりの怠け者なんだから

これ以上面倒なことにならないうちに

さっさと身を引けばいいものを

コトによってはつい燃えてしまうのです。


トイレから出て来るという父親の幽霊はわかりませんが

位牌が鳴るのは、木造住宅のせいだと思われます。

木造の二階が思いのほか揺れるのを

少し前にあった親戚の法事で体験したばかりでした。

夫は鉄筋の家しか住んだことがないので

不安定なタンスの上に置かれた位牌が揺れるなど

想像もつかないでしょう。

おおかた下で母親が洗濯とかしているはずです。


しかし、タンスの上で位牌がダンス…

このフレーズが気に入ってしまいました。


      そうよ!私たちは位牌!ダンスが命!

          今宵も踊るの!ランララ~ン♪


夫に木造のことは言わず、怖がってもらいましょう。


      「これからどうしようか。

       よかったら、希望を聞かせて?」


「図々しいと言われるから…」

    「何をいまさら。とっくに思いっきり図々しいじゃん」


「できれば、今はこのままI子と続けて

 時期が来て自然に別れるのを待ってほしい」


     「待てと?

      待てば改心して、いいパパになれるのかな?」


「わからないけど、努力はする…」


       「I子と結婚する予定はないの?」


「無理と思う。

 位牌や幽霊くっつけて来られたんじゃあ、お袋が許さない」


     「位牌や幽霊がなかったら?」

「わからない…でも、多分そうなったら、オレは死ぬと思う」

       「…死にたくないんだ…」

「うん…」


        やっぱり14番目の位牌になれ… 
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雇用サスペンス劇場

2008年11月05日 11時45分10秒 | 不倫…戦いの記録
私が夫の帰還を快く承知しなかったのを根に持った義母は

今回から息子の世話は自分がする!と宣言しました。

しかし、夫には

「散らかし、片付けられない」という悪癖がありました。

子供の頃と違って持ち物が増え

悪癖はさらに重症化の一途を辿っているので大変そうでした。


硬式野球、軟式野球、ソフトボールのチームに誘われるまま入り

ユニフォームだけで七種類×夏用冬用、練習着もそれぞれ…。

昼間遊んでいるので、日暮れには元気いっぱいです。

ほとんど毎晩どこかの練習に顔を出し

週末はダブル、トリプルで試合の掛け持ちです。


浮気中はそれもお休みですが、終わるとまた復活。

各チームメイトはちゃんとわかっていて

いつも優しく迎え入れてくれますが

それによって噂が広まる範囲と速度が早いのも事実でした。


いつも家にいないことが普通なので

発覚した時には手遅れ…という事態になるのも

原因の一端はこの趣味にあるのではないかと思います。


夫にすれば、唯一の現実逃避であり

いかんなく自分を発揮できる場面だったのでしょう。


仕事を目一杯させて疲れさせたら、変なほうへ目が向かないのでは…?

と、いろんな人がアドバイスしてくれました。

させると労災事故につながったことが何度もあり

自身もそれが元で腰を痛めていたので

人に迷惑をかけるよりは…と遊ばせていました。


腰が悪いわりには

せっせとよそで使えるのが不思議ですが

後で聞きますと、浮気中と野球中は

なぜか麻酔を打ったように痛みが出ないのだそうです。



話がそれましたが、ユニフォームに戻ります。

とまれ、帰った翌日から再び始まった球技三昧の日々に

義母はその管理だけでネをあげました。

本当にチームに参加しているのか

I子のところへ通っているのかはわかりませんが

衣装だけは着替えるので

その後始末や小道具の分類が必要なのです。


義母から返品された夫の私物の中に

家出する時持たせたバッグがそのままありました。

中身を引っ張り出していると、新しい通帳が出てきました。


「オフィス・クィーン  代表○○I子」

夫が帰る一週間前の日付で開かれた普通預金の口座でした。

マネーロンダリングへの懸念がまだ浅く

どんな名前でも口座が開ける最後の頃でした。

ご新規…1000円。

        やれやれ、しみったれたオフィスだこと…



ピンときたものがあり、さっそく夫のところへ行きました。


        「ほれ、一万円あげよう」


「えっ?ほんと?」

ツンツンプンプンも一瞬で終了です。


      「もう一万円あげるから、この通帳のことをお話し…」

「…え…」

      「全部話して、楽におなり…」

       

…全部話すから助けてほしい…

夫は話し始めました。


通帳は、I子と二人でトンネル会社を作り

父親の会社の利益をピンハネする目的で開設したこと。

この通帳に現金や手形、小切手が回るよう工作しろと言われて

今回帰って来たこと。

うまく工作できたら、I子が代表の「オフィス・クィーン」とやらで

雇ってやると言われ、複雑な気持ちなこと。

そうは言われても、どうやったらいいのかわかず

I子の催促が厳しくて、とても困っていること。



やっぱり…と思いながら、転げ回って笑いました。

悪知恵は働くがあまりかしこくはない崖っぷちのI子が

自由に操れる自分よりお馬鹿な獲物を

そう簡単に逃がすはずがないのです。



          「発想は悪くないんだけどねぇ」

笑いすぎて涙を拭きながら、私は言いました。


取引のほとんどが約束手形の商売です。

普通預金でなく当座預金の通帳を持っていなければ、現金化は困難です。


     「これじゃ無理だから、まずおまえが当座を開けと

      言っておやり。

      今度はI子が困るだろうから」       



「わかった…でも、それだけじゃないんだ…

 そのうち親父を殺す計画なんだ」

     
           「わたしゃかまわんよ」

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出稼ぎ

2008年11月04日 09時42分15秒 | 不倫…戦いの記録
数珠ブレスうさんくさ男は、数日のうちに

夫と会った時の様子を伝えにやって来ました。


夫はなんと、一人で出稼ぎに行かされていました。

長距離トラックの運転手として寮に入っていたのでした。


初めて人に使われる厳しさを知り

寒い中での洗車や

自分より年下の人間に命令されるのがつらいと言って

涙を浮かべていたそうです。

またこのおっさんが、しみじみと語り部のように話すのです。

両親はそれを聞いてワンワン泣いていました。


        三人で酔っとれ…


入って二ヶ月足らずですが

最初の給料の大半は

I子が集金に来て持って行ってしまったそうです。


「だから、お金と…それから寮は寒いので

 毛布を持って来て欲しいと頼まれましたよ」


            また金かよ…


「今夜また行って来るから、お金と毛布を用意してください」


             「わかりました」


ところで…私は善人気取りうさんくさ男にたずねました。


      「夫がその会社にいることを

       どうやってお知りになったんですか?」


「それは…まぁ、蛇の道は蛇というか…」


一瞬ですが、蛇うさんくさ男の目は

向かい側に座る義母に注がれ、再び泳ぎました。



         やっぱり…

        
       
義母は、いつからかまたこっそり夫に送金するようになっていたわけです。

親子ですから、無理もありません。

甘やかし、なめ回して育てた我が子が

そのような憂き目に遭っているのですから

時々金を送るのなんか終わりにして

そりゃあ何とかして一日でも早く連れ戻したいことでしょう。


以前夫が「ちっとも暖かくない」と文句をつけた毛布と

封筒に入れた三万円を用意しました。


封筒には折った便せんを数枚入れたので、厚みは申し分ありません。

家出をしておいて金の無心なんて、芸が無いにもほどがあります。


しょせん、外の風は冷たかったということでしょう。

じきに帰って来る気配は濃厚だし

本当に夫の手に渡るかどうかも未知なのです。

大判振る舞いなど、できません。


夫はごく近いうちに帰って来る…。

私はアパート探しを始めました。

しかし、思いのほか難航です。


転校したくない、という子供たちの希望に添えば

範囲が限られます。

しかもアパートの数からして少ない田舎。

腕白盛りの男の子を二人連れた母に

喜んで部屋を貸す所は少ないのです。


名字を名乗っただけで

「面倒なことになったら困るから」

と断る不動産屋もありました。


さて夫は、達成感で頬を染めたうさんくさ男に連れられて

ほどなく帰って来ました。

よそで使われるつらさから解放されて

帰れる時を指折り数えて待っていたくせに

今回もプンプン、ツンツン

「しかたなく帰って来てやった」を装い、ご苦労なことです。


義母はいそいそと別室に夫の寝床を用意しました。

息子の帰還が嬉しくてたまらない様子です。


        今回は、働くのが嫌で逃げて来ただけなんだぞ…

        そろそろ自分の子を知れよ…


帰ってきたことが、改心したことにはならないのです。

しかし、親にしてみればそんなことはどうでもいいことでした。

とりあえず今さえ良ければいい…の性格は遺伝だと

あらためて思いました。


私は、毛布一枚用意してもらえないI子との関係に

もっと別の何かがあると感じていました。

  
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うさんくさ町・字・芝居小屋

2008年11月03日 10時01分27秒 | 不倫…戦いの記録
夫が家を出て三ヶ月…

三割ほど削られてはいるものの、夫の給料は支給されており

自分のパート代と合わせるとおいしい金額になりました。


いないから…とゼロにしたら出て行かれる…

かといって全額支給もシャク…

ゼロや全額にして「生活できない」

または「申し訳ないから会社で働く」と言われるのが一番都合が悪いのです。

娘の位置が不安定になるからです。


夫がいない今、免許を取って現場で働くと言われても断れません。

取りたての女性を入れた実績があるのですから。

それがこの三割減という

生かさず殺さずの微妙な金額に現れているのは明白でした。


余計なことは言わずに

ありがたく頂戴しておくのが一番です。

あれこれ理由をつけては奪われるデート代の出費がないのは

うれしいことでした。


夫がいた頃にはごく日常的だった細かいこと…

パートからの帰りが少し遅くなると

私の洗濯物だけ取り込まれずに外でひらひら…

なにか気に入らないことがあると

間違えたふりをして犬のごはんを私の茶碗で与える…

などということも無くなり、物心両面で満たされていました。


        このまま帰って来るな…

夜空の星に心から祈る私でした。



しかし、おごる平家は久しからず。

このパラダイス生活にも暗雲が立ちこめて参りました。


        
ある晩、その男はやって来ました。

義父がここ何年か親しくしている人です。

ごま塩ロングのポニーテールに

作務衣を着込んで数珠ブレス。

いつの間にやら町に住み着いて

小商いのかたわら、自伝と思想の自費出版も一、二冊。

やたら人当たりが良くて

人格者ぶってるけど、はっきりした素性は誰も知らない…。

そう、どこの町にも一人はおられる「うさんくさいお方」。


挨拶もそこそこに、明るく本題を切り出しました。

「ご主人が、帰って来ても…いいかな~?」


        おまえはタモリか…


無反応の私に、今度はいきなり土下座。

「お願いします!お父上、お母上のお気持ちを察してあげてくださいっ!」


他人が玄関先で土下座をしても止めもせず、両親は目頭を押さえています。

臭い田舎芝居なのでした。


      「やめてください。

       ここはお義父さんの家なんだから

       帰らせたいのなら、帰らせたらいいでしょう。
  
       こういう回りくどいことをしないでください」



「じゃあ、そういうことで明日…」

おじさんはケロッとして立ち上がりました。

両親は診察後の患者のように頭を下げ

「ありがとうございました」



      なんだ、こいつら!むかつく~!


    「主人が戻ったら、私も身の振り方を考えます」


「そんなにスネないで

 また元どおり、みんなで楽しく暮らせばいいじゃん。

 僕は平和の使者なんだから。

 平和の使者が、せっかく来たんだからさ

 みんな仲良く…ネ」



            アホか…こいつ…



    「今ここで土下座に押されて

     なあなあになってしまったら

     また同じ問題で人様にご迷惑をかけるでしょう。
     
     お義父さんもお義母さんも、私に言いたいことがあるのなら

     よそへ頼まずに直接話し合えばいいんです」


両親はだまっていました。

彼らにもよくわかっているのです。

しかし、一旦息子のことはあきらめると断言したからには

私への説明と謝罪が必要です。

それに、我が子と孫を離したくない自分たちの希望を通すことは

嫁に死ねと言うのと同じ。


いつもながらボキャブラリ-の乏しさと、根拠のないプライドが

つい他人の手を借りて火に油を注ぐ行為となってしまうのでした。

そんな両親を見て、私も意固地になっていました。

なまじ天国を味わってしまったので

また元の生活に戻るのが嫌だったのです。


        「親には親の気持ちがあるでしょう。

         それはよくわかりますから

         思うようになさったらいいと思います。

         私は他人ですから

         他人としてどうすべきかを考えます」


「なにを~っ?!」

ごま塩ポニー作務衣うさんくさ男は

急に怒り出しました。

オレ様の土下座でコトが収まらないと都合が悪いようです。


「大の男に土下座までさせて、まだ勝手を言うのかっ!」



     「逆です…勝手に土下座したのはあなたでしょう」


「なんだっ!他人とか言ってえらそうに。

 うちの女房はなっ

 喧嘩しても私の家はここしか無いから

 出て行かないって言うぞ!」


     おまえの女房のことなんか知るか…



しかし、自費出版うさんくさ男としては

自分が出たからには早急に解決しなければ信用問題でした。


「ま、とりあえず息子さんと話をして

 彼の意見も聞いてみてから、僕が橋渡しをしますから」


と言うと、そそくさと帰って行ったのでした。 

 
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ババが来たりて笛を吹く

2008年11月01日 12時51分08秒 | 不倫…戦いの記録
「I子は、結婚結婚言ってましたけど

 父は六十過ぎですから、やはり後のことも考えるでしょう。
 
 それに…I子の死んだ旦那さんは一人息子で

 一家が死に絶えたので
 
 本人や、前の奥さんのを始め

 東京から位牌をたくさん持って帰っているんです。

 父は若作りしていても年寄りですから、ややこしいことは嫌うんです」
 
 
       その位牌たっぷりのおうちへ

       今度は夫がお招きいただいてるのね…

 
「死んだ旦那さんのことは

 前の奥さんから奪ったと自慢げに話していました。  
  
 離婚話が進んでいる最中に

 奥さんと子供三人が交通事故でいっぺんに亡くなったんです。

 それですぐに結婚したけど 

 二年後、旦那さんがジョギング中に頓死したのは

 その命日だったそうです…」


「いわく付きの女ですわよ!」

奥さんが合いの手を入れます。          
         

この二人の息のぴったり合っていること!

娘を持たない奥さんと、母親のいない娘さん…

双方がお互いを肉親のように思っているのが伝わってきます。

それはけっこうなことですが

この人たちの親子ごっこや探偵ごっこにつきあわされる我が身の因果…。


娘さんはなおもしゃべり続けます。

「遺産とかヘアメイクとか、すぐ言いますけど
 
 不動産関係なので財産より負債がすごくて

 相続は放棄したんです。

 一文無しですよ。
       
 東京だの芸能界だの、でまかせを言っては人の気を引いて

 会社を持ってる結婚相手を探すんです。  

 田舎の人はそういう話題、喜びますからね」



      はい…大変喜んだ父子が… 



「父が別れたのも、自分が後妻だと自己紹介したり

 通帳や実印を管理したがったりで、手に負えなくなってきたからです」

 
     「そうなんですか…。

      お父様が怒って電話をかけてこられたことがあったので

      取り合いしているのかと…」 


「あぁ…それは、顔見知りなので一応止めたと言っていました。

 でも、ご主人にとぼけられたので、少しこじれたようです。

 父も頑固ですから…」

                       
奥さんがハンカチをもみながら言いました。


「トランプの…ババみたいな女ですわ。

 あちこちの事業主を狙って、どこかに収まるつもりなんですのよ」


    そのババが今、うちの番でござんすね…


送金を指定した大阪の住所は、I子の妹の嫁ぎ先ということもわかりました。


「母親も、妹も一家でグルなんですのよっ!

 そういう人たちなんですっ!」


二人は話すだけ話すと満足したのか

「あら、もうこんな時間…ランチの予約が…」

と写真のことは忘れて帰って行きました。


           ほっ…

うれしげに写真持って回られた日にゃ

また巡り巡ってこっちが嫌な思いをすることになるのです。

何年も経って、ひょっこり子供たちの耳に入るかもしれません。

興味本位の暇潰しに探偵ごっこをされたんじゃあ困るんです。


    それにしても…みんなとりあえず水際で食い止めてるじゃん…

    しっかり罠にかかったのはうちだけかぃ…


魔性だろうがババだろうが、どうでもいいのです。

この上は、しっかりくっついてもらって

死ぬなり呪われるなりご自由に…。


しかし、親はそうはいきません。

娘と出かけていた義母が帰宅したので

義父は二人で長い間、相談していました。


なんとかして連れ戻したいようでしたが

私には何も言わないので、知らん顔をしていました。


 
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魔性の女?

2008年11月01日 10時32分38秒 | 不倫…戦いの記録
息子をあきらめた義父は、私たち親子に

彼なりの精一杯で優しくしてくれました。


子供たちを連れておもちゃやお菓子を買いに行き

家族で外食、ドライブ…

一家だんらんでテレビ…


怒鳴り声の無い毎日は、とても快適でした。

     ルンル♪ランラ♪

         しあわせ~♪
         

      親父、やれば出来るんじゃん…

      夫がいる時もこうしていてくれれば…
        
      それとも、夫がいないから出来るのだろうか…


  ともかく…このまま帰って来るな…と思いながら過ごす毎日でした。




ある日、二人の女性が我が家を訪れました。
      
一人は両親の知り合いの社長夫人と

もう一人は私と同年代の知らない人でした。


「Y工業の奥さんが、心当たりがあるから

 息子を捜してやると言ってくださってる。

 写真を貸してあげてくれ」

義父は遭難者が救援隊に会ったような喜びようでした。


「私もね…主人が遊んでいた頃は、本当に苦労しましたの。

 とても人ごとと思えなくて…」


    でも今は、キンキラキンに飾り立ててベンツ乗ってるよな…

         辛抱してよかったじゃん…


「それに、あのゴルフコンペには私たちも参加してました。

 なんだか責任感じてしまって…。

 許せませんわっ!」


悪い人でないのはわかりますが

“許せない”という甘口の正義感を入場券に

よその不幸を見物に来た…私にはそう見えました。


   「お気持ちはありがたいですが

    主人が女性と一緒なのはわかっていますので

    気が済むまで放っておいたほうがいいと思っています」


義父は、I子の家に何度行っても母親のブロックで門前払いになったこと

もう帰って来なくていい気持ちと

同じ帰るなら早いほうがいいという気持ちで

苦しんでいることなどを話しました。

親としては、それが本音でしょう。 


「だからこそ、I子のいない所を狙うんじゃありませんか!

 I子はね、魔性の女なんですよっ!

 母親もグルですからねっ!
 
 I子と離れて一人のところをつかまえなければ目がさめませんわよ。

 以前、私が息子さんに市外の整体師を紹介したことがあるんです。

 息子さんは腰が悪いから、ずっと家に潜んではいられません。

 きっとその整体に行くと思います。

 そこの先生に写真を見せて頼んでおけば

 引き留めておいてくれます。

 そこをつかまえて、まず連れ戻すんですわっ!」      


かなり強引な理論ですが、正義に燃える初老のご婦人は

やり手の生保レディのように、身振り手振りで説明します。


     二人で写真を持って、意気揚々とドライブがてら行って

     帰りは食事でもして、うちのことを笑うんだろうなぁ…


「あの…」

それまでだまっていた若いほうが、口を開きました。


「私、S興業の娘です…」

I子が夫の前につきあっていた社長の娘…

夫曰く、父親の再婚に猛反対したという人でした。


「この人のお父さんの後…つまりお宅の息子さんの前に

 I子はうちの主人を追いかけ回していたんですのよっ」



      えぇ~~~?


「日頃のI子を知っていましたので

 うちの主人は相手にしなかったんです。
               
 会社へ入れろとしつこくてね…。

 主人が、免許もないのに入れられないと言ってかわしましたの。

 そしたらこちらへ入り込んだと言うじゃありませんか」


        それで免許を…


「狙われていたんですわよ」


義父が頭を抱えました。        


娘さんは言いました。

「I子の目的は、結婚です。

 入籍してくれそうな人を探しているんです」 

    
   「で、おたくのお父様との結婚がダメになったのでうちへ…?」


「父は最初から再婚などするつもりはありませんでした」

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