田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-05-23 15:44:53 | Weblog
5月23日 金曜日
吸血鬼/浜辺の少女 48 (小説)
地下への階段を下りる。
妖霧はさらに濃くなる。
分厚い黒の扉をあける。
むあっとタバコのけむりが隼人をむかえた。
むろんタバコの煙には妖気が混入している。
「夏子、タバコの煙は……? がまんできるかな」
「それほどきらいではないから」
夏子を気づかった隼人のほうが咳きこむ。
「みなさん憑かれているようね」
「この霧が街全体をおおったらたいへんなことになる」
「そういうこと。この霧の中では、RFでも真正の吸血鬼のように強くなる」
「ねえっ。なに独り言いってるの。おどろう。おどっぺよ」
玲菜の口元で犬歯がニョロっと伸びてきた。
「吸わせて。吸わせて」
犬歯が下唇の下まで伸びた。
鋼のように光っている。
「またね。こんどにしましょう」
夏子の指が玲菜の歯をパンとはじいた。
長く鋭い二本の犬歯が夏子の手のひらにのっていた。
「いまの悲鳴聞かれたな。ひとまずここはひこう」
「そうね。まだ人間にもどれるひとたちあいてに戦えないもの」
遅かった。
取り囲まれている。
シユツと威嚇音を発している。
いままでおどっていたものたちだ。
包囲網をちぢめてくる。
夏子が隼人を抱え込む。
「ぼくも自力で跳躍できる」
ふたりは階段の登り口をにらんだ。
背中で羽ばたきが聞こえたような気がした。
夏子と隼人は手をつなぐと地上の階段めがけて飛んだ。
「いつもいつしょだな」
「そうよ。いつもいつもいっしょよ」
隼人はしっかりとにぎりあわされた手から愛の鼓動を感じていた。
「そこまでですよ。夏子さん」
またまた鬼島が待ち伏せしていた。こんどは田村もいる。
「どうして、わたしたちをほうっておいてくれないの? わたしは、隼人といっしょにいられればいいの」
「それがもんだいなのです。ふたりで生活すれば妊娠するでしょうが」
夏子がほほを赤らめた。
「わたしがいくつだと思っているの」
「高年齢出産、てこともありますから」
からかっている訳ではないらしい。
「鹿人さまは、ホワイティ――血の吸えないバンパイァがひとりでもふえるのが耐えられないのです」
夏子の顔に紅がさす。
「バカいわないで。わたしが何歳だか知っているの。あんたらが、RFになる幾世代も前からずっと生きているのよ」