あっち向いてホイ
東の国に、あっち向いてホイ最強の男がいるとジョーは聞いた。
年号が令和と呼ばれていた時代からずいぶんと時間が経っていた。
過去の時代では考えられないほど「あっちむいてホイ」の重要度がジョーのいる世界では上がっている。
内線に嫌気のさした首相やゲリラのトップが「あっちむいてホイ」の勝負を申し出るようになっていた。
絶対に負けれない勝負には、戦略、攻略法の研究が欠かせない。
当たり前の話だが、「じゃんけん」の勝ちが勝利への近道となる。
相手のじゃんけんパターンを知るため、半年以上の尾行及び観察が秘密裏に実行される。
無意識下の、じゃんけんパターンのすりこみも同時に行う。
国家をあげてのあっちむいてホイ戦争が密かに展開されていた。
あっちむいてホイの訓練だけを積む特殊部隊をそれぞれの国が用意している。
国家保安部に所属するジョーは緊張をできるだけ出さないように会場に入った。
代理戦争ならぬ、代理あっちむいてホイ、略して代ホイが始まる。
半年前、ジョーの属する国家に他国から申し出が入った。
油田を有する土地を巡っての争いだ。
ジョーが時間ぴったりに室内に入る。
相手はすでにそこにいた。
「今日はよろしく」
Tシャツ、Gパンを身につけた、アジア系の若者が手をあげた。
ジョーは無視する。
これは代理戦争なのだ。
遊びではない。
若者は不服そうな表情を浮かべた。
ジョーは目の前にいる青年の情報をいやというほど、知りつくしている。
相手は自分のことをどれほど知っているのか。
おそらく、同程度の諜報活動は行われているはずだ。
(レディ・セット)
室内のアンプから、合成音声が流れた。
勝負が始まる。
ジョーと青年は向かい合い、立った。
青年の瞳には自信があふれている。
今日の勝負に、ジョーは秘密兵器を用意した。
ジョーはメガネを押し上げる。
メガネ型デバイスをとおして、相手の筋肉の動きを瞬時に判断する。
相手のじゃんけんの出目、指し示す指の動き、首の動きを100%予想できる性能をそなえている。
分析から得られた指示の動きが出来ること。
ジョーがここにいる理由は、ジョーの反射神経が人並み外れているためだった。
(サイショ・ハ・グー)
アンプから、勝負のかけ声が流れた。
日本語が世界標準ルールに採用されている。
(ジャン・ケン・ポン)
ジョーのデバイスにはグーのマークが瞬時に表示される。
(もらった)
ジョーはパーを出す。
しかし、青年はチョキを出した。
(まさか)
ジョーは驚愕を隠せなかった。
青年の口もとには笑みがあった。
「アッチ・ムイテ・ホイ!」
青年が絶叫した。
ジョーのメガネ型デバイスには、青年が右を指すと表示される。ジョーは下を向いた。
青年の指は上を指した。
(なぜだ、なぜ予測が的中しない)
(ジャン・ケン・ポイ)
アンプから二巡目の勝負を告げるコールが響く。
ジョーは役に立たないメガネを投げ捨て、瞬時にプランBへと移行する。
プランBの絶対条件は、ジャンケンには必ず勝つこと。
半年間のプロファイル分析がここで役に立つ。
彼の闘争心は、相手を殴りつけるグーを出す確立が高い。
ジョーはパーをだす。
青年はグーだ。
「アッチ・ムーイテー・ホイ!」
ジョーは青年のあごもろとも粉砕する角度で上を指す動きをくりだす。
アッパーだ。
青年のあごにジョーの拳がふれる瞬間、青年は横を向きながら背中を後ろにそらせてかわす。
ジョーのこぶしは空をきる。
捨て身の禁じ手をかわされたジョーは愕然とした。
青年の口元は、恐ろしい角度で口角が上がっている。
笑っている。
次の勝負が始まった。
ジョーはジャンケンに負けた。
青年はアッチ・ムイテ・ホイを叫び、右手をむちのように振った。
ジョーは腕の動きと逆に首を振る。
逆にふったジョーの首を、いつの間にか同じ方向に動いている青年の手ががっちりとつかんでいた。
ぐりん
ジョーの首が右方向に加速し、真後ろにむく。
ジョーは、ばたりとその場に崩れ落ちた。
勝者である青年が立っている。
勝利を確認した青年は無言で部屋を後にした。
青年は迎えの車に乗り込む。
後部座席に、前もって乗っていた白衣の男に青年は自分の右手を差し出す。
白衣の男は青年の肘に手を添える。
かすかな音とともに右手が取り外される。
青年の右手は、高度なテクノロジーが搭載された義手をつかっていた。
ジョーの筋肉の動きを読み、動きを予想する仕組みは、義手のせいで無効になっていた。
東の国に、あっち向いてホイ最強の男がいるとジョーは聞いた。
年号が令和と呼ばれていた時代からずいぶんと時間が経っていた。
過去の時代では考えられないほど「あっちむいてホイ」の重要度がジョーのいる世界では上がっている。
内線に嫌気のさした首相やゲリラのトップが「あっちむいてホイ」の勝負を申し出るようになっていた。
絶対に負けれない勝負には、戦略、攻略法の研究が欠かせない。
当たり前の話だが、「じゃんけん」の勝ちが勝利への近道となる。
相手のじゃんけんパターンを知るため、半年以上の尾行及び観察が秘密裏に実行される。
無意識下の、じゃんけんパターンのすりこみも同時に行う。
国家をあげてのあっちむいてホイ戦争が密かに展開されていた。
あっちむいてホイの訓練だけを積む特殊部隊をそれぞれの国が用意している。
国家保安部に所属するジョーは緊張をできるだけ出さないように会場に入った。
代理戦争ならぬ、代理あっちむいてホイ、略して代ホイが始まる。
半年前、ジョーの属する国家に他国から申し出が入った。
油田を有する土地を巡っての争いだ。
ジョーが時間ぴったりに室内に入る。
相手はすでにそこにいた。
「今日はよろしく」
Tシャツ、Gパンを身につけた、アジア系の若者が手をあげた。
ジョーは無視する。
これは代理戦争なのだ。
遊びではない。
若者は不服そうな表情を浮かべた。
ジョーは目の前にいる青年の情報をいやというほど、知りつくしている。
相手は自分のことをどれほど知っているのか。
おそらく、同程度の諜報活動は行われているはずだ。
(レディ・セット)
室内のアンプから、合成音声が流れた。
勝負が始まる。
ジョーと青年は向かい合い、立った。
青年の瞳には自信があふれている。
今日の勝負に、ジョーは秘密兵器を用意した。
ジョーはメガネを押し上げる。
メガネ型デバイスをとおして、相手の筋肉の動きを瞬時に判断する。
相手のじゃんけんの出目、指し示す指の動き、首の動きを100%予想できる性能をそなえている。
分析から得られた指示の動きが出来ること。
ジョーがここにいる理由は、ジョーの反射神経が人並み外れているためだった。
(サイショ・ハ・グー)
アンプから、勝負のかけ声が流れた。
日本語が世界標準ルールに採用されている。
(ジャン・ケン・ポン)
ジョーのデバイスにはグーのマークが瞬時に表示される。
(もらった)
ジョーはパーを出す。
しかし、青年はチョキを出した。
(まさか)
ジョーは驚愕を隠せなかった。
青年の口もとには笑みがあった。
「アッチ・ムイテ・ホイ!」
青年が絶叫した。
ジョーのメガネ型デバイスには、青年が右を指すと表示される。ジョーは下を向いた。
青年の指は上を指した。
(なぜだ、なぜ予測が的中しない)
(ジャン・ケン・ポイ)
アンプから二巡目の勝負を告げるコールが響く。
ジョーは役に立たないメガネを投げ捨て、瞬時にプランBへと移行する。
プランBの絶対条件は、ジャンケンには必ず勝つこと。
半年間のプロファイル分析がここで役に立つ。
彼の闘争心は、相手を殴りつけるグーを出す確立が高い。
ジョーはパーをだす。
青年はグーだ。
「アッチ・ムーイテー・ホイ!」
ジョーは青年のあごもろとも粉砕する角度で上を指す動きをくりだす。
アッパーだ。
青年のあごにジョーの拳がふれる瞬間、青年は横を向きながら背中を後ろにそらせてかわす。
ジョーのこぶしは空をきる。
捨て身の禁じ手をかわされたジョーは愕然とした。
青年の口元は、恐ろしい角度で口角が上がっている。
笑っている。
次の勝負が始まった。
ジョーはジャンケンに負けた。
青年はアッチ・ムイテ・ホイを叫び、右手をむちのように振った。
ジョーは腕の動きと逆に首を振る。
逆にふったジョーの首を、いつの間にか同じ方向に動いている青年の手ががっちりとつかんでいた。
ぐりん
ジョーの首が右方向に加速し、真後ろにむく。
ジョーは、ばたりとその場に崩れ落ちた。
勝者である青年が立っている。
勝利を確認した青年は無言で部屋を後にした。
青年は迎えの車に乗り込む。
後部座席に、前もって乗っていた白衣の男に青年は自分の右手を差し出す。
白衣の男は青年の肘に手を添える。
かすかな音とともに右手が取り外される。
青年の右手は、高度なテクノロジーが搭載された義手をつかっていた。
ジョーの筋肉の動きを読み、動きを予想する仕組みは、義手のせいで無効になっていた。