詩人PIKKIのひとこと日記&詩

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2015年07月20日 | 反戦詩

  サキノハカといふ黒い花といっしょに    宮沢賢治

サキノハカといふ黒い花といっしょに
革命がやがてやってくる
ブルジョアジーでもプロレタリアートでも
おほよそ卑怯な下等なやつらは
みんなひとりで日向へ出た蕈のやうに
潰れて流れるその日が来る

やってしまへやってしまへ
酒を呑みたいために尤らしい波瀾を起すやつも
じぶんだけで面白いことをしつくして
人生が砂っ原だなんていふにせ教師も
いつでもきょろきょろひとと自分とくらべるやつら

そいつらみんなを
びしゃびしゃに叩きつけて
その中から卑怯な鬼どもを追ひ払へ
それらをみんな魚や豚につかせてしまえ

はがねを鍛へるやうに
新らしい時代は新らしい人間を鍛へる
紺いろした山地の稜をも砕け
銀河をつかって発電所もつくれ

注:改行は僕の責任。サキノハカは墓という字を分解したという説がある。晩年にはマルクスやレーニンを勉強していたり、「革命」という作品名が賢治の手帳に残されている。
その他に好きな詩は「生徒諸君に寄せる」。宇宙飛行士の毛利さんが好きで宇宙まで持っていったという詩集から朗読していた詩でーhttp://www.ihatov.cc/haru_3/383_d.htm

 

◆アーサー・ビナードが絶賛。「革命の詩人」という呼称が唯一相応しいふるさと北海道の詩人

  馬車の出発の歌
               小熊秀雄


仮りに暗黒が
永遠に地球をとらえていようとも
権利はいつも
目覚めているだろう、

薔薇(ばら)は闇(やみ)の中で
まっくろに見えるだけだ、
もし陽(ひ)がいっぺんに射(さ)したら
薔薇色であったことを証明するだろう
嘆きと苦しみは我々のもので
あの人々のものではない
まして喜びや感動がどうして
あの人々のものといえるだろう、
私は暗黒を知っているから
その向うに明るみの
あることも信じている
君よ、拳を打ちつけて
火を求めるような努力にさえも
大きな意義をかんじてくれ

幾千の声は
くらがりのなかで叫んでいる
空気はふるえ
窓の在(あ)りかを知る、
そこから糸口のように
光りと勝利をひきだすことができる

徒(いたず)らに薔薇の傍らにあって
沈黙をしているな
行為こそ希望の代名詞だ
君の感情は立派なムコだ
花嫁を迎えるため
馬車を支度しろ
いますぐ出発しろ
らっぱを突撃的に
鞭(むち)を苦しそうに
わだちの歌を高く鳴らせ。

 

◆ 沖縄の詩人 山之口獏は、宮沢賢治・金子光晴同様に関東大震災が詩作の出発点の詩人。方言の訛がきつかったので、何度か死ぬ目に会ったのではないかと想像する。(関東 大震災後に約一万人の朝鮮半島の人々、中国人、ドモリや訛のきつい人々が、「君が代」等が上手く歌えなかったり喋れずに、各地で検問中の自警団に撲殺され たという→日本民衆史上最大の汚点!)

  「紙の上」  山之口獏

戦争が起きあがると 
飛び立つ鳥のように 
日の丸の羽をおしひろげ
そこからみんなで飛び立った
一匹の詩人が紙の上にいて 
群れ飛ぶ日の丸を見あげては 
だだ だだ と叫んでいる
発育不全の短い足 
へこんだ腹 
持ちあがらないでっかい頭
さえずる兵器の群をながめては 
だだ だだ と叫んでいる
だだ だだ と叫んでいるが 
いつになったら「戦争」がいえるのか 
不便な肉体 どもる思想 まるで砂漠にいるようだ
インクに渇いたのどをかきむしり熱砂の上にすねかえる
その一匹の大きな舌足らず 
だだ だだ と叫んでは
飛び立つ兵器の群をうちながめ 
群れ飛ぶ日の丸を見あげては 
だだ だだ と叫んでいる


 『ミミコの独立』

 とうちゃんの下駄なんか
 はくんじゃないぞ
 僕はその場を見て言ったが
 とうちゃんのなんか
 はかないよ
 とうちゃんのかんこをかりてって
 ミミコのかんこ
 はくんだ と言うのだ
 こんな理屈をこねてみせながら
 ミミコは小さなそのあんよで
 まな板みたいな下駄をひきずって行った  
 土間では片隅の
 かますの上に
 赤い鼻緒の
 赤いかんこが
 かぼちゃと並んで待っていた


  『座蒲団』 山之口 獏

土の上には床がある
床の上には畳がある
畳の上にあるのが座蒲団でその上にあるのが楽といふ
楽の上にはなんにもないのであろうか
どうぞおしきなさいとすすめられて
楽に坐ったさびしさよ
土の世界をはるかにみおろしてゐるやうに
住み馴れぬ世界がさびしいよ

  
   「世はさまざま」

人は米を食っている
僕の名と同じ名の
獏という獣は
夢を食うという
羊は紙も食い
南京虫は血を吸いにくる
人にはまた
人を食いに来る人や人を食いに出掛ける人もある
そうかと思うと琉球には
うむまあという木がある
木としての器量はよくないが詩人みたいな木なんだ
いつも墓場に立っていて
そこに来ては泣きくずれる
かなしい声や涙で育つという
うむまあ木という風変わりな木もある


   「がじまるの木」

ぼくの生まれは琉球なのだが
そこには亜熱帯や熱帯の
いろんな植物が住んでいるのだ
がじまるの木もそのひとつで
年をとるほどながながと
気根(ひげ)を垂れている木なのだ
暴風なんぞには強い木なのだが
気立てのやさしさはまた格別で
木のぼりあそびにくるこどもらの
するがままに
身をまかせたりしていて
孫の守りでもしているような
隠居みたいな風情の木だ


  「底を歩いて」

なんのために
生きているのか
裸の跣で命をかかえ
いつまで経っても
社会の底にばかりいて
まるで犬か猫みたいじゃないかと
ぼくは時に自分を罵るのだが
人間ぶったぼくのおもいあがりなのか
猫や犬に即して
自分のことを比べてみると
いかにも人間みたいに見えるじゃないか
犬や猫ほどの裸でもあるまいし
一応なにかでくるんでいて
なにかを一応はいていて
用でもあるみたいな
眼をしているのだ

  注; 山之口獏は、宮沢賢治・金子光晴同様に関東大震災が詩作の出発点の詩人。方言の訛がきつかったので、何度か死ぬ目に会ったのではないかと想像する。(関東 大震災後に約一万人の朝鮮半島の人々、中国人、ドモリや訛のきつい人々が、「君が代」等が上手く歌えなかったり喋れずに、各地で検問中の自警団に撲殺され たという→日本民衆史上最大の汚点!)

 

 ◆最近の詩人は肩がこらない詩人の方が好きだ

  日本が見えない  竹内浩三

この空気
この音
オレは日本に帰ってきた
帰ってきた
オレの日本に帰ってきた
でも
オレには日本が見えない

空気がサクレツしていた
軍靴がテントウしていた
その時
オレの目の前で大地がわれた
まっ黒なオレの眼漿《がんしょう》が空間に
とびちった
オレは光素(エーテル)を失って
テントウした

日本よ
オレの国よ
オレにはお前がみえない
一体オレは本当に日本に帰ってきているのか
なんにもみえない
オレの日本はなくなった
オレの日本がみえない

 

◆日本ではまだまだ未開拓な川柳や現代短歌にすばらしい作者が多い・・

 宵深き街のほとりにうずくまりほろほろとパンを食みにけるかも
『松倉米吉短歌集』(近代デジタルライブラリー)ー・・すごい虫食い状態の大正時代の本かな

 

つる あきら 川柳作家 1909.1.1-1938.9.14 石川県生まれ。高等小学校卒業後勤めた機屋の倒産により大阪に出る。プロレタリア川柳論争に出 会い、共鳴。故里に帰り全日本無産者芸術連盟(ナップ)支部を結成するが、間もなくプロレタリア川柳会員として検挙される。昭和五年、金沢第七連隊に入営 するも赤化事件で軍法会議にかけられ収監、拷問を受ける。刑期一年八ヶ月、二等兵のまま除隊するが常に警察の圧迫を受ける。掲載最終五句は「川柳人」(昭 和十二年十一月 二八一号)に掲載された最後の作品だが、掲載と同時に密告告発により治安維持法違反に問われ留置。不潔不衛生で有名な留置場で、そこで赤 痢にかかり移送先の病院で死亡(官憲の手により赤痢菌を盛られたという説もある)。二十九歳。ベッドに手錠で括りつけられていたという。「川柳人」を主宰 し鶴彬の理解者だった井上信子は同時に検挙されたが高齢のため不拘束となった。掲載作は「鶴彬川柳選」と付し、『鶴彬全集』(たいまつ社 昭和五十二年九 月)より抄録。

鶴 彬 川柳選

 昭和三年

飢えにける舌――火を吐かんとして抜かれ

人見ずや奴隷のミイラ舌なきを

ロボットを殖やし全部を馘首する 

 昭和四年

つけ込んで小作の娘買ひに来る

銃口に立つ大衆の中の父

自動車で錦紗で貧民街視察

神殿の地代をとりに来る地主

出征のあとに食へない老夫婦 

 昭和五年

勲章やレールでふくれたドテッ腹

ゼネストだ花が咲かうが咲くまいがよ

主人なき譽の家にくもが巣を 

 昭和九年

瓦斯タンク! 不平あつめてもりあがり

跳ねさせておいて鱗を削ぐ手際

 昭和十年

凶作を救へぬ仏を売り残してゐる

暁の曲譜を組んで闇にゐる

ふるさとの飢饉年期がまたかさみ

生き仏凡夫とおなじ臍をもち

飯櫃(めしびつ)の底にばったり突きあたる

地下へもぐって春へ春への導火線

銃剣で奪った美田の移民村

ふるさとは病ひと一しょに帰るとこ

武装のアゴヒモは葬列のやうに歌がない

赫灼の火となるときを待つ鉄よ

牧場へもえ出て喰はれる春の草

冬眠の蛙へせまる春の鍬

良心を楽屋においたステージの声

縛られた呂律のまゝに燃える歌

これからも不平言ふなと表彰状

血を吸ふたまゝのベルトで安全デー

玉の井に模範女工のなれの果て

売り値のよい娘のきれいさを羨まれてる

フジヤマとサクラの国の失業者

みな肺で死ぬる女工の募集札 

 昭和十一年

けふのよき日の旗が立ってあぶれてしまふ

ざん壕で読む妹を売る手紙

修身にない孝行で淫売婦

貞操と今とり換へた紙幣の色

仲間を殺す弾丸をこさへる徹夜、徹夜

暁をいだいて闇にゐる蕾

枯れ芝よ! 団結して春を待つ

転向を拒んで妻に裏切られ

売られずにゐるは地主の阿魔ばかり

神代から連綿として飢ゑてゐる

日給で半分食へる献立表

王様のやうに働かぬ孔雀で美しい

 昭和十二年

鉄粉にこびりつかれて錆びる肺

息づまる煙の下の結核デー

タマ除けを産めよ殖やせよ勲章をやろう

葬列めいた花嫁花婿の列へ手をあげるヒットラー

ユダヤの血を絶てば狂犬の血が残るばかり

凶作つづきの田は鉱毒の泥の海

十年はつくれぬ田にされ飢えはじめ

殴られる鞭を軍馬は背負はされ

バイブルの背皮にされる羊の皮

正直に働く蟻を食ふけもの

蟻食ひの舌がとどかぬ地下の蟻

蟻食ひを噛み殺したまゝ死んだ蟻

パンを追ふ群衆となって金魚血走ってる

稼ぎ手を殺してならぬ千人針

枕木は土工の墓標となって延るレール

高梁(コーリャン)の実りへ戦車と靴の鋲

屍のゐないニュース映画で勇ましい

出征の門標があってがらんどうの小店

万歳とあげて行った手を大陸において来た

手と足をもいだ丸太にしてかへし

胎内の動きを知るころ骨がつき

 

 


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