日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日の空想劇場「メールの主」

2014年11月02日 | ◎これまでの「OM君」
そう、今ならはっきり分かる。
なぜ彼女が現れなかったのか。

僕は当時大学生だった。
携帯電話を利用したeメールが流行っていた。
他愛もないやりとりを仲間うちで送りあう。

ある夜、メールが届いた。
見慣れない名前。
ナオミと書かれていた。
「突然のメールでびっくりしたでしょう。
ごめんなさい。
トラックを走るあなたをいつも見ています。
昨日はずっこけてましたね。
またメールします」
僕は陸上サークルに所属している。
短距離が得意だ。
そういえば昨日、グラウンドに入る段差で足がひっかかり、こけそうになった。
そういえば、ベンチに髪の長い女の子が座っていた。
あの子か…
いやいやそんなわけないよな。
どうせ同じサークルのアツシのいたずらだよきっと。
明日、アツシをとっちめてやる。
でも、あの女の子が僕のメールアドレスをどうにか手に入れてメールを送ってくれたかもという期待もあった。
その日はなんだがわくわくしてなかなか眠れなかった。

次の日、視聴覚教室での授業が始まる前にアツシに聞いた。
「昨日のメールは何だよ」
「えっ、送ってないけど…」
「またまた~」
きょとんとした顔でアツシは言った。
「いや、本当に送ってないから」
「こんなメールが来たんだよ」
メール画面を携帯の画面に出し、アツシに渡した。
画面をスクロールさせて呼んだ後、アツシは思い出すように言った。
「え~っと一昨日の練習で、女の子いたかな~」
「ほら、グラウンド横のベンチに、髪の長い女の子だよ。座ってただろ」
「そうだったかな?いずれにしてもメール返信して会ってみろよ。おつき合いできるかもよ」
「そ、そうだな」
(そうかあ、いよいよ僕にも運が回ってきたか)
授業もそっちのけでメールを打つ。
「昨日はメールありがとう。グラウンドのあの段差よく引っかかってこけそうになるんです。毎日練習しているので、声をかけてください。では」
メール送信。
と同時に教壇の教授の怒号が襲ってきた。
「授業中に携帯をさわるとは何ごとだ!お前には単位をやらん!」
「すいません!」
思わず直立して謝ってしまった。
教室に失笑が起こった。
教室のカメラがすべてこちらに向いているような錯覚を感じた。
授業が終わって教室を出た。
携帯がメール着信を知らせて震えた。
「さっきはおもしろかったですよ」
それだけのメール。
あの教室にいたのか。
ナオミさんはどの子だろう。
あわてて戻ったがもう人影は無く、教室には誰も残っていなかった。

それからメールはちょくちょく送られるようになった。
「ラーメンを学食で食べていましたね」
「青のタートルネックのシャツお似合いです」
「髪の毛切りましたね」
最初は好意的に感じていたメールもだんだんと怖くなってきた。
しかもおかしな事にコンタクトをとろうと会う約束をしても彼女はOKしないのだった。
とうとう僕は大学の事務局に足を運んだ。
「すいません。聞きたいことがあるんです。僕の同じ学年のナオミさんを探しているんです。連絡を取りたいんです」
職員さんは名簿を見せてくれた。
しかし、同じ学年の女性にはナオミさんはいなかった。
誰なんだ。

そうこうするうちに僕は4年生になり、就職活動に忙しくなった。
煩わしいメールをやめた。
ナオミからのメッセージはピタリとやんだ。
そして卒業、就職。
時間はあっという間に過ぎていった。

あれから20年。
システムエンジニアとして仕事で母校に訪れた。
懐かしい。
対応してくれた職員さんは、当時名簿を見せてくれたおじさんだった。
母校のシステムは特徴的だった。
在学中からそうだったらしいが、OSは独自のものが使われいた。
「いや~君がこんなにりっぱに仕事をしている姿を見るとうれしくなるねえ」
おじさんは言った。
ぼくはフレームの扉を開けたまま聞いた。
「おじさんは昔からこの部署にいたんですか?」
世間話で聞いた。
「おう、そうなんだ。まあ、このOSを組んだのも俺なんだけどね」
「え、すごいですね」
「うふふ…すごいだろう。ちなみに今のバージョンはナオミ11(イレブン)っていうんだ」
「ナオミ…」
「初代は、そうだな20年にもなるかな。当時、急にシステムがダウンしてねえ。しきりに外部にアクセスしようとするんだ。どうも学内の監視カメラの映像を操作しているふしもあったんだ。
2代目からは省略したんだが、立体映像を投影出来る機能も盛り込んでいたんだ。ちょうどグラウンドの脇にあるベンチに投影出来たんだけどな。懐かしいな」

今、はっきり分かった。
なぜナオミは会わなかったのか。
そして、ここにいる僕は安全なのか?
コメント
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