日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日の想像話「耐用年数」

2014年04月13日 | ◎これまでの「OM君」
車は消耗品の固まりだ。
機械に絶対は無い。
5万キロ、10万キロ、10年。
人間の厄年の様に車にも節目がある。
車の故障を未然に防ぐ意味で各部品にICタグが搭載されてもう20年になる。
今では車検時にタグ読みとりゲートを通り、すべての部品の交換時期の目安となるレポートが打ち出される。

「本日も一日ご安全に!ああ、それから今日から配属になる山本君だ。指導よろしく頼むよ」
上司からそう申し送りされた。

「よろしくお願いします。山本です」
「ああ、よろしく。この車検場は最新の道具が導入されたばかりでね。僕自身もまだマニュアルを片手に作業しているんだ。まあ、ぼちぼちやろうよ」
そう言って、タグ読みとり機のコントロールボックスに向かう。
本日最初のお客様。
2000ccセダン。
2030年式。
運転席に初老の男性が乗っている。
各検査を車に乗ったまま完了出来るシステムだ。
「はいそのまま真っ直ぐ。はいオーケーです。しばらくお待ちください」
ゲートが移動し、スキャンが開始される。
「はい完了しました。次は7番におすすみください」
ほぼ無音で、数枚のレポート用紙が印字された。
用紙を眺めていた新人が口を開いた。
「あの、すいません。この欄のこの数字はどういう意味ですか」
指さした欄には「D残1年」と書かれている。
「ああ、それね。一般には公表されていない数字なんだ。他言無用だよ」
「はあ」
「Dはドライバー、運転手の事。残1年は余命。あのおじさんあと1年で死ぬね」
「ええ!」
「そうなんだよ。あの機械、進歩して今ではICタグを乗せていなくても耐用年数が分かるようになったんだ。運転手の寿命が分かっちゃう。でも、その事を知らせても僕たちはしょうがないでしょう。だから上の判断で伏せてあるんだ。自分ではあのゲートくぐっちゃダメだよ。世の中には知らなくてもいいことが沢山あるんだ。じゃあ、そういう事でよろしく!」
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◎本日の想像話「ジョニー」

2014年04月13日 | ◎これまでの「OM君」
どうしても金が必要だった。
建設的な話じゃあない。
借金の返済の金だ。
「お前、金はどうするんだ」
借金取りのジョニーが言った。
「ありません」
「ありませんで済むわけ無いだろう。何かプランを出せよ」
「ありません」
「何にも無いんだなお前は。よし、俺からお前にプランを出してやる。明日の夜、4丁目の雑居ビル801号室へ行け。何も考えるな。とにかく行け」

雑居ビルの前に立っている。
行かないつもりだったが、ジョニーに見つかり、そのまま車に押し込められた。
車の中でたくさんの書類にサインさせられ、ここに連れてこられた。
エレベーターが無い。
ため息をついて階段を上る。
4階辺りで息が上がってきた。
先ほど言われたジョニーの声が頭の中でこだまする。
「逃げるなよ」

801号室のドアの前に立った。
ドアノブを回す。
ガチャリとドアは開いた。
室内が真っ暗なのは何故だ。
手探りでスイッチを探した。
無い。
仕方なく室内に入る。
ドアを開けているので外の明かりで廊下の少し先は見える。
2、3歩入ると、音もなく後ろでドアが閉まった。
真っ暗になり、その場に立ち尽くす。
ライトが点いた。
うあ!
目の前に痩せた男が立っていた。
目だけがぎょろりと光り、コートのポケットに両手を突っ込んでいる。
男は無言で背を向け、歩く。
着いてこいという意味だ。
仕方なく、男の後を歩き、次の部屋に入った。
その部屋には家具らしい家具はなく、スチール机と木製の椅子2脚だけが置かれていた。
男は座った。
俺も座る。

男がポケットから手を出す。
右手にはリボルバー。
左手には弾丸1発。
机の上にゴトリと置いた。
「これを見て、あんた、何の事か分かるか」
(まさか…)
「俺はあんたと同じ境遇。書類にサインしたよな」
(サインした。)
「脅されて仕方なくサインしたが、書類の内容までは見ていない」
脂汗が出てきた。
「意志は知らないが、その書類は生きている。生き残った方に保険金が入る寸法だ」
そう言うと男はリボルバーを器用に傾け、弾丸を1発入れ、カラカラと回転させた。
「あんたからやるかい」
(いやだいやだ)
無言で首を振った。
「そうかい。なら俺からやるからな」
そう言うと瞬きをしない瞳をぎらぎらさせ、自分のこめかみに銃を構えた。
カチャ
見ているこちらが思わず目を背けた。
フーと男は息を吐き出し、銃をこちらに滑らせた。
永遠かと思われる時間が過ぎた。
男はこちらをじっと見据えている。
(出来ない。こんな事は馬鹿げている。)
ふるえる手で銃を握る。
ズシリと重い。
こめかみまで持ち上がらない。
やっとの事で自分のこめかみに銃を構える。
引き金に指をかける。
指先が白くなり、さらに力を入れる。
やるか、やるか、やるか…

「うわああああ」
机に銃を投げ出し、その勢いで椅子を押し倒しながらドアを開け、真っ暗な廊下を走り、そのまま外に出る。
1階まで一気に駆け下り、道路に出る。
逃げる。
逃げる。
ジョニーは追ってこない。
何故だ。

そのころあの部屋では…
「いやーわりと儲かったんじゃない」
ダミーの弾丸をつまみながら、ギョロ目の男が言った。
「そうだな。しょせん俺もつましい宮仕え。おいしい事もなければやってられねえよ」
ジョニーが言った。
先ほどのやりとりはネット上に同時中継されていた。
アクセスを稼ぐ。
そうするとちょっとしたお金が入る。
まあ、そういう事だ。
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