東洋経済が、これからの小売業は、「消費者に新しい価値を提供する」ことで、企業側からも収益化を試みるDirect to Consumer(d2c)がビジネスモデルと解説。素子いぇアメリカのテキサス発「D2Cブランド」のデパート「Neighborhood Goods」を紹介していた。流通業の在り方も、アメリカから上陸してくるとは、やるせなくなる。
その代表例で、日本企業が学ぶべき「最もイノベーティブな小売業」と筆者が考えるのが、「Neighborhood Goods」(ネイバーフッド・グッズ)という、2017年にアメリカ・テキサスで創業したスタートアップだ。
その独特のビジネスモデルから、アメリカでは「リテールのニュータイプ」「ストーリーテラーのリテーラー」などさまざまなキャッチフレーズで紹介され、「『D2Cブランド』のデパートメントストア」ともいわれている。
「D2Cブランド」とは、自社WEBサイトからの直販事業を中心にブランドを営む「Direct to Consumer (D2C)」 という新しいビジネスモデルのことである。
投資家からの評価も高く、2019年9月時点で累計2550万ドルの資金調達を達成し注目を集めている。
事業の立ち上がりも順調で、2018年11月にテキサス州ダラスに約1300平方メートルの1号店を開いたのを皮切りに、2019年12月にはニューヨークで2号店をオープン、2020年初頭に次の3号店も予定している。
いったい、「Neighborhood Goods」は何がすごいのだろうか。なぜ「日本企業が学ぶべきお手本」だと筆者は考えるのか。同社の特徴・魅力を「消費者側」「企業側」から見つつ、解説したい。
まず、消費者側である。消費者にとって「Neighborhood Goods」の魅力とは、ライフスタイルのさまざまなシーンで活用できるほど、「多様な価値」を提供してくれる場であるということだ。
店には、アパレルから生活雑貨まで旬な「D2Cブランド」がセンスよく展示され、「新しいライフスタイル」を提案してくれる。加えて、商品ローンチイベントやコミュニティーイベントなどの催事が毎日のように行われ、ライブ感があって飽きない。
また後述するように、店舗スタッフは、販売員ではなく「ストーリーテラー」として位置づけられフレンドリーで、消費者が店員から購入プレッシャーを感じることはない。
また、店舗に併設されたカフェもおしゃれで快適、思わず立ち寄って食事をしたり、時間をつぶしながら新しいブランドをアプリで検索、店員とチャットしたりと、消費者のライフスタイルに合わせてさまざまな使い方ができる。
このように消費者にとっての「Neighborhood Goods」は、「商品をトライアルする場」「ブランドとコミュニケーションする場」「地域のコミュニティーハブとしての場」など、従来のリテールを超えた「さまざまな価値」を持っているのだ。
企業側からみた魅力は何か
一方、企業側からみた魅力は、端的に言うと、同社が「D2Cブランド」にとって、販売だけでなくマーケティングやブランディングまで支援してくれるビジネスパートナーだということだ。
同社のビジネスモデルは、出展ブランドからの展示費用と販売委託手数料(販売マージン)からなる。この月額固定の展示費用には、ブランド側へのコンサルティングフィーが含まれている。
同社のスタッフは、出店者の「ブランドアンバサダー」となり、ブランドの魅力・ストーリーを消費者に伝えることを徹底する。そして、消費者がスタッフと交わしたコミュニケーションを基に、ブランドに対して消費者のインサイトをフィードバックしていく。
ブランドは「Neighborhood Goods」の場を活用して、商品ローンチイベントやファンとの交流イベントなど、さまざまなリアルイベントを打つこともできる。同社に出店している「D2Cブランド」の大半はリアル店舗を持たないので、「Neighborhood Goods」のようなおしゃれな場所を使えることのメリットは大きい。
また、同社はデジタル活用にも積極的だ。前述のアプリを通じて各商品の情報提供に加え、セルフ決済やチャット機能も提供している。カメラによる顧客の動線分析も実施している。こうしたデジタル経由で集められたユーザーの情報は、前述のスタッフを通じて集まった消費者のアナログ情報と共に、ブランド側に密にフィードバックされていく。
以上により、ブランドは自らの店舗を構えることなく、効果的なテストマーケティングやブランディングを実施することができるというわけだ。
勝ち残りのカギは「価値のかけ算」にある
このように「Neighborhood Goods」は、リアル店舗に対して「モノを売る場」ではなく、「ブランドコミュニケーション」「テストマーケティングの場」「地域コミュニティーのハブ」といった「新しい価値」を組み合わせることで、「アマゾンエフェクト」にあえぐアメリカの小売業にイノベーションをもたらした。
同じように、「店舗の価値定義」を改め、展示料やコンサルティング料で収益化するビジネスモデルは、「Neighborhood Goods」だけでなく、サンフランシスコ発のスタートアップ「b8ta」(ベータ:家電やデジタル関連のイノベーティブな製品の展示に特化したスタートアップ)のように増えつつある。
いつでもどこでもネットでモノが買える時代、リアル店舗にとっては、いかにモノを売る以外の「価値」を提供するかが大事となる。そして、その価値は1つではなく「Neighborhood Goods」のように「複数の価値」を組み合わせ、消費者のさまざまなライフシーンをサポートすることが重要なのだ。
「リアルの場でしか提供できない価値」をいかに「複数」組み合わせ、創造するか――。それが2030年、アパレル業界、小売業の勝ち残りを左右するカギである。
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