ニューズウィークが、ドイツの自動車会社が次々とカーシェアリング、クルマと人、公共交通システムと人とをつなげる革新的なソーシャル・アプリを介したいろいろなモビリティ・サービス事業を充実し始めているという。然も、単独ではなく、競争相手である自動車会社が共同でMaas事業を展開しているという。クルマを製造し販売するだけの産業の限界を認識し、デジタル・サービスを組み合わせた都市型モビリティ・エコシステムを創出することが自動車産業の生き残れる道だというわけか? MaaSはドイツで生まれたアイデアにせよ、日本の自動車会社は相変わらず、ガソリンエンジンの宣伝しか行っていない。トヨタだけが、一時期MaaSで、新しい概念を宣伝していたが、相変わらず、車単体の宣伝。多くの人は車には勝手ほどの興味は示していない。いささか日本の自動車産業、心配になる。それこそ、数十年前は日本のICT、世界の最先端を行っていた時期があったが、今は、後進国のトップを言っているという感じ。日本の自動車会社、パラダイムシフトしてもらいたいもの。
BMWとダイムラーは合弁会社を設立し、5つのモビリティ・サービスを
2019年2月、2つの大手ライバルであるBMWとダイムラーは、それぞれの都市型モビリティ・サービス事業を5つのサービスに統合する合弁会社を設立し、10億ユーロ(約1,246億円)の投資を実行した。
この5つの事業内容を紹介しよう。第1は、AからB地点に移動するためのさまざまなオプションをユーザーに提供し、地元の交通機関のチケットを予約して直接支払い、カーシェアリングからレンタル自転車などを複数組み合わせて移動オプションを提供するREACH NOW(マルチモーダル)である。
第2は、電気自動車のドライバーにむけた充電サービス、CHARGE NOW(充電)である。このサービスを通じて、ドイツ国内および海外の公共の充電スタンド(25か国に100,000を超える充電ポイントがある)を簡単に見つけ、使用し支払うことができる。
第3は、スマホをタップするだけで、顧客はタクシー、プライベート・ドライバー、または最新のeスクーターなどをオファーできるFREE NOW(タクシーやライドシェア配車)である。これは、ヨーロッパとラテンアメリカで2,100万人以上の顧客と25万人以上のドライバーとつながっている。市内の交通量の削減に重要な貢献をしているサービスであるFREE NOWは、ベルリンでは、Uberを超えてタクシーやライド配車の定番となっている。
第4は、駐車場や路傍での駐車を簡素化した革新的なデジタル・パーキングサービスであるPARK NOW(駐車場予約)である。このサービスは、顧客に最適なパーキング・ソリューションを提供する。駐車スペースを一目で見つけ、予約し、駐車時間を指定し、チケットなしで駐車場に出入りし、キャッスレスで駐車料金を支払うことができる。
第5は、スマートフォンを使って、いつでもどこでも、自由に街中のカーシェアリング・サービスにアクセスでき、31の都市で20,000台のクルマが配置され、合計400万人を超える顧客がいるSHARE NOW(カーシェアリング)である。カーシェアリングは、車両の利用率を高めることができるため、都市の車両総数を減らすことができる。メルセデス・ベンツやBMW、ミニ・クーパーなど、ユーザーが望むクルマが選択できるのも魅力となっていて、市場のカバー範囲が拡大している。
ドイツで進む「新しいクルマ」のあり方 企業も市民も行政も価値観を変え
ベルリンのタクシーはメルセデス・ベンツとトヨタ・プリウスに二分される。ベンツのお膝元でも、プリウスの評価は高い。写真はトヨタ・プリウス。車体にはFREE NOWのロゴがある
<ベルリンでは、数年前からMaaS(サービスとしてのモビリティ)の可能性を実感できるサービスが次々と登場している......>
ドイツには226のカーシェアリング・プロバイダーがある
人が移動する手段や、社会の交通システムと情報コミュニケーションとを最適化するのがモビリティ・マネージメントである。これは「サービスとしてのモビリティ(Mobility as a Service: MaaS)」としても知られ、より個人化された移動サービスの基盤でもある。世界中でMaaSの市場に勢いが生まれた背景には、ライドシェアリング、配車サービス、バイクやスクーターを含むカーシェアリング・サービスなど、革新的なモビリティ・サービスプロバイダーの急成長がある。
特にカーシェアリングや自動運転車をオンデマンドで手軽に利用できれば、自家用車を所有することの経済的デメリットは顕著となる。MaaSへのシフトは、シームレスに複数の交通チェーンをスマホ・アプリに統合することで、移動のすべての区間で予約とキャッシュレス支払いを一括管理できる利点がある。
ここベルリンでは、数年前からMaaSの可能性を実感できるサービスが次々と登場している。クルマと人、公共交通システムと人とをつなげる革新的なソーシャル・アプリを介したサービスが次々に生まれ、都市のモビリティに大きな変化が到来している。内燃エンジンから電気自動車への急速なシフトも、環境負荷に配慮した次世代のクルマ社会の顕著な動向である。
中でも、自動車大国ドイツの各都市では、クルマを所有せず、クルマを複数の人と共有するカーシェアリング市場が急拡大してきた。ドイツ・カーシェアリング協会の調査によれば、現在、ドイツには226のカーシェアリング・プロバイダーがあり、国内840か所でクルマの共有(シェア)が実施されている。ドイツ国内で229万人の顧客が登録されていて、利用されるクルマは25,400台を数える。パンデミックによるロックダウンで一時サービスが休止状態に追い込まれたが、今は市内の移動や近場の旅行などのニーズに対応し復活している。
今やクルマはスマホのアクセサリーか?
ベルリンはオーガニックやビオ(Bio)食品、エコ・ビジネスなど、ライフ・イノベーション産業の中心地でもあり、循環型持続社会への取り組みは、ドイツの基幹産業である自動車産業にも劇的な変化を促してきた。この変化の主要な要因は、クルマと人を直接つなげるスマホ・アプリの威力である。個人のモビリティ・マネージメントの大半は、情報のモビリティとなり、今やクルマはスマホのアクセサリーとさえなっている。人々の新たな情報器官となったスマホは、実体経済の仲介役としてさまざまなビジネスをもたらしてきた。スマホというソーシャル・インフラこそ、既存産業のすき間に様々なビジネスを生み出すプラットフォームである。
ドイツの自動車産業界が、相次いでカーシェアリングを軸にした新ビジネスに参入した背景には、未来の自動車産業の課題が反映されている。単にクルマを個人に販売するだけでなく、クルマが社会全体の中でどう存在すべきなのか?そのひとつの答えが、カーシェアリングによるモビリティ社会の再構築なのだ。
ダイムラーのCEOであるディーター・ゼッツェ氏とBMWのCEOであるハラルド・クルーガー氏は、クルマを製造し販売するだけの産業の限界を認識し、デジタル・サービスを組み合わせた都市型モビリティ・エコシステムを創出するために、大手2社だけでなく、スタートアップとの連携を強化しようと考えてきた。ドイツの自動車メーカーは、お互い競い合うだけではなく、共にUberやグーグル、そしてテスラに挑むことを決意したのだ。合弁会社の拠点は、もちろんベルリンである。
今や世界各地に拡張しているドイツのカーシェアリング・ビジネス
ドイツの自動車メーカー大手にとって、モビリティ関連の新興企業によってもたらされた脅威は、彼らの100年前のライバルよりはるかに大きな影響を与えている。BMWとダイムラーによるジョイント・ベンチャーは、世界に約6,000万人いる彼らの顧客に向けたモビリティ・エコシステムをめざすものだ。
ドイツの主力自動車会社が世界に先がけて始めたカーシェアリング・ビジネスは、ドイツ国内にとどまらず、今や世界各地に拡張している。中でも、BMWが最初に市場参入し、現在ダイムラーとの合弁会社として運営されているSHARE NOWは、ここベルリンでは多くの支持を得ている。「フリー・フローティング・カーシェアリング」と呼ぶこのサービスは、クルマが街中のどこにでもあることを意味している。市内のどこにいても、半径200メートル以内にクルマが見つかる、というのが謳い文句で、事実、急にクルマが必要になれば、専用のスマホ・アプリで周辺のクルマを探し、スマホのアプリがクルマのキーになり、面倒な手続き不要でクルマをシェアできる。
駐車スペースも地下駐車場や専用駐車ゾーン以外なら、市内どこでも停められる。これは、SHARE NOWがベルリン市と包括的な駐車料金支払い契約を結んでいるからだ。SHARE NOWは、そのスマホ・アプリの使い勝手の良さもさることながら、1キロメートルにつき0.19ユーロ(約24円)の料金で短時間でも長時間でも乗り捨てできる。2時間で13.99ユーロ(約1,744円)、一日シェアしても24.99ユーロ(約3,116円)である。駐車代、燃料代、保険料などの諸経費も、利用料金に含まれており、その利便性が市場拡大を支えている。
企業も市民も行政も"クルマ"の価値観を変えた
ベルリン市の人口は377万人、そこに1,200台のクルマが点在しているだけで、多くの人々のクルマ利用のニーズを満たしている。実際ベルリンの街を歩いていると、このSHARE NOWのクルマによく遭遇する。従来の所有するクルマではなく、皆とシェアするクルマというパラダイム・シフトを実現するのは、簡単なことではなかったはずだ。
ベルリン市はこの新たなクルマのコンセプトを、環境問題解決や都市交通網の最適化に貢献すると判断した。道路交通法を抜本的に変え、これらの新規ビジネスの参入障壁を取り除き、かつ都市環境問題の解決に取り組むという、企業、市民、行政のそれぞれが価値共有(シェアリング・バリュー)に成功した事例となったのである。
同時に、既存の自動車産業とユーザー・コミュニティが直接つながることで、異業種とのコラボレーションも生まれている。今やクルマは、道路の上にあるだけでなく、インターネット(スマホ)の中に存在している。クルマを所有する人が減少する中、特に若者たちのクルマ離れは世界の先進国で顕著となっている。クルマが所有するだけの選択肢に留まっていたなら、若者たちはクルマの免許すら取得しないかもしれない。
しかし、クルマをシェアする時代が到来したことで、若者たちはクルマの免許を取得しようとする。カーシェアリング・ビジネスへの参入によって、クルマが売れなくなるのではという懸念も産業界にあった。ドイツの自動車産業界は、カーシェアリングを敵にするのではなく、未来のクルマ社会の味方にしたのだ。この懸命な選択は評価されるべきだろう。今やクルマも、ソーシャル(社交する)メディアであるからだ。
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