日本経済新聞社は2020年度の設備投資動向調査をまとめた。企業のIT(情報技術)投資の計画額は前年度実績比15.8%増と大幅に増える見通しだ。新型コロナウイルスの感染拡大で集計企業全体の設備投資額が1.2%減になるなか、積極性が目立つ。モノやヒトの動きが滞り、ビジネス環境は一変している。販売や供給網の変革につながるデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる。
調査は上場企業と資本金が1億円以上の有力企業948社を対象に集計した。20年度の全産業の設備投資の計画額は19兆2395億円と1.2%減る見通し。前年割れは英国の欧州連合(EU)離脱の決定などで世界経済の不透明感が増した16年度以来、4年ぶりだ。このうち製造業は1.4%減、非製造業は0.9%減る。
これに対し、IT投資額(対象は765社)は15.8%増の4718億円となり、2年連続での2桁増を見込む。製造業の伸び率は20.3%増と過去最高で、非製造業は13.1%増となる。
目指すのは事業の変革を通じた競争力向上だ。IT投資額で首位のセブン&アイ・ホールディングスは19.9%増の1212億円を投じ、売り方などを変える。ネットスーパーで配送料金を柔軟に上下させて消費者の利便性を高めるほか、配送員の負担を分散させる。
クボタは2.4倍の208億円を投じる。米マイクロソフトと提携し、「農機や建機の生産や販売の情報をグローバルで一元管理する」(北尾裕一社長)。大成建設はIT投資を17.1%増やす。遠隔で工事の進捗を確認したり、施工管理したりして省力化する。
DXに積極投資する企業が増えているのは、ITの活用で組織運営やビジネスモデルの変革を進めてきた企業ほど、コロナ下でも業績や企業価値を高める傾向にあるためだ。みずほ総合研究所の酒井才介主任エコノミストは「新型コロナで変革を迫られた経営者がDXの必要性に改めて気づいた。今後はIT投資が一段と進む可能性がある」と語る。
在宅でのテレワーク対応なども含め、IT投資が広がるためにはインフラ整備が欠かせない。富士通は設備投資を14.1%増の1100億円とし、データセンターの増強などを急ぐ。「DXビジネスの拡大に向けた戦略投資を進める」(時田隆仁社長)
新型コロナの逆風が強い産業では設備投資の落ち込みが大きい。日本航空は20年度の投資を1200億円と前年度から半減させる。「飛行機が飛ばない状態では削るしかない」(赤坂祐二社長)とし、手元資金の確保を優先する。
新型コロナで設備投資は下振れするリスクが残るほか、対立を深める米中関係も影を落とす。ソニーは設備投資を5000億円と2.5%減らす。収益の柱の一つである画像センサーで、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)向けの供給減などを想定する。
事業環境の先行きが不透明として、NTTグループ(NTTドコモは回答)やイオン、JR東日本など一部の大企業は調査に回答していない。
一方、「世界的な経済環境は悪いが、そういうなかでシェアを取る会社が絶好のチャンスを得る」(日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者=CEO)との声も上がる。ITを軸とする成長分野への投資を堅持できるかが問われそうだ。
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