日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日のお話(荷台の天井にゴトリと何かが落ちた話)

2016年01月17日 | ◎これまでの「OM君」
「おい安井君、荷台の天井がへこんでるように見えるけど何か心当たり無い?」
とある運送業者の小さな支店。
荷物を積み込んでいた俺はふと荷台の天井のへこみに目がいった。
3日前にこの車に乗ったときは無かったような気がする。
「ああ、2日前の夜中、なんか落ちてきたみたいなんですよ。すぐ止まって確認したんですけど、雨も降ってまして、何が落ちてきたか分からなかったんす。」
「そうか」
俺は脚立を持ち出した。
トラックの銀色の荷台の天井を見るためだ。
あまり荷台の天井を見ようと試みた事は無かったが、上ってみると思いの外、荷台は背が高かった。
脚立の最上部につま先立ちし、何とか天井が見えた。
確かに丸くへこんでいる。
「なんだろうねえ、植木鉢でも落ちてきたのかな」

俺の仕事は新聞を各営業所に配達する仕事だ。
深夜が俺の仕事時間なのだ。
その日も印刷所で刷り上がった新聞を荷台に満載して出発した。
走り出してしばらくすると…
「ごとん」
かすかに後ろの荷台から音が聞こえたような気がした。
俺は特に霊感が強い方ではないが、交通量も極端に減った深夜、一人ぼっちの車中。
基本的にあまり気持ちのよいシュチュエーションではない。
(気のせい、気のせい)
ラジオのスイッチをいれる。
AM、FMとも、選ぶほどの番組は放送されていない。
しかし、何かしらの放送は行われているはずだ。不思議と今夜はどの局も受信できない。
ざー
選曲スイッチを押す度、ノイズが一瞬とぎれてはまた、一定の雑音をスピーカーから発した。

「ごとん」
先ほどよりはっきりと何かの物音が聞こえた。
荷台の天井付近だったようなきがする。
(うわー気持ち悪いなー)
何とかその日の配達業務を終え、営業所に帰った。

ちょうど安井君も配達から帰ってきたので、話しかけた。
「天井付近から物音したよ」
「あ…」
そう言って彼は目をそらしながら出ていった。

次の日も、また次の日も。
その車を運転するとゴトン、ゴトンと音がする。
音量、頻度。
だんだんと激しくなっている。

「安井君!ちょっといいかな!」
退社間際の安井君を引き連れ休憩室に入った。
「場所はどのあたりで、あの車の荷台にものが落ちてきた音がした?」
俺はなぜか緊張していた。

場所を聞いた。
そこは日中でも特に交通量の少ない、歩道橋のある交差点だった。
交差点手前で通勤で使用しているバイクを止めた。
交差点のすぐ横に狭く、深い用水路が併走していることを俺は知っていた。
歩道橋の真下、安井君から聞いていた車の進行方向を想像しながら、おそるおそる用水路の底をのぞきこんだ。
真っ暗で何も見えない。
持参してきたライトで照らしてみる。
藻がゆらゆらと液面にそって揺れている。
しかし、藻の色は黒かった。

用水路の下に降りるための梯子が上流に見えた。
俺はもう少し近づこうと考え、柵を乗り越え、壁に直接打ち付けてある足場に足をかけ、用水路の底に降り立った。

近づく。
近づく。

分かった。
俺はふるえる手でスマホを取り出し、電話した。

「女性の遺体を発見しました。」


理由は分からないが、歩道橋から落下した女性がちょうどトラックの荷台でバウンドし、そのまま用水路底に、落下しはまりこんだのだ。
安井には何と伝えれば良いのだろう。
コメント
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