反対 金子光晴
ぼくは少年の頃
学校に反対だった
ぼくは、いままた
働くことに反対だ
僕はだいいち、健康とか
正義とかが大嫌いなのだ
健康で正しいほど
人間を無情にするものはない
むろん、やまと魂は反対だ
義理人情も反吐がでる
いつの政府も反対であり
文壇画壇にも尻をむけている
何しに生まれてきたと問わるれば
躊躇なく答えよう
反対しにと
僕は、東にいる時は
西に行きたいと思ひ
着物は左前、靴は左右
袴はうしろまえ
馬には尻をむいて乗る
人の嫌がるものこそ、僕の好物
とりわけ嫌いは、気のそろうことだ
僕は信じる
反対こそ、人生で
ただ一つ立派なことだ
反対こそ、生きていることだ
反対こそ、自分をつかむことだ