ゼンマイのある暮らし
私は目覚めると、枕元にあるハンドルを数回まわす。ゼンマイが巻かれて、今日一日分の家で使う動力が蓄えられる。手を離すと、巻かれたゼンマイがほどけて、ハンドルは逆に回る。目で見ても分からないほどゆっくりした回転だが、私は、ゼンマイの力を微少な音で感じながら出勤の準備を始める。
ゼンマイがすべてのテクノロジーの動力になったのはいつからだろう。ある時から地球上の酸素濃度が極端に減り、火がつかなくなった。その結果、燃えないガソリンに存在意義が無くなった。
科学者達は動力を得る方法を模索し、ゼンマイに着目する。私もその一人だった。
ある日、私はひらめいた。そのひらめきは一つのゼンマイの渦が、二つになり、三つになり、無限の渦が並列で並ぶイメージだった。
そうして現在のシステムが出来上がる。私が寝室で回したハンドルは歯車を介して地中にある何億ものゼンマイと連結して、力を蓄える。すべての人類がちょっとずつゼンマイを回し、力を取り出せるシステムが出来上がった。
出勤の準備がすんだ私は、愛車のそばに立っている。運転席のドアを開ける。地中のゼンマイから切り離される動力はどうするか。私は今でも頭を悩ます。一人、苦笑いしながら、ギアをニュートラルに入れる。
「よいしょ」
押しがけの要領でドアを開けたまま、車を二メートルほどバックさせる。これで距離にして百キロメートルほど走る力がゼンマイに蓄えられる。運転席に座る私の息は少し上がっている。ゼンマイエクササイズという本を書こうかと私は考えている。
私は目覚めると、枕元にあるハンドルを数回まわす。ゼンマイが巻かれて、今日一日分の家で使う動力が蓄えられる。手を離すと、巻かれたゼンマイがほどけて、ハンドルは逆に回る。目で見ても分からないほどゆっくりした回転だが、私は、ゼンマイの力を微少な音で感じながら出勤の準備を始める。
ゼンマイがすべてのテクノロジーの動力になったのはいつからだろう。ある時から地球上の酸素濃度が極端に減り、火がつかなくなった。その結果、燃えないガソリンに存在意義が無くなった。
科学者達は動力を得る方法を模索し、ゼンマイに着目する。私もその一人だった。
ある日、私はひらめいた。そのひらめきは一つのゼンマイの渦が、二つになり、三つになり、無限の渦が並列で並ぶイメージだった。
そうして現在のシステムが出来上がる。私が寝室で回したハンドルは歯車を介して地中にある何億ものゼンマイと連結して、力を蓄える。すべての人類がちょっとずつゼンマイを回し、力を取り出せるシステムが出来上がった。
出勤の準備がすんだ私は、愛車のそばに立っている。運転席のドアを開ける。地中のゼンマイから切り離される動力はどうするか。私は今でも頭を悩ます。一人、苦笑いしながら、ギアをニュートラルに入れる。
「よいしょ」
押しがけの要領でドアを開けたまま、車を二メートルほどバックさせる。これで距離にして百キロメートルほど走る力がゼンマイに蓄えられる。運転席に座る私の息は少し上がっている。ゼンマイエクササイズという本を書こうかと私は考えている。