59メガジュールは、やかん60個分の水を沸騰させられる程度で、エネルギー量としては大きくない。しかし今回の実験は、現在フランスに建築中の大型核融合施設の設計の妥当性を示すものとして、大きな意味を持つという。
フランス南部に建設中の核融合実験炉「ITER(イーター)」は、欧州連合(EU)加盟国やアメリカ、中国、ロシア、日本など各国政府から成る共同事業体が援助している。今世紀後半にも核融合を信頼できる発電能力として確立するための最後の段階として期待されている。
JETの最高経営責任者(CEO)を務めるイアン・チャップマン教授はBBCニュースの取材に対し、「今回の完了した実験は、うまくいく必要があった」と話した。
核融合は、原子核を分離させるのではなく強制的に近づける時にエネルギーが発生する原理を採用している。既存の原子力発電所では、原子核を分離させる核分裂が行われている。
例えば太陽の中心では、大きな重力により、摂氏約1000万度の高温で核融合が起きている。地球ではそれほどの圧力は作り出せないため、核融合を起こすための温度は1億度以上とさらに高くなる。
地球上に存在する物質で、これほどの高温に直接触れて耐えられるものはない。そこで研究者は核融合炉を作るため、高温に熱しプラズマ化したガスをドーナツ状の磁場に閉じ込める方法を考案した。
イーターでプラズマの「燃料」となるのは、重水素と三重水素という水素の同位体だ。重水素と三重水素を加熱して核融合を起こすと、ヘリウムと中性子、そしてエネルギーが放出される。この中性子とエネルギーを使って融合炉外の水を沸騰させ、発電する。
JETは、40年近く前にこの技術を導入した先駆的な施設だ。ここ10年では、イーターの稼働条件を模倣するよう調整されてきた。
JETで採用されている80立方メートルにもなるドーナツ形の装置の内側は、同位体が効率よく働くような素材で作られている。1997年の実験では炭素を使ったが、炭素は放射性同位体である三重水素を吸収してしまうことが分かった。
今回の実験では、ベリリウムとタングステンが使われたことで、吸収率は10分の1以下に下がったという。
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「プラズマを5秒間にわたって維持したことは画期的なことだ。あまり長く感じられないかもしれないが、核レベルで言えば非常に、非常に長い時間だ。そして、5秒から5分、5時間、それ以上と延長していくのはとても簡単だ」
JETは1984年に開設された。写真はフランスのフランソワ・ミッテラン大統領(当時、左)とエリザベス英女王
イーターでは、内部で冷却される超電導磁石が使われるという。
イーターのドーナツ形の装置の容量はJETの10倍を予定しており、消費エネルギーと生成エネルギーが同程度になるとみられている。その後に建設される発電所では生成エネルギーが多くなり、電力を供給できるようになると期待されている。
イギリスの参画への懸念
2020年にEUを離脱したイギリスも、ユーロフュージョンには参加している。しかし、イーターへの全面参加にはまず、EUの主催する科学プログラムとの「提携」が必要になる。しかしこの件は、ブレグジット後の通商協定をめぐる双方の不一致を受け、棚上げされてしまっている状態だ。
イーターがプラズマ実験を始める2025年を前に、JETは2023年にも廃炉になる予定だ。
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