大森実著『講和の代償』( 昭和56年 講談社文庫 )を、読み終えた。
知らない事実を沢山教えられ、感謝せずにおれない本だった。マッカーサーにしろ、吉田茂にしろ、学校ではおそわらなかったが、当時の新聞やラジオなどで、無意識のうちの記憶がある。
敗戦後の日本を作った、この二人については、良い面が強調され、偉人のような扱いをされて、今もその印象が生きている。学生時代に深い意味も無く、『マッカーサー回想記』( ダグラス・マッカーサー著) と、『日本を決定した百年』(吉田茂著)を読んだせいもあり、敬意に近い思いを二人に抱いてきた。
本の中身は忘れているが、当人たちが書いたものなので、自分に都合の悪いことが省略されていたのだろうと、今は推察できる。本人の回想だから、自慢や誇張があって当然のことで、私はそれを非難する気はない。
しかし一人の国民としては、多面的な事実を知っておくことや、たとえマスコミが偏った報道をしても、一緒にその気にならないなど、常識を大切にしたいと願っている。大森氏は日本の戦後史に残る、大きな存在である二人を、貶めたり貶したりと、そのようなことはしていないのが、冷静な叙述が示唆している。
現在では、毎日新聞の記者も狂った朝日と同様、目を覆いたくなる反日売国の記事を書いているが、氏の著作を読んでいると、以前は違った状況だったのだと教えられる。
先ずマッカーサーは優れた軍人というより、むしろ、大きな善と悪を包含する、政治家だっということだった。共産主義の台頭に備え、軍備を含め、日本を再興すべしとするウイロビー少将は、いわば右翼の軍人である。一方のホイットニーは、財閥、軍閥、右翼政治家のすべてを放逐し、人権尊重の平和国家にすべしと言う、過激な左翼の将軍である。
水と油の彼らが、それぞれ情報局(G2)、民政局(GS)のトップとして君臨し、マッカーサーの下で、「G2・GS戦争」と呼ばれるほどの争いをしていたということ。このため、日本の政治がいかに翻弄されたか。いうまでもないことだが、ホイットニーにつながるのは、共産党を筆頭とした左翼の政治家たちで、ウイロビーに近づくのは、吉田茂以下の保守政治家たちだ。
マッカーサーは、戦勝気分に満ちた激しく対立する、二人の将軍を使い、敗戦後の日本を打ち壊し、再建するという、矛盾した政策を使い分けた人物だった。戦争放棄という、世界に例のない憲法をおしつけた一方で、無防備となった日本を、共産国家から守るために、米国軍隊の駐留か、あるいは日本の再軍備が不可欠という、危機感を同時に持っていた。
朝鮮戦争が勃発した時、彼は、日本に平和憲法を与えたことを後悔したに違いない。強引に警察予備隊を作らせ、国防の一端を担わせようとした事実が、現実となった矛盾の始まりであり、現在にまで尾を引く「憲法問題」となっている。
保守と言われる吉田茂は、マッカーサーの再軍備要請に即答せず、言を左右にして態度を明確にしない。彼は共産主義を嫌悪していたが、同じくらい、日本の軍隊も嫌悪していた。彼もマッカーサーも、朝鮮戦争直後から、日本国憲法の軍備放棄と平和主義が、大ウソの始まりとなったことを誰よりも理解していた。
こうして大森氏は、当時の日本と、アジアの状況の複雑さを描き出す。
不勉強な私は「日本国憲法」の矛盾や、中国、韓国、北朝鮮との軋轢などが、戦後の今になり露見したのだとばかり思っていたが、敗戦直後から日本は難しい立場に位置していたのだ。現在の不毛な左右の対立も、執拗な隣国の責めや攻撃も、今に始まったことでなく、当時から鳴りをひそめていたのだと分かった。
そうしてみると、原因の多くは左翼政治家よりも、保守自民党の方にあると思えて来た。経済成長を優先し、豊かさの日々に首までつかり、日本の独立を蔑ろにしてきた彼らに、腹立たしさすら覚えてくる。
普通の政治家なら、大森氏が著書で語っている事実くらいは常識だろうし、日本に欠けているものが、何であるかも理解しているはずだ。国政にたずさわる政治家なら、定年退職後に俄勉強をし、生半可な知識をかき集めている私などと、同じであるはずがない。過去から引きずっている重要問題を、彼らは、なぜ国民に語らなかったのか。反日・売国の左翼を放し飼いにし、八方美人よろしく、その場しのぎの弁明に終始したのはなぜか。保守の政治家たちに、猛省を促したくなった。
安倍氏ひとりを、諸外国に右翼にとよばせ、軍国主義者となじられるに任せ、いったい保守自民党の政治家たちは、何を考えているのかと、問いたくなる。安倍氏が退陣したら、後に続く保守政治家がいないなどと、そんな寂しい有様で、日本という国が守れるのだろうか。
政治家を責めるばかりでなく、もちろん私も国民の一人として、自分の責任は果たして行く。愚かしい反日マスコミへの、実行行為がその一つだ。朝日新聞の購読を止めたように、反日のマスコミの不買行為だ。今ひとつは、国を売る政治家へ投票をしないこと。大切な一票を、大切に使い、立派な保守政治家に入れることだ。保守と名のつく自民党にも、国を売る議員たちが混在しているから、騙されては行けない。
あるいはこうしたブログを活用し、か細い声でも上げ続けて行くことだろう。声は小さくても根気よく重ねた努力は、何時か実を結ぶはずだ。
[ 追 記 ]
日本の再軍備に強く反対する国が、中国・韓国だけでなかったことも、大森氏の本で知った。オーストラリア、ニュージーランド、フィリピンがそれである。これらの国が反対する理由は、再軍備した日本への恐怖心だという。
警察予備隊の創設に際し、ダレスが、これらの国々の説得に力を尽くしたたことなど、私は知らなかったが、どれほどの数の国民が知っているのだろう。
氏の本は、肝に銘ずべき沢山のことを教えてくれた。感謝せずにおれない。