「事故物件ってご存じですか」
「はあ…」
今年の春、女子大を卒業する。
就職を機に一人暮らしを始める。
物件を案内されている車中でそんな事を言われた。
「いや、ご予算は出来るだけお安くっておっしゃられていたので」
「そうなんです。とにかく節約しない生活が成り立たないので…」
就職先はしがない中小企業。
出費は抑えるに越したことは無い。
ハンドルを握りながら、不動産仲介業者の営業マンが言う。
「今からご案内する物件は破格の安さなんです。交通の便もいい。駅前です。何故かというと…事故物件なんです。
事故物件とはですねえ…」
(いやな予感がする)
「殺人事件があったり、自殺したり、変死体が出たりした物件なんです。ちなみにここは、前の入居者、若い女性でしたけど、変死体で見つかりました」
「変死体…」
「頭が首から離れた状態で発見されました。家賃の滞納を言いにきた大家さんが発見しました。もちろん内装はリフォームしてあります。どうです。そういうの気にされます?」
(幽霊?背に腹は変えられない)
「ああ、ぜんぜん気にしません。もうそこでOKです」
という事でその一室に住むことにした。
4階建てマンションの最上階。
隣には大家さんが住んでいる。
大家さんはでっぷりと太ったおじさん。
赤いフレームのメガネをかけている。
独身。
「何か困った事があったら何でも言ってください」
そう言っていた。
粘着質な目つきも気になったが、まあいい。
とにかく慣れない事ばかりの新生活。
毎日がくたくただった。
ちょっとした異変に気づいたのはある休日の朝。
昨夜は親入社員歓迎会で帰りが遅かった。
シャワーを浴び、歯を磨いた。
歯ブラシがずいぶんくたびれている。
歯ブラシを捨てて新品に交換した。
次の日の朝、ゴミ箱にふと目をやった。
昨日捨てた歯ブラシが無い。
そんなはず…。
確かに捨てた。
その日以降、部屋の様子の異変に気づきだした。
少し開けてあった窓が閉まっている。
本の位置がずれている。
リモコンが移動している。
おのずと、ここで亡くなった女性を想像してしまう。
首と胴体が離れた女性。
そんなはずないわ。
私が恨まれる筋合いでもないもの。
気持ちはあまり良くないが、家賃の安さにはどうしても勝てない。
出来るだけ気にしないように生活していた。
夜中、何かの物音で目が覚めた。
天井から音がする?
ゴソゴソゴソ
ネズミかしら。
ズ、ズ、ズー
何かをずらす音がする。
自分の寝ている真上の天井付近。
とうとう首なし幽霊が出たわ。
そう思うと目を開けることが出来ない。
慌てて目を閉じる。
相変わらず物音がする。
好奇心に負けて、おそるおそる目を開ける。
そこには目があった。
ずれた天井の羽目板。
そこから覗く目玉二つ。
真っ赤なフレームのメガネ。
あのメガネは…
「はあ…」
今年の春、女子大を卒業する。
就職を機に一人暮らしを始める。
物件を案内されている車中でそんな事を言われた。
「いや、ご予算は出来るだけお安くっておっしゃられていたので」
「そうなんです。とにかく節約しない生活が成り立たないので…」
就職先はしがない中小企業。
出費は抑えるに越したことは無い。
ハンドルを握りながら、不動産仲介業者の営業マンが言う。
「今からご案内する物件は破格の安さなんです。交通の便もいい。駅前です。何故かというと…事故物件なんです。
事故物件とはですねえ…」
(いやな予感がする)
「殺人事件があったり、自殺したり、変死体が出たりした物件なんです。ちなみにここは、前の入居者、若い女性でしたけど、変死体で見つかりました」
「変死体…」
「頭が首から離れた状態で発見されました。家賃の滞納を言いにきた大家さんが発見しました。もちろん内装はリフォームしてあります。どうです。そういうの気にされます?」
(幽霊?背に腹は変えられない)
「ああ、ぜんぜん気にしません。もうそこでOKです」
という事でその一室に住むことにした。
4階建てマンションの最上階。
隣には大家さんが住んでいる。
大家さんはでっぷりと太ったおじさん。
赤いフレームのメガネをかけている。
独身。
「何か困った事があったら何でも言ってください」
そう言っていた。
粘着質な目つきも気になったが、まあいい。
とにかく慣れない事ばかりの新生活。
毎日がくたくただった。
ちょっとした異変に気づいたのはある休日の朝。
昨夜は親入社員歓迎会で帰りが遅かった。
シャワーを浴び、歯を磨いた。
歯ブラシがずいぶんくたびれている。
歯ブラシを捨てて新品に交換した。
次の日の朝、ゴミ箱にふと目をやった。
昨日捨てた歯ブラシが無い。
そんなはず…。
確かに捨てた。
その日以降、部屋の様子の異変に気づきだした。
少し開けてあった窓が閉まっている。
本の位置がずれている。
リモコンが移動している。
おのずと、ここで亡くなった女性を想像してしまう。
首と胴体が離れた女性。
そんなはずないわ。
私が恨まれる筋合いでもないもの。
気持ちはあまり良くないが、家賃の安さにはどうしても勝てない。
出来るだけ気にしないように生活していた。
夜中、何かの物音で目が覚めた。
天井から音がする?
ゴソゴソゴソ
ネズミかしら。
ズ、ズ、ズー
何かをずらす音がする。
自分の寝ている真上の天井付近。
とうとう首なし幽霊が出たわ。
そう思うと目を開けることが出来ない。
慌てて目を閉じる。
相変わらず物音がする。
好奇心に負けて、おそるおそる目を開ける。
そこには目があった。
ずれた天井の羽目板。
そこから覗く目玉二つ。
真っ赤なフレームのメガネ。
あのメガネは…