National Geographic によると『5Gで天気予報の精度が「40年前」に、科学者が警告』との事。5Gで新たに使うミリ波帯域の23.8GHz周辺が、水蒸気の発生で出てくるミリ波の検出に影響を与えるため、予測精度が悪くなると言う。 下の写真の黄色・朱色の部分が、水蒸気の出すミリ波だと言う。
2012年、巨大なハリケーン「サンディ」が米国の東海岸に上陸した。ニューヨーク地域に襲いかかったサンディは、数日間にわたり激しい雨を降らせ、大規模な浸水を引き起こし、インフラに大きな打撃を与えた。犠牲者の数は100人を超えた。
ハリケーンの進路などの詳細で正確な気象予測がなければ、こうした被害がさらに拡大していたことは間違いない。気象予測のおかげで、科学者らはハリケーンが上陸する前に余裕を持って、米連邦緊急事態管理局に情報を伝えることができたのだ。
気象科学は、過去数十年間で大きく進歩した。地球の表面や大気中、そして人工衛星の観測機器からもデータを収集し、かつてないほど大量の情報が得られるようになっている。その結果、ますます高度かつ広範囲にわたる正確な予報が可能になったところが、今では当然のように思われている精密な天気予報が脅かされる可能性があると、科学者らが警告を発した。
この10月から11月22日にかけて開かれていた世界無線通信会議において、5G(第5世代移動通信システム)などの電気通信技術から、気象観測にとって重要な電波を保護する国際的な基準を決める話し合いが行われた。
最終的に決定されたその内容について、NASAのジム・ブライデンスタイン長官を含む一部の科学者が、気象予測の精度を危険なほど低下させ、取り返しがつかないことになる可能性があると指摘したのだ。この先の天気はこうなる、と自信をもって予測できる人間の能力は、40年前に逆戻りするかもしれないという。
「非常にやかましく、漏れ出しやすい」
5Gなどの電気通信技術は「電磁スペクトル」のうち、ある一定のスペースを必要とする。電磁スペクトルとは、マイクロ波、赤外線、紫外線、ガンマ線、X線など、あらゆるタイプの電磁波を順に並べたものを指す。つまり、5Gはそのどこかの領域(帯域)を使わなければならない。
現在、電磁スペクトル上のスペースは非常に貴重なものとなっている。そして、気象予測に使われる情報の大半は、通信会社が新技術のために使用したいと考えている帯域のすぐ隣で収集されている。
「たとえて言うなら、アパートのようなものです」と、米ウィスコンシン大学マディソン校の大気科学者ジョーダン・ガース氏は言う。「ここでは一般に、だれもが比較的静かにしていることが期待されています。なかには気象用や科学用など、非常に静かな環境を必要とする部屋もあります。しかし電気通信の信号は非常にやかましく、また自分の部屋の外に漏れ出しやすいのです」
「昼寝をしたい幼児を預かる保育所を運営しているのに、隣にスポーツバーがあるようなものですよ。間に壁はあるかもしれませんが、それでも騒音は漏れてきます」
予報精度が30パーセント低下する?
マサチューセッツ工科大学(MIT)の大気科学者でエンジニアでもあるウィリアム・ブラックウェル氏によると、重要な帯域のひとつが23.8GHz周辺だという。人工衛星に搭載された観測機器は、このマイクロ波帯を使って水蒸気の挙動を読み取っている。今問題になっているのは、通信会社が利用しようとしている帯域が、23.8GHzのすぐそばにあることだ。
これまで、通信に使われる帯域は、気象の研究に使われるところからかなり遠くに割り当てられていた。しかし、電磁スペクトルで使える周波数帯の大半は、GPS、無線ナビゲーション、衛星制御、通信システムなど、さまざまな種類の無線通信にすでに割り当てられている。そのため、まだ使われずに残っている部分に対する需要が高まっている。
「スペクトル内のスペースは枯渇しつつあります。以前は問題なく共存できていましたが、もういっぱいいっぱいなのです」と、ワシントン大学の大気科学者トム・アッカーマン氏は言う。
今年初め、米連邦通信委員会は、水蒸気の観測に用いられる周波数23.8GHzのすぐ隣の帯域をオークションにかけた。新たなスペースの獲得を狙う企業は、これに20億ドル以上の値を付けた。
しかしNASAのブライデンスタイン長官は、電波オークションに先立って次のように警告していた。「5Gの強い信号が、23.8GHz帯域のかすかな水蒸気の信号に『漏れ出す』ことによって、気象予測の質は1970年代半ばのレベルまで低下するに違いありません」
同じ頃、米海洋大気局(NOAA)のニール・ジェイコブズ長官代行は議会の委員会で、近隣帯域での電気通信活動は、気象予測の精度を30パーセント低下させる可能性があると述べている。
彼らに加え、一部の科学者も、近隣帯域の信号の「騒々しさ」を厳しく制限することを求めた。世界気象機関はマイナス42デシベルワットを提案したが(負の数が大きいほど制限は厳しくなる)、連邦通信委員会が定めた数値はマイナス20デシベルワットだった。
先述の世界無線通信会議において出された結論は、その中間だった。2027年まではマイナス33デシベルワット、以後は少し強化されてマイナス39デシベルワットとなる。
これはFCCが定めたものよりはましだが、理想とはほど遠いと、ガース氏は言う。
米国の携帯電話業界団体のセルラー通信工業会(CTIA)の見解は異なる。同協会の執行副代表ブラッド・ギレン氏はブログで、NOAAとNASAの分析は適切でないマイクロ波サウンダ(垂直方向の分布を観測する装置)に基づいたものであり、最新の機器によるデータを考慮に入れれば問題は解決すると述べている。NOAA、NASA、米海軍はしかし、この意見に同意していない。
この問題に関するNOAAとNASAの研究はまだ公開されていないため、政府外の気象学者は、彼らの主張を直接検証できずにいる。
23.8GHz以外にも脅威は及んでいる
100年前、世界最高の気象予測とは、雲のパターンや風の感触などの情報に基づいた当て推量だった。今日の科学者は、1週間以上先の雨、雪、日照、ハリケーンなどをかなり正確に予測できる。
1970年代までには、現代の気象予測システムの骨格ができあがった。科学者らは、大気の空気の流れを支配している複雑な物理を説明するコンピューターモデルを開発した。
彼らはしかし、そのおかげで大気が簡単には理解できない気まぐれな獣であることを知る。未来の天気がどうなるかを予測するには、予測を立てた時点における気象条件を正確に知る必要があった。物理が役に立つのは、出発点がどこにあるのかがよくわかっているときに限られていた。
世界中の科学者やエンジニアは、気象予測というゲームの肝は、その時々の大気の状態について可能な限り最高のデータを入手することにあると気がついたわけだ。データが揃っていれば、未来を可能な限り正確に予測できるだろうと彼らは考えた。そこで、大気の3次元的な広がりを正確にマッピングできる装置の開発に、多くの努力が注がれるようになっていった。
重要な成果のひとつは、電波を利用した観測により、水蒸気の量と場所を正確に把握できるようになったことだ。そして、人工衛星による観測が発達するにつれ、気象予測の正確さと精度も上がっていった。現在の5日間予測の正確さは、1980年代初頭の1日予測と同程度だ。
さらに最近では、地球の周囲をめぐるさまざまな人工衛星に搭載された、マイクロ波サウンダによる観測が重要性を増してきた。
NOAAの共同極軌道衛星システムなどに搭載されたマイクロ波サウンダは、大気から放出されるマイクロ波の量を感知する。複数の異なる帯域の放出を観測すれば、水蒸気の量がわかる。そのうちのひとつが23.8GHzだ。ただしこの帯域の水蒸気が放出するマイクロ波は、まるで小川のようにささやかだ。マイクロ波サウンダは今のところ、その微弱な信号の測定に極めて優れている。
たとえこの周波数帯が完全に保護されたとしても、気象予測にとって重要な周波数帯はほかにもたくさんある。
「同様の事態が、スペクトルのほかの部分でも起こっています」 と、MITのブラックウェル氏は言う。「5Gの電波はそうした帯域、この神聖な領域に接近しています。そこに問題が生じるのです」
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