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男は吸血鬼だったのだ。
おそらく、この後で、純平はすすんで吸血鬼に噛まれたのだ。
澄江の敵、憎い上沢寮監を打つために吸血鬼となって、剣の修行に励んだのだ。 麻屋はそう思った。
過去に起きたことが……。
吸血鬼の侵攻が……。
100年たったいま……。
またはじまっているのだ。
「先生。勉強してる場合じゃないよ。彩音と美穂がいないの」
「いつからいないことに気づいたのだ、慶子? むろんさがしてはみたんだろうな」
「携帯もうったよ。でもつながらないよ」と静か。
「あっあれみて」
慶子がつけっぱなしになっている待合室のテレビをさした。
彩音は美穂の声を頼りに奥に駆け込んだ。
美穂が倒れている。
彩音は夢中で美穂をだきおこす。
「そのまま走れ」
さきほど、闇の中から話しかけてきた声がした。
彩音は美穂の腕を肩にかえて走りだす。
美穂を引きずっている感じだ。
とてつもない害意が追いすがってくる。
バッと行く手が白く発光する。
かまわず飛び込む。
ぬける。
発光する空間を抜け出すと夜間照明されたイベント会場だった。
「美穂ここでまっていて。助けを呼んでくるからね」
美穂を植え込みの奥に横たえる。
彩音はさらに走りつづけた。
「先生たいへんだよ。彩音がテレビに映っている」
慶子が目をまるくして叫ぶ。
クノイチ「さすけ」の北関東予選の会場だ。
予選参加者が大勢おしかけたのだろう。
夜更けの会場。
茂呂山の鹿沼花木センターで今夜おこなわれている催しだ。
でもこの病院からでは一キロちかく離れている。
いままで一緒に吸血鬼と戦っていた彩音がどうして、あんな遠くにいるのかと疑 問がわいた。
彩音は『倒連板』に跳ね上がった。
軽々と渡っていく。
それは最盛期のニジンスキーが舞台のはしからはしまで飛んでいるようだったと いわれる跳躍に似ていた。
ただしバレーではない。
彩音の所作は日本舞踊のそれだ。
鹿沼流の舞い手の優雅な動きだ。
Gを感じさせない素早い歩行で進む。
「いかん。彩音は追われている。だれか車をだしてくれ」
麻屋には彩音を遠巻きにした人狼の影が見えている。
「あたしが、バイクでいく」
「わたしも彼氏のバイクできてる」
数人のともだちが病院のフロントから走りでる。
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おそらく、この後で、純平はすすんで吸血鬼に噛まれたのだ。
澄江の敵、憎い上沢寮監を打つために吸血鬼となって、剣の修行に励んだのだ。 麻屋はそう思った。
過去に起きたことが……。
吸血鬼の侵攻が……。
100年たったいま……。
またはじまっているのだ。
「先生。勉強してる場合じゃないよ。彩音と美穂がいないの」
「いつからいないことに気づいたのだ、慶子? むろんさがしてはみたんだろうな」
「携帯もうったよ。でもつながらないよ」と静か。
「あっあれみて」
慶子がつけっぱなしになっている待合室のテレビをさした。
彩音は美穂の声を頼りに奥に駆け込んだ。
美穂が倒れている。
彩音は夢中で美穂をだきおこす。
「そのまま走れ」
さきほど、闇の中から話しかけてきた声がした。
彩音は美穂の腕を肩にかえて走りだす。
美穂を引きずっている感じだ。
とてつもない害意が追いすがってくる。
バッと行く手が白く発光する。
かまわず飛び込む。
ぬける。
発光する空間を抜け出すと夜間照明されたイベント会場だった。
「美穂ここでまっていて。助けを呼んでくるからね」
美穂を植え込みの奥に横たえる。
彩音はさらに走りつづけた。
「先生たいへんだよ。彩音がテレビに映っている」
慶子が目をまるくして叫ぶ。
クノイチ「さすけ」の北関東予選の会場だ。
予選参加者が大勢おしかけたのだろう。
夜更けの会場。
茂呂山の鹿沼花木センターで今夜おこなわれている催しだ。
でもこの病院からでは一キロちかく離れている。
いままで一緒に吸血鬼と戦っていた彩音がどうして、あんな遠くにいるのかと疑 問がわいた。
彩音は『倒連板』に跳ね上がった。
軽々と渡っていく。
それは最盛期のニジンスキーが舞台のはしからはしまで飛んでいるようだったと いわれる跳躍に似ていた。
ただしバレーではない。
彩音の所作は日本舞踊のそれだ。
鹿沼流の舞い手の優雅な動きだ。
Gを感じさせない素早い歩行で進む。
「いかん。彩音は追われている。だれか車をだしてくれ」
麻屋には彩音を遠巻きにした人狼の影が見えている。
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