日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日の想像話「落し物」

2014年04月27日 | ◎これまでの「OM君」
「落とし物を絶対に拾ってあげなさい」
そう男は言った。
金曜日の夜。
行きつけの店で飲んでいた。
飲み足りず、二軒目、ふらりと初めての店に入った。
その男は後に続くように一人で入ってきた。
ひとつ席を離れてカウンター席に座った。
ウイスキーストレート。
その男は液体を舐めるように飲み始めた。
店のマスターと世間話をしていると、酒飲みの習性、人恋しい、その男も会話に入ってきた。
なんだか、今夜は楽しい。
酒がすすむ。
しばらくして男がまじめな顔で言った。
「実は、私、人を占う職業をしています。先ほどあなたがこのお店に入られるのを見かけまして、ぜひ伝えなければと思ってこの店に入ったんです」
そんな事を男は言った。
「伝えたいこと?」
「ええ、そうです。でも不吉な話では無く、ハッピーになる話です」
冒頭の言葉を言った。
「落とし物は拾ってあげなさい」
男はその後、野暮用が出来たと言って帰っていった。
楽しい事と、楽しい事の間にふと訪れる谷間。
今夜は帰るか。
そう思い会計を済ませて外に出た。
外は都会の喧騒。
音の洪水だ。
なんだか楽しそうに人々が歩いている。
今夜はいい気分だ。

駅に向かって歩いている。
前を歩く女性がバックから携帯を取り出していた。
その弾みでハンカチが落ちる。
落としたことに気づかない女性はそのまま歩いている。
自分がハンカチのところまでくる頃には女性はかなり離れていた。
ハンカチを拾い、あわてて追いかける。
「あの、ハンカチ落とされましたよ」
振り返る女性。
「あっ」
「あっ」
二人同時に声が出る。
「あなたは総務にいらっしゃる方ですよね」
「そうです、そうです」
我が社は中堅のゼネコン。
なにしろ働いている人数が多い。
こんなところで同僚に出会うとは奇遇だ。
「拾っていただいてありがとうございます…」
ちょっとした間があって、女性は続ける。
「今夜はこれでお帰りですか?」
「えっ」
「飲みます?」
「飲みましょうか」
今夜はいい夜だ。

2週間前。
とある雑居ビルの3階。
あの占い師の男が一室に入る。
探偵事務所。
「わたし、どうしてもおつきあいしたい男性がいるんです」
依頼人はそう言った。
「知り合いの人に紹介してもらったらどうなんです」
「私、同僚に誰もいないんです。そういう人…」
「そうですか」
あの男は天を仰ぎ、しばらく黙った。
そして口を開いた。
「あなた、お酒を飲むのが好きっておっしゃいましたね。この男性も飲むのが好きと…。どうです。こんな絵を描いてみましょう」
あの夜、男を尾行していた。
いいタイミングで男は一人になった。
電話で女性を呼び出し、ハンカチを落とさせた。
探偵には愛のキューピットの仕事もある。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする