日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日の想像話「永い眠り」

2020年07月12日 | ◎本日の想像話
 永い眠り
 
 私は眠りから覚めた。
 強制的に起こされたという表現が正しい。
 ここは、宇宙空間を突き進むマシン「ミッドナイト・ラン」号の一室。
 乗組員は私一人。
 人工頭脳「ロバート」がこのマシンの自動運転および管理を行っている。
 あるきっかけで、私の人工冬眠が解除されたのだ。
 永い眠りに入っていた私の身体に暖かい血液が流れるのを私は感じている。
 まだ指先一つ動かせない。私はぎこちない声を出すのが精一杯だった。
「ロバート、私が飛び立ってから、どれくらいの時間が経った?」
「百年です」
「そうか。どのくらい有用な惑星を見つけたんだ」
「酸素濃度約二十パーセント。宇宙服なしでの船外活動が可能です。水も存在しています。何より、知的生命体が多数見受けられます」
「知的生命体か、やっかいだな……」
 私は遠い記憶を呼び戻し、自身の使命を思い出す。
 出発当時、私の星では資源の枯渇が社会問題になっていた。大国同士が資源の占有をめぐって戦闘を繰り広げていた。
 科学者達は、新たな資源を外宇宙に求める事を真剣に考えだした。
 銀河系を飛び出すには、気の遠くなるほどの時間が必要で、そのためには人工冬眠の技術が不可欠だった。
 基礎研究の蓄積はあったが、人体での安全性はまだ不確実。誰もが尻込みをしていた。
 私はこの任務にぴったりの人材であったと自負しいている。
 天涯孤独。
 いたって健康体。
 生まれついての冒険家。


「バイタル安定しました」
 私は頭上で点灯しているライトが、赤から緑に変わった事を確認して、手元のボタンを押した。
 圧縮空気を介して、私を覆っているカプセル型ベットのフタ部分がグランドピアノを思わせる形に立ち上がる。
 私はゆっくりと半身を起こしてから聞いた。先ほどよりは自然に声が出るように思えた。
「ロバート。地表に降り立つのはいつになる」
「まもなくです。着陸後、本国との交信を行います」
「私はこのままでいいのか。着陸の衝撃とか……」
「衝撃?ナンセンスです。ロールスロイスよりも快適ですよ」
「そうか。お前を信用するよ」
 私はそう言いながら、ベットの縁をロバートにばれないようにしっかりと握りしめる。


 最低レベルの船外服を身につけた私は、メインモニターの前に座る。
 ロバートが気を利かせてマグカップいっぱいに注がれたブラックコーヒーをロボットアームが運んできた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 私は百年ぶりのコーヒーを口に運ぶ。舌から伝わる苦みに、脳がしびれる。
 私は自分が生きている喜びを感じながらモニターで周囲を観察する。
「ロバート、これは何だ」
 たくさんの群衆がミッドナイト・ラン号を取り囲んでいる。人々は興奮しながら口々に何かを叫んでいる。
「知的生命体達の外見は、ほぼ我々と同じように見えるな」
「そうですね」
 ロバートが冷静を保ちつつ、状況を分析しているのが、いくつかのランプの点滅で見て取れた。
「手に何か持っているな。あのプラカードをアップにしてくれ」
「わかりました」
 モニターいっぱいに、アップになった手書きの文字が映し出された。そこにはこう書かれている。
 ユー・アー・ブレイブマン(あなたは勇敢な人だ)
「ロバート、どういう意味か分かるか」
 私は動揺と困惑を隠しきれない。私の到着を知っていて、ここで待っていたという事なのか。いったいどういう事なのだ。
「あー、本国との通信で、この状況がすべて理解できました」
「残念な結果か」
「いえ、残念なことではありません。これから説明します」
「頼む」
 私は深くイスに座り直して、コーヒーを一口飲み込んだ。
「あなたが、人工冬眠で出発してから五十年後、ワープ航法が外宇宙の宇宙人からもたらされました」
「宇宙人がいたのか」
「そうらしいのです。その宇宙人は博愛主義で人道的で友好的な性格らしいのです。まあ、その件は一旦置いておきます」
「置いておくのか」
「はい、ですので、今、私たちを迎えている群衆は、ワープ航法によって先回りした、あなた様の同胞達です。しかも、あなたの勇気は生きる伝説となっているようです。人々の熱狂を見れば分かると思います」
 私はモニターに映し出されている人々の前にどのように登場するのが正解なのかを考える事しかできなかった。


コメント
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