田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-05-19 15:28:01 | Weblog
5月19日 月曜日
吸血鬼/浜辺の少女
この通りにあった宝石店がおそわれた。
ガソリンをまかれた。店内は全焼。
女子店員が6名も無残にも焼殺された事件はひとびとの記憶にある。
宝石店の在った周辺にはいまも妖気がもうもうと湧いている。
殺された店員たちの怨念のすすり泣きが聞こえてくるようだ。
アーケード街には邪悪な波動がどぶ川のように流れている。
いままでどうしてそれに気づかなかったのか隼人は驚いている。
痛みを抱えているので感覚が敏感になっているのか。
夏子の感性が隼人に憑いたからなのだろう。
セーラ服のメチャマブが、新書版ほどもある携帯用の鏡に顔を映している。
女子学生は、魂を抜き取られたように、ぼんやりと漂っている。
周囲のことなどてんで気にしていない。
周囲のことなどてんでおかまいなし。そういう学生はおおい。
が、どうもこれ異常すぎる。隼人は後をつけた。
傷から血がながれているのに、なぜか鏡の女の子が心配だった。
「うすくなっていくのよ。顔が映らなくなったらどうしょう。どうなっているの」
左手に鏡。右手に携帯。友だちに話しかけている。
「ね、どうなってるの」
しげしげと顔を映して見ている。
鏡が青白い反射光を放つ。
隼人の顔にもあたる。
めまいがした。
麻酔でも注射さたような、不思議な脱力感。隼人はよろける。
目の前を女子学生が歩いている。アヒル歩きだ。
パタパタ足裏を舗道にたたきつけるようだ。お尻が左右に揺れている。
昼間なのに、街灯が灯っている。
半地下にあるレストラン『宇都宮』などシェイドを下ろしている。
路上にぼっかりと空いた地下への階段。
巨大な軟体動物のようにうごめいている。
イラッシャイ。
いらっしゃい。
イラッシャイ。
とでもいうように、ひとを内部に吸収しようとしている。
内部にまるで吞みこもうとしているようにうごめいている。
空気には腐臭が含まれている。
これだ。隼人は驚いて立ち止まった。