GPSの光点を追って、ミツオはアクセルを踏む。
端末を凝視するエリーが首をかしげた。
「猫にしては移動速度が早すぎる」「そうだな。車に乗せて、おでかけなのかな」
「そろそろ追いつくわ。」
「どこだ」
「真上のあれじゃない」
ミツオとエリーはフロントガラスごしに上空を見上げる。戦車のように重厚な高級車がしずしずと飛行している。端末と見比べたミツオは確信する。
「間違いない」
対象車両を確認したので、ミツオは少し距離をあけた。
「しかし、あの道明寺という女は何者だと思う」
ミツオは運転席の窓を開けてタバコに火を点ける。
「GPSで居場所が分かっているのになぜ私たちに頼むのかしら。しかも高額のお金まで積んで」
「あの車はおそらく山岡興業のボス、山岡誠一の車だよ。猫を返してくれ。はいどうぞとは絶対にならない」
「どうするの?こっそりと奪うの?」
「さあ、どうしようか。エリー、車が高度を落とし始めた。どうやら目的地に到着したらしい」
山岡の車は地上に音もなく着地する。
端末を凝視するエリーが首をかしげた。
「猫にしては移動速度が早すぎる」「そうだな。車に乗せて、おでかけなのかな」
「そろそろ追いつくわ。」
「どこだ」
「真上のあれじゃない」
ミツオとエリーはフロントガラスごしに上空を見上げる。戦車のように重厚な高級車がしずしずと飛行している。端末と見比べたミツオは確信する。
「間違いない」
対象車両を確認したので、ミツオは少し距離をあけた。
「しかし、あの道明寺という女は何者だと思う」
ミツオは運転席の窓を開けてタバコに火を点ける。
「GPSで居場所が分かっているのになぜ私たちに頼むのかしら。しかも高額のお金まで積んで」
「あの車はおそらく山岡興業のボス、山岡誠一の車だよ。猫を返してくれ。はいどうぞとは絶対にならない」
「どうするの?こっそりと奪うの?」
「さあ、どうしようか。エリー、車が高度を落とし始めた。どうやら目的地に到着したらしい」
山岡の車は地上に音もなく着地する。
次の日、ミツオは道明寺の端末を確認しながらパンをかじっていた。
昨夜の道明寺の受け答えの不自然さにいやな予感を感じていた。
しかし破格の報酬に目がくらんだのも事実だった。
サンシローの現在地を示す丸印が動いた。
「エリー、猫が移動しているぞ」
パンを口の中に押し込み、コーヒーで流し込んで、ミツオは外に飛び出す。
「ちょっと待ってください」
エリーはエプロンを外しながらあわててミツオを追いかける。
「早く乗れ」
ミツオは路駐してある愛車に乗り込んでエンジンをかけた。エリーも助手席に飛び乗る。
西暦2400年、4つのタイヤで走る車はほとんどいない。ミツオが乗る車のはるか上空を自動運転により反重力カーが飛び回っている。
ミツオは住処を転々としていて、この街には近年移り住んできた。約1000年前までは奈良県と言われていた場所だ。現在は県という概念はなくなり、国がすべてを統括している。
昨夜の道明寺の受け答えの不自然さにいやな予感を感じていた。
しかし破格の報酬に目がくらんだのも事実だった。
サンシローの現在地を示す丸印が動いた。
「エリー、猫が移動しているぞ」
パンを口の中に押し込み、コーヒーで流し込んで、ミツオは外に飛び出す。
「ちょっと待ってください」
エリーはエプロンを外しながらあわててミツオを追いかける。
「早く乗れ」
ミツオは路駐してある愛車に乗り込んでエンジンをかけた。エリーも助手席に飛び乗る。
西暦2400年、4つのタイヤで走る車はほとんどいない。ミツオが乗る車のはるか上空を自動運転により反重力カーが飛び回っている。
ミツオは住処を転々としていて、この街には近年移り住んできた。約1000年前までは奈良県と言われていた場所だ。現在は県という概念はなくなり、国がすべてを統括している。
サンシローが現在いるであろう場所が地図上で光っている。ミツオは自分の記憶と地図を重ね合わせた。
「この場所はもしかして……」
ミツオは道明寺を見つめる。
道明寺は視線をそらした。
「ここは、山岡誠一の家。あなた、このおうちのことを何か知っていますか」
ミツオは取り調べの刑事のように強く詰問した。
「いえ、知りませんが、どういったおうちですか」
道明寺はしらばっくれている。
「ここは、このあたりを牛耳る山岡興業の総本山。知らないものはいません」
「それは奇遇ね。でも引き受けた依頼はやっていただけるわね。そこにサンシローちゃんがいるわ。前金をお渡しします。取り戻した暁にはこれと同額の報酬をお渡しします」
道明寺は分厚い封筒をミツオに押しつけて逃げるように部屋から出て行ってしまった。
ミツオとエリーは思わず顔を見合わせる。
「どういうことかしら」
エリーの問いかけにミツオは「分からない」としか答えることでできなかった。
「この場所はもしかして……」
ミツオは道明寺を見つめる。
道明寺は視線をそらした。
「ここは、山岡誠一の家。あなた、このおうちのことを何か知っていますか」
ミツオは取り調べの刑事のように強く詰問した。
「いえ、知りませんが、どういったおうちですか」
道明寺はしらばっくれている。
「ここは、このあたりを牛耳る山岡興業の総本山。知らないものはいません」
「それは奇遇ね。でも引き受けた依頼はやっていただけるわね。そこにサンシローちゃんがいるわ。前金をお渡しします。取り戻した暁にはこれと同額の報酬をお渡しします」
道明寺は分厚い封筒をミツオに押しつけて逃げるように部屋から出て行ってしまった。
ミツオとエリーは思わず顔を見合わせる。
「どういうことかしら」
エリーの問いかけにミツオは「分からない」としか答えることでできなかった。
道明寺と名乗る女は一枚の写真を出した。道明寺と、膝にちょこんと座る三毛猫が写っていた。
「サンシロー4歳です」
ミツオとエリーがテーブルに出された写真をのぞき込む。
「そのサンシローちゃんはいついなくなりましたか」
「一週間ほど前になります。私、サンシローはさらわれたと思ってます」
道明寺はまっすぐミツオを見ている。ミツオが言葉を返す。
「心当たりでもあるのですか」
「具体的には何もないのですが……」
ミツオは不自然に口ごもった道明寺に違和感を覚えた。話題を変えるように道明寺が続ける。
「実は、サンシローの首輪にはGPSが搭載されています」
「なら、話は早い。ささっと捕まえてしまいましょう。データを見せてください」
「端末ごとお渡ししますが、依頼を受けていただけるということでよろしいですね」
道明寺がミツオに、依頼受領の確約の言質を取る。
「現在地が分かるなら楽勝かと思います」
「では、どうぞ」
端末には地図とサンシローの現在地が表示されている。
「サンシロー4歳です」
ミツオとエリーがテーブルに出された写真をのぞき込む。
「そのサンシローちゃんはいついなくなりましたか」
「一週間ほど前になります。私、サンシローはさらわれたと思ってます」
道明寺はまっすぐミツオを見ている。ミツオが言葉を返す。
「心当たりでもあるのですか」
「具体的には何もないのですが……」
ミツオは不自然に口ごもった道明寺に違和感を覚えた。話題を変えるように道明寺が続ける。
「実は、サンシローの首輪にはGPSが搭載されています」
「なら、話は早い。ささっと捕まえてしまいましょう。データを見せてください」
「端末ごとお渡ししますが、依頼を受けていただけるということでよろしいですね」
道明寺がミツオに、依頼受領の確約の言質を取る。
「現在地が分かるなら楽勝かと思います」
「では、どうぞ」
端末には地図とサンシローの現在地が表示されている。
その女はソファからあわてて起き上がったミツオと、室内を交互に見ている。年齢は若いが、どこか抜け目のない雰囲気をまとう女だった。
ミツオが接客用として用意した粗末なローテーブルに女をいざなう。困惑気味に椅子に腰掛けた女が口を開く。
「猫って探したことありますか」
「猫?」
エリーとミツオは思わず見つめ合った。
「猫探しは専門ではない。ちょっと厳しいかな」
ミツオは腰を上げて女を追い返そうとしたが、エリーが慌てて口を押さえた。
「何事もチャレンジが我が事務所のモットーです。どんな猫ちゃんですか」
「エリー、猫探しなんてしたことないだろう」
ミツオは抗議の視線でエリーをにらむ。
「先々月、先月、今月の家賃。払えますか」
ミツオは返す言葉を失う。背に腹は代えられないとはこのことだ。生きることは本当に難しい。
「おまかせください。探して見せましょう。どんな猫ちゃんですか」
ミツオは両手をわかりやすく揉み出した。
ミツオが接客用として用意した粗末なローテーブルに女をいざなう。困惑気味に椅子に腰掛けた女が口を開く。
「猫って探したことありますか」
「猫?」
エリーとミツオは思わず見つめ合った。
「猫探しは専門ではない。ちょっと厳しいかな」
ミツオは腰を上げて女を追い返そうとしたが、エリーが慌てて口を押さえた。
「何事もチャレンジが我が事務所のモットーです。どんな猫ちゃんですか」
「エリー、猫探しなんてしたことないだろう」
ミツオは抗議の視線でエリーをにらむ。
「先々月、先月、今月の家賃。払えますか」
ミツオは返す言葉を失う。背に腹は代えられないとはこのことだ。生きることは本当に難しい。
「おまかせください。探して見せましょう。どんな猫ちゃんですか」
ミツオは両手をわかりやすく揉み出した。
ミツオは、自分には親分を殺した覚えはない。
敵は多いであろう親分が、死ぬことになったのかを考えながら、霧の中を歩く。
そしてひとつの可能性にたどりつく。
あの猫の案件かもしれない。
始まり夕暮れだった。
ミツオはやることもなくソファーで横になっていた。その姿を視界のはしに捕らえながら相棒であり、アンドロイドのエリーがつぶやく。
「ひまですね」
ただの毛糸だったものが、エリーの手元で帯状の布地に変化していく。最近はまっている、編み物のおかげで、エリーは退屈していないようだ。
「何を作っている」
ミツオは今夜の夕食もままならない、切実な経済の問題から目をそらすように聞く。
「秘密です」
エリーは照れながらミツオに背を向けた。
「すいません。ロクロ探偵事務所ってここで合ってますか」
ミツオの本名はロクロ・ミツオ。
雑居ビルの2階に事務所兼、住居として巣作っている。
ドアの下が直ぐ階段という不思議な作りの部屋に戸惑いながら、髪の長い女性が降りてきた。
「はいそうです」
エリーが足取り軽く、女性を出迎えた。
敵は多いであろう親分が、死ぬことになったのかを考えながら、霧の中を歩く。
そしてひとつの可能性にたどりつく。
あの猫の案件かもしれない。
始まり夕暮れだった。
ミツオはやることもなくソファーで横になっていた。その姿を視界のはしに捕らえながら相棒であり、アンドロイドのエリーがつぶやく。
「ひまですね」
ただの毛糸だったものが、エリーの手元で帯状の布地に変化していく。最近はまっている、編み物のおかげで、エリーは退屈していないようだ。
「何を作っている」
ミツオは今夜の夕食もままならない、切実な経済の問題から目をそらすように聞く。
「秘密です」
エリーは照れながらミツオに背を向けた。
「すいません。ロクロ探偵事務所ってここで合ってますか」
ミツオの本名はロクロ・ミツオ。
雑居ビルの2階に事務所兼、住居として巣作っている。
ドアの下が直ぐ階段という不思議な作りの部屋に戸惑いながら、髪の長い女性が降りてきた。
「はいそうです」
エリーが足取り軽く、女性を出迎えた。
ミツオは老人の顔を見て息を飲む。そして、自分の置かれている状況の最悪さに天を見上げる。その老人は近年、デジタルでしのぎを作り出している松山興業の親分だ。しかも昨夜、酒場で会って酒を飲んだ。
自分は殺していない。
そう主張しても、誰もミツオの言葉は信用しないだろう。
とにかくこの場から姿を消すしかない。そう考えたミツオは部屋のドアを探す。部屋の端に青色の扉が揺らめく炎に浮かび上がった。老人を見据えたまま後ずさったミツオが扉に到達する。
鍵のかかっていないドアは音もなく開いた。
廊下があり、地上階に続く階段があった。
ミツオは外に出る。
石畳をふみながら、もう一つの扉の勝手口をめざす。
重厚な門扉にも鍵はかかっておらず、道路に出たミツオは一目散に走る。
一部始終をモニターで見ている人物がいることをミツオは知らない。
自分は殺していない。
そう主張しても、誰もミツオの言葉は信用しないだろう。
とにかくこの場から姿を消すしかない。そう考えたミツオは部屋のドアを探す。部屋の端に青色の扉が揺らめく炎に浮かび上がった。老人を見据えたまま後ずさったミツオが扉に到達する。
鍵のかかっていないドアは音もなく開いた。
廊下があり、地上階に続く階段があった。
ミツオは外に出る。
石畳をふみながら、もう一つの扉の勝手口をめざす。
重厚な門扉にも鍵はかかっておらず、道路に出たミツオは一目散に走る。
一部始終をモニターで見ている人物がいることをミツオは知らない。
後頭部の鈍い痛みでミツオは目を覚ました。真っ暗で何も見えない。どこにいるのかも分からない。無意識に後頭部に手をやる。ぬるりとした感触を指先に感じる。指先の液体は血液特有の匂いを発している。自分が、どの程度の傷を負っているのかと想像して血の気が引いた。しかし傷の痛みは出血を伴うものでもなく、どうやら自身の血ではないという結論にたどり着いた。
では一体誰の血なのか……
ミツオは上着の内ポケットをまさぐる。オイルライターを確認してすぐさま着火する。
コンクリート打ちっぱなしの壁、床を見て、直感的にどこかの地下室だとミツオは思った。血だまりの端を見たミツオは炎を横にふる。
首から血を流す和服姿の老人が断末魔の表情を浮かべて横たわっている。ミツオはおそらくすでに息絶えているであろう人物に近づく。
ライターをかざして誰なのかをよく見た。
では一体誰の血なのか……
ミツオは上着の内ポケットをまさぐる。オイルライターを確認してすぐさま着火する。
コンクリート打ちっぱなしの壁、床を見て、直感的にどこかの地下室だとミツオは思った。血だまりの端を見たミツオは炎を横にふる。
首から血を流す和服姿の老人が断末魔の表情を浮かべて横たわっている。ミツオはおそらくすでに息絶えているであろう人物に近づく。
ライターをかざして誰なのかをよく見た。