私には、アメリカの大統領について、理屈抜きの先入観があります。民主党でも共和党でも、変わらない先入観です。
1. アメリカの大統領は、世界一のパワーを持つ国のトップである。
2. アメリカの大統領は、世界のリーダーという誇りと自信と自惚を持っている。
3. アメリカの大統領は、世界最強の米国を、最優秀のブレーンとともに、支配している。
テレビや新聞で、アメリカの抱える問題を知っていても、なぜかこの先入観が消えません。しかし今回、日高氏のお陰で、等身大の大統領とアメリカが実感できました。日米貿易戦争と呼ばれる経済交渉で、なぜクリントン氏が、あれほどまで強硬に日本を叩いたのか、やっと分かりました。氏の説明が上手いのか、それとも「温故知新」の読書で、自分が少し成長したのか。よく分かりませんが、有意義な本です。
アメリカから見れば、平成5年時の日本は、バブルが崩壊していても、それでも、米国を脅かす経済的大国だったという事実です。失業者が増大したアメリカは、失業手当を含む社会福祉費支出への歯止めが、効かなくなりつつありました。
「アメリカはすでに、全予算の50%以上が、福祉関係の支出になっており、」「社会の再生産に、全く役に立っていない。」「1945年は、増大する失業により、恐慌の年になると思われるが、」「失業の恨みは、日本経済の繁栄と貿易黒字に向けられている。」
クリントン大統領時代のアメリカと、10年毎に変化したアメリカについて、氏が次のように説明します。
1. 1960年代・・おせおせムードで、アメリカの理想を掲げ、ベトナム戦争に突入した。
2. 1970年代・・ベトナム反戦と、ウォーターゲートの時代だった。
3. 1980年代・・レーガノミックスとバブル経済で、意気軒昂だった。
4. 1990年代・・共産主義への勝利と湾岸戦争で始まったものの、アメリカの威勢が急速に萎みつつある。
アメリカは21世期に向かって、ハイテク産業に全てをかけると、クリントン氏が「経済再生計画」を打ち出しましたが、これに関する氏の見方を紹介します。
「だが本当のところ、アメリカ国民は、将来に対する不安でいっぱいなのだ。」「クリントン氏は、わずか47%の得票でホワイトハウス入りした、」「史上最低の大統領だと言われている。」「今のアメリカが、いかに意気消沈しているかが分かる。」
こういう遠慮のない批評は、日本のマスコミはしませんので、私にもやっと、沈みゆく大国が見えてきました。かくいう氏にしても、NHKにいた時は言えなかったはずですが、今は米国政府のため研究をする立場ですから、辛口の意見が言えたのでしょう。
「一方ヨーロッパ各国も、増大する失業者をかかえ、通貨の不安に悩み、」「ヨーロッパ統合の核になる、統一通貨実現へ向かうエネルギーを、」「見つけ出せないでいる。」
「今円が、異常と思われるほど高くなっているのは、」「大混乱を続けている世界情勢の中で、比較的安定しているのが日本であり、」「ここ当面、円は買いだという見方が強いからである。」
つまりこれは、日本経済が、絶対的に強いという話でなく、混乱した米国やEUに比較し、「当面安定している」という強さだった訳です。国際資本と呼ばれる巨大金融資本家たちが展開する、マネーゲームの結果として、生じている円高でした。
大東亜戦争の時もそうでしたが、日本は、自分の意思で戦争をしているつもりでしたが、実はもっと大きな外国勢力がいて、彼らの世界ゲームに参加させられていました。世界を動かす力のある、巨大金融資本家たちは、常に利益を求めて動き、他国の政府を動かしています。次の叙述が、その説明です。
「すでに述べたように、世界中が政治的、社会的混乱の最中にあるため、」「比較的に安定している日本が、資本の安全な避難場所として選ばれる、という状況は変わらず、」「1994年も、依然として円高の趨勢が続く見通しである。」
日本だけを眺めれば、ロクでもない政治家たちがいて、文句ばかり言う国民がいるように見えますが、世界の状況は、日本よりもっと酷かったのです。そうなりますと、勤勉な国民がいて、真面目な政府が、真面目な政治をしている、安定した日本と言う姿が浮かび上がってきます。
「日本は世界一だ」とか、「世界の中心が日本だ」と、あまり自惚れず、日本は、「相対的に」素晴らしい国でという事実を、知る必要があるようです。自信過剰は頂けないが、悲観ばかりしてもダメ、と言うことだと思います。
「ウォール街の金融筋は、日本の貿易黒字が増大していることを歓迎しており、」「貿易黒字が拡大している限り、日本経済にインフレの恐れはなく、」「金利も安定していると、見ている。」
氏の言う「ウォール街の金融筋」と言うのが、「ユダヤ陰謀説」の根拠となっている勢力のことです。馬野氏の本に出てきた「イルミナティ」であり、馬淵氏の言葉で言えば、「ウォール街を支配する金融資本家たち」です。日高氏の本を読んでいますと、これは陰謀論でなく、巨大資本の想定内の動きだと分かります。
ユダヤ人の中に優秀な人物が多数いて、政治家だったり、官僚だったり、あるいは学者、思想家、芸術家だったりしています。彼らをつなぎ合わせますと、「ユダヤ人陰謀説」が出来上がります。しかしこれは一面の事実で、イタリア人もロシア人もイギリス人にも、同じ話が作れます。現在では、中国人や韓国人が、その民族的つながりの強さと偏狭な思考から、陰謀説の主人公にもなっています。
私が有り難かったのは、氏の著作が、その事実を教えてくれたことです。戦前の日本も、同じようなことをしていましたし、民族陰謀説は、世界にあふれた話で、騒ぐことではありません。
話が横道にそれ、スペースが無くなってしまいました。次回は、クリントン氏と、ウォール街の金融筋の話を、もう少しご報告したいと思います。