LED照明を使って、WiFiを実現する方法が普及しそう。WiFiを光で行うとは奇異の見えるが、WiFiの規格であるIEEE 802.11には、800MHzや2.4GHz、5GHz帯の電波だけでなく、最初から光も電波も電磁波だから、光にも言及されていた。それが表面化したのは光の変調が出来るようになって、LED照明を使って光通信が出来るようになったからだと言う。このLED WiFiは、wirelessのWに代わってLightのLを取ってLi-Fiと呼ばれる。
図表 電磁波の分類
セキュリティ対策に“光”電波による無線LANがあるのに、光を使う無線LANを使う必要があるのか?と思うのが普通だが、現実には、無線が「使えない」環境が存在し、そこでクライアントとネットワークを無線で接続しようとすると光を使わざるを得ないのである。
もちろん、有線接続も利用は可能だが、スマートフォンやラップトップといった最近のクライアント端末の形状とその利用方法は、有線接続になじまない部分がある。
具体的には、政府関連組織や金融分野など、セキュリティの問題で電波の利用を回避したいという要望がある。光の場合、窓がなければ部屋の外に通信が漏れることはない。
光の波長は1mm以下であるため、空気中や物質表面の分子での吸収が起こりやすく、また、物体の表面が波長に対して十分平坦(光学的平坦性)でない場合には乱反射が起こるため、急激に減衰する。このため、光源からの見通し範囲外では信号が微弱になり通信が行えなくなる。
これに対して、電波は光よりも波長が長く、波長程度の大きさの物体で反射などが発生し、見通し範囲外に伝わりやすい。ちなみに無線LANに使われる2.4GHz帯の波長は、12センチ程度である。また、弱くはなるが、壁などを透過したり、金属などを介して再放射される可能性もあるため、電波の漏洩を止めるためには、部屋全体を金属で覆う「シールド」を施す必要がある。セキュリティという面で見ると、光は電波よりも好ましい性質を持っているわけだ。
ここで気になるのは、5Gが本格的に普及したときに、Wi-Fiはどうなるのかという問題だ。いまのところ、Wi-Fiは電波干渉やセキュリティなどにおける課題を抱えており、「5Gが普及すれば、Wi-Fiはいらない」というWi-Fi不要説や、「5GとWi-Fiは補完関係にある」「屋外では5G、屋内ではWi-Fiを使用する」という住み分け説など、さまざまな意見が飛び交っている。
通信分野の動向に大きな注目が集まるなか、将来的にはWi-Fiを凌駕するかもしれない革新的な技術に大きな期待が寄せられている。それは、光を使った通信技術の「Li-Fi」(ライファイ)だ。世界ではすでに実用化もスタートしているため、もし初耳であれば今すぐ知っておくべきだろう。
電波ではなく、LEDの光で通信が可能に
「Li-Fi」とは「Light Fidelity」の略語で、光無線通信技術のひとつ。Wi-Fiが電波を利用する無線通信であるのに対し、Li-Fiは可視光を利用する無線通信である。
可視光の通信とは、簡単にいえばモールス信号のように光の点滅を信号に変えて通信をする技術のこと。Li-Fiは超高速で切り替わるLED電球の赤外線波や紫外線波の光スペクトルを利用する。
そんなLi-Fiが世界に知られるようになったきっかけは、2011年のエディンバラ大学のハラルド・ハース教授による発表だった。
ハース教授はWi-Fiが抱える課題に対して、「マイクロチップを照明器具に取り付けるだけで、世界にある140億個の電球を照明と無線通信の機能を備えたLi-Fi装置に変えることができる」と、その解決策としてのLi-Fiを紹介。その後の2012年には同氏がエディンバラ大学発のベンチャー企業を立ち上げるなど、世界で実用化に向けた動きが加速した。
海外ではすでにさまざまなLi-Fi対応のプロダクトが登場しており、ドバイでは街灯でのLi-Fi導入が検討されるなど、この次世代の無線通信技術は着々と実用化され始めている。
Wi-Fiよりも優れもの? Li-Fiを使う4つのメリット
では、我々が慣れ親しんでいるWi-Fiに比べ、Li-Fiの何がどのように優れているのだろうか? 4つのポイントに絞ってみていこう。
まず1点目は「通信スピード」だ。Li-Fiは、最大で224Gbps(理論値)の速度でデータ転送が可能とされる。もしこの速度が実現すれば、わずか1秒で2時間ほどの映画18本分のデータがダウンロードできてしまう。
2019年より認証が開始された「Wi-Fi 6」でさえも、9.6Gbps(理論値)だ。つまりLi-Fiは、Wi-Fiと比べて20倍以上ともいわれる超高速通信を実現できる可能性があるのだ。
2点目は「障害・制限」だ。現状のWi-Fiでは主に2.4GHzと5GHzという2つの周波数帯が使われている。Wi-Fiの需要が溢れ、これらの限られた周波数帯に通信が集中すると電波干渉が起こってしまう。つまり、無線周波を利用するWi-Fiには容量的な制限があり、通信量が許容量を超えてしまうと障害や遅延の原因となるのだ。
対して、それぞれの家庭やオフィスにあるLED電球の光を利用するLi-Fiでは、電波干渉のようなことは起こらない。しかも、Li-Fiが利用する光スペクトルはWi-Fiで利用される無線周波の1万倍もの情報を扱うことができるため、障害や制限なしに、より高速且つ、安定した通信を実現できる。
そして3点目は「安全性とセキュリティ」だ。現状のWi-Fiによる通信では、精密機器などに影響を与える電磁波が発生するため、病院や飛行機内での使用は制限されてきた。しかし、光での通信を行うLi-Fiであればそうした障害が起こる心配がない。
2019年10月にはフランスの航空会社が、飛行中にLi-Fi通信を用いて12席限定でトーナメント制のビデオゲーム大会を開催したことが話題になった。
一方で、壁などを透過するWi-Fiとは違い、Li-FiではLEDの光が届く範囲でしかネットワークに接続できないというデメリットがある。
しかしこれは、強固なセキュリティを必要とする企業や国家などからすると、大きなメリットなのだ。もし「屋外は5G、屋内はWi-Fi」と住み分けをするのであれば、なおさらWi-FiよりもLi-Fiの方が適しているといえるだろう。
最後の4点目は「エネルギー効率」だ。電波を利用するWi-Fiを世界中の人が使うには、大量のエネルギーと膨大な数の基地局を必要とする。
対して、Li-Fiで必要なのは、電球をLi-Fiに対応したLED電球に変えるだけ。また、もちろん照明としての機能を保ったままである。
スマートフォンやPCには新たに専用の受光装置が必要になるものの、世界中の基地局や電波塔が長寿命かつ省エネルギーなLED電球に変われば、間違いなく環境への負荷は大きく低減されるはずだ。
Li-Fiで実現される未来
ここまで見てきたように、Li-Fiには現状のWi-Fiを超えるいくつかの大きなメリットがある。とはいえ、すでに世界中でWi-Fi用のインフラが整備され、Wi-Fi自体も進化している。
いますぐLi-Fiが無線通信の主役になることはないかもしれないが、5Gの普及によってさらに多くの人やクルマなどのモノがインターネットに接続する時代には、私たちの日常にLi-Fiが普及する可能性は大いにあるだろう。
海外では広く活用が進むうえ、日本国内でも2019年にはLi-Fiに対応した照明器具が発表され、自動車のライトにLi-Fiを導入した車車間通信の研究も進められている。さらには、広くLi-Fiが普及するためには必須となる標準規格化に向けた動きも進行中だ。
いまや我々はいつでもどこでもWi-Fiがあればインターネットに接続できる。しかし、特に都市部には驚くほど多くのWi-Fiが飛び交い電波の渋滞が起きつつある。
5GやLi-Fiといった新たなテクノロジーが、我々の暮らしをどのように変えていくのか。そうした未来を予測した先には、きっとまだ見ぬビジネスチャンスが広がっているはずだ。
※「Wi-Fi」は、Wi-Fi Allianceの登録商標です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます