4月11日 金曜日
パソコンの中のアダムとイブ 11 (小説)
放射線治療がおわった。その効果がどうなるのか。ゆっくりと歩きながら考えたかった。
歩くのにはなれている。それに、放射線をあてたために副作用で痔がでてしまった。キリコの車のシートに座るより歩いたほうがらくだ。もの書きとしての生活がながいので、座業だ。一日の大半を座って過ごしてきた。痔を患うことはあった。放射線がわるさをしたのだろう。こんどはかくべつ辛い。
雷雨があったらしい。
道にはいたるところ水たまりができていた。おおきな水たまりだ。避けようと車道のほうへ体を傾けた。轟音。とっさに、雷雨がもどってきたのかとおどろいた。そして、衝撃。はじきとばされた。暗転。
「もう、あんたぁ、ドジね。コイツ足をくじいただけじゃないの」
会話をきいただけで、ふたりがどういう間柄かわかる。
「こいつの女房を川に転落させたときの、あの女の恐怖にひきつった顔が、ちらついて思うようにハンドルきれなかった」
ふたりの会話で美智子が事故で死んだのではないことを知った。
美智子は釜川に滑落して死んだのではなかった。美智子のむごたらしい死を知らなかった。わたしは、殺人犯の共犯と結婚した。いくら、身のまわりの世話をしてもらうために結婚にふみきったししても、これは美智子への裏切りだ。許してくれ。なにも知らなかった。
許してくれ。
どうせ入選するあてもない原稿だ。
投函などたのまなければよかった。
まだまだ生きていられたのに。ごめん……美智子。
「あんたは、いつもドジよ」
キリコがわめいている。足がすごく痛む。声がでない。頭をうった。脳しんとうでも起こしているのだろうか。
木の香りがする。どうやら製材所らしい。
キーンキーンという金属音が迫ってくる。
音はゆっくりと、接近してくる。
薄暗がりなので人影しか見えない。
黒いふたりのシルエット。
大声でしゃべっているのはキリコ。
コイツとはわたしのことらしい。わたしは殺されかけている。うそだろう。キリコがこんなことをするわけがない。
うそだ。なにかのまちがいだ。
悪夢だ。悪夢からさめてくれ。さめてくれ。これは、悪夢だ。さめてくれ。だが、トラックはねられてくじいた足の痛みはほんものだ。頭もずきずき痛む。
近寄ってくる。丸ノコギリのひびき。
たけだけしい怪鳥の叫び。迫ってくる。
to be continue
パソコンの中のアダムとイブ 11 (小説)
放射線治療がおわった。その効果がどうなるのか。ゆっくりと歩きながら考えたかった。
歩くのにはなれている。それに、放射線をあてたために副作用で痔がでてしまった。キリコの車のシートに座るより歩いたほうがらくだ。もの書きとしての生活がながいので、座業だ。一日の大半を座って過ごしてきた。痔を患うことはあった。放射線がわるさをしたのだろう。こんどはかくべつ辛い。
雷雨があったらしい。
道にはいたるところ水たまりができていた。おおきな水たまりだ。避けようと車道のほうへ体を傾けた。轟音。とっさに、雷雨がもどってきたのかとおどろいた。そして、衝撃。はじきとばされた。暗転。
「もう、あんたぁ、ドジね。コイツ足をくじいただけじゃないの」
会話をきいただけで、ふたりがどういう間柄かわかる。
「こいつの女房を川に転落させたときの、あの女の恐怖にひきつった顔が、ちらついて思うようにハンドルきれなかった」
ふたりの会話で美智子が事故で死んだのではないことを知った。
美智子は釜川に滑落して死んだのではなかった。美智子のむごたらしい死を知らなかった。わたしは、殺人犯の共犯と結婚した。いくら、身のまわりの世話をしてもらうために結婚にふみきったししても、これは美智子への裏切りだ。許してくれ。なにも知らなかった。
許してくれ。
どうせ入選するあてもない原稿だ。
投函などたのまなければよかった。
まだまだ生きていられたのに。ごめん……美智子。
「あんたは、いつもドジよ」
キリコがわめいている。足がすごく痛む。声がでない。頭をうった。脳しんとうでも起こしているのだろうか。
木の香りがする。どうやら製材所らしい。
キーンキーンという金属音が迫ってくる。
音はゆっくりと、接近してくる。
薄暗がりなので人影しか見えない。
黒いふたりのシルエット。
大声でしゃべっているのはキリコ。
コイツとはわたしのことらしい。わたしは殺されかけている。うそだろう。キリコがこんなことをするわけがない。
うそだ。なにかのまちがいだ。
悪夢だ。悪夢からさめてくれ。さめてくれ。これは、悪夢だ。さめてくれ。だが、トラックはねられてくじいた足の痛みはほんものだ。頭もずきずき痛む。
近寄ってくる。丸ノコギリのひびき。
たけだけしい怪鳥の叫び。迫ってくる。
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