田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-05-04 20:28:05 | Weblog
5月4日 日曜日
吸血鬼/浜辺の少女 26 (小説)
「ラミヤ。鹿沼から嫁いできたお前の母が生きかえった。未来には生きかえるという伝説がいま現実のものとなった。鹿未来の再誕だ。それも人の血をやっと吸ってくれての復活だ。うれしいではないか」
「雨野はどこにいるのかしら。かえしてくださるわね」
「それは鹿人に聞け」
 おじいちゃんはむかしのように威厳がない。老いた始祖を夏子は不安げに見あげた。
「お兄さまはなにを企んでいるのですか」
「世界制覇らしいな」
「鹿人はアナログよ。わたしはこの百年ヨーロッパをさまよい歩いてきたわ。大きな戦争を二つも経験した。数えきれないほどの死者をみた。おおくの若者が死んでいくのを見てきた。夜の一族との戦いも経験してきてたわ。でも、わたしは こちらから戦いを挑んだことはない。ひとをおそったこともない。血を吸うことはあいかわらずできない。芸術家の精気だけを吸って生きてきた。世の移り変わりを見てきた。おじいちゃん、おねがい鹿人をとめて。おたしたちはこのままでいいじゃないの。いやだったら、わたしみたいに、ひとの血を吸わなくても生きていけるようになるべきよ。ひととの共生をはかるべきよ。そけが時代になじむことと、わたしは学んできたわ」
「ばかな」
 始祖は威厳にみちた態度でいった。
「おねがい」
「ばかな。そんな考えはうけいれられない」
「偉大なる始祖。おじいちゃん。夏子の考えはわかったでしょう。あきらめるのだ、夏子。白っこらしい平和主義、反吸血鬼的な態度はすてるのだな」
 鹿人が始祖の隣に出現した。憎しみのため目が真っ赤に充血している。始祖と夏子の対面をうかがっていのだ。
「おじいちゃん。おねがい」
「だめだ。あきらめるんだ」
「おじいちゃん。わたしたちは、争わなくても、生きていけるように進化していくべきなのよ」
「おれたちは昼でも活動できるように進化してきた」
と鹿人。
「ひと、共に生きていけるようになるまで、あと一息よ。おねがい」
「おとうさん。わたしからも……おねがいします」
 よみがえった夏子の母。隼人の遥かなる祖母も口添えする。
「おやじを殺した女はだまってろ」
 憎しみをこめて鹿人がいう。
「鹿人。わたしは殺したくてあのひとを手にかけたわけではない」
「鹿未来。弁解は無用。いくたび繰りかえしてきた議論だ。またむしかえすことはない」
「それよりラミヤの処分だ。また遠隔に追放するか」
「もうたくさんよ。雨野を返してくれれば、おとなしく退散するわ。そして、もうここへはこない」
「ばかな」
 鹿人がふいに夏子におそいかかった。
憎しみのため鉤づめがブルーに光っている。
体も蛍光性ブルーの霧におおわれている。
隼人が夏子と鹿人の間にわってはいる。霧からブルーの色彩が薄れていく。
「そそれは……」
 隼人が夏子をかばう。剣を抜く。地ずりにかまえる。必殺のかまえだ。間合いにはいりこんだものは、したから掬いあげるように切る。返す刀で、切りさげる。切り口が二重になる。秘剣。稲妻二段切り。