国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

モンゴル族の不満が高まる内モンゴル自治区

2011年06月02日 | 中国
●モンゴル族40人以上拘束か 治安部隊と衝突 2011.5.29 産経新聞

 在米の人権団体、南モンゴル人権情報センターは28日、中国内モンゴル自治区シリンホト市郊外で27日に起きたモンゴル族の遊牧民や学生らと治安部隊の衝突で、40人以上が拘束されたと明らかにした。

 衝突は遊牧民や学生らが数百人、治安部隊が300人以上と大規模だった。負傷者がいるかどうかなどは不明。

 学生らが25日に大規模な抗議行動をしたと伝えられた市内では、治安部隊と軍が道路などを封鎖。学校では、学生が外出しないよう週末も授業を続けているという。

 米政府系放送局のラジオ自由アジア(電子版)などによると、内モンゴル自治区の区都フフホト市で30日に抗議行動をするよう訴える呼び掛けも出回っており、同市内で大学などの出入りが禁止になったとの情報もある。(共同)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110529/chn11052901080000-n1.htm



●内モンゴル 抗議デモが相次ぐ 5月29日 NHK

中国内陸部の内モンゴル自治区では、モンゴル族の遊牧民が漢族が運転するトラックにひき逃げされて死亡した事件をきっかけに、モンゴル族による抗議デモが相次いで発生し、治安部隊と衝突するなど混乱が続いています。

アメリカに拠点を置く人権団体の「南モンゴル人権情報センター」によりますと、中国の内モンゴル自治区では、今月10日にモンゴル族の遊牧民が漢族が運転する石炭を運ぶトラックにひき逃げされて死亡した事件をきっかけに、モンゴル族による数百人規模の抗議デモが都市シリンホトや周辺地域で相次いで発生しているということです。運転手ら漢族2人は殺人の疑いで逮捕されましたが、デモは収まらず、27日にはデモ隊が治安部隊と衝突して数十人が拘束されたということです。現地の住民はNHKの電話取材に対して、シリンホトでは29日は目立った抗議デモは起きていないが、遊牧民が多く住む地域を中心に周辺の道路が封鎖され、治安部隊による厳しい警備態勢が敷かれていると話しています。内モンゴル自治区では、中国の大都市で急増するエネルギー需要に対応するため、主に漢族によって石炭などの開発が進められていますが、人口の20%近くを占めるモンゴル族の間では、開発の恩恵が少ないうえに、環境破壊が起きているとして不満が高まっています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110529/t10013186711000.html





●内モンゴル厳戒態勢、公園を封鎖、携帯のネット接続制限―中国 2011/05/30 [サーチナ]

内モンゴルの遊牧民死亡ひき逃げ事件をきっかけに、遊牧民らによるデモ活動が続く中、内モンゴル自治区当局は多数の警官と武装警察をフフホトなど各都市に配置し警戒態勢で臨んでいる。また、携帯電話によるネット接続に規制を行った。自治区トップの胡春華・共産党委員会書記は、事態の早期収拾のため、大規模なデモが発生した西ウジムチン地区に出向いて現地の教師や学生と交流した。香港・明報新聞網が伝えた。

  多くのツィッターユーザによると、フフホト市内の雰囲気はかなり緊迫しており、多数のパトカーや武装警察が街頭でパトロールを行っている。人が集まることを防ぐために、公園には警戒線が張り巡らされた。携帯電話によるネット接続は困難となり、学校の担任教師は寮に住む学生に外出は極力避けるよう指示した。仏AFP通信によると、政府関連施設の近くでは多くの警官がパトロールを行い、学生のデモ活動を阻止している。

  海外の人権擁護ニュースサイト、博訊によると、フフホトの各大学では臨時の試験や講演会を行うと発表。参加しないと成績に影響すると警告し、学生の街頭活動への参加をけん制した。

  今回の騒動のきっかけは、今月11日、自治区シリンゴル(錫林郭勒)盟の牧畜民・莫日根さんが石炭を運ぶトラックにひき逃げされて死亡した事件。発生後約20日間にわたり、自治区内の各地でデモが相次いでいる。

  特に、シリンゴル盟西ウジムチン(西烏珠穆沁)旗でのデモが最も激しく、多くの学生が抗議活動に参加した。自治区政府は事件の鎮静化を図り、死亡した遊牧民の遺族に50万元の賠償金を支払い、容疑者の身柄を拘束すると発表した。27日には、西ウジムチン旗の共産党委員会書記、海明氏を更迭することを明言した。

  27日、西ウジムチン旗総合高等学校に赴き、教師や学生と交流した胡春華・党委員会書記は、遊牧民ひき逃げ事件について「極めて悪質な事件であり、現地住民の大きな恨みの原因となった」と述べた。また、「鉱物開発問題は正しく処理し、地元民の利益を保護する。民衆の利益保護を基本的な立脚点とする」と語った。(編集担当:松本夏穂)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=0530&f=national_0530_236.shtml




●時事ドットコム:モンゴル族の不満抑制へ躍起=遊牧民殺害を報道-中国 2011/05/30

【北京時事】中国国営新華社通信は30日、内モンゴル自治区でモンゴル族住民による反政府デモが広がっている問題で、デモの発端となった遊牧民と炭鉱会社との衝突を報道し、炭鉱作業員が遊牧民を殺害した罪で起訴されたと伝えた。中国政府は法に基づく適切な処理を強調、モンゴル族住民に高まる不満を抑え、デモを沈静化しようと躍起になっている。
 デモの背景には、急速に進む鉱山開発に対し、遊牧民が「草原が破壊され、恩恵も乏しく、政府は無策だ」と不満を募らせていることがある。そこに石炭を運ぶトラックにひき殺されるなど遊牧民が相次いで死亡する事件が発生。これらを引き金にモンゴル族の学生が同調する形でデモが広がっている。
 新華社電はまた、自治区政府が鉱山開発企業に対する監督強化や、環境汚染に伴う補償制度などを打ち出す方針を報道。農牧業発展に向けた政策が効果を発揮し、関連企業の今年第1四半期の売上高が前年同期比で約22%アップしたことなども伝えた。
 当局が遊牧民殺害事件や環境破壊防止への取り組みを報道するのは、モンゴル族住民の不満が長引くことへの懸念がある。一方、治安当局は漢族住民と人口の約17%を占めるモンゴル族の対立に発展しないよう厳戒態勢を敷いており、硬軟両様の手段で対処している。
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2011053000728




●中国共産党系紙「内モンゴル住民の要求は合理的」  :日本経済新聞 2011/5/31

【北京=森安健】中国の内モンゴル自治区で起きたモンゴル族の抗議デモについて、中国共産党機関紙、人民日報傘下の環球時報は31日付の社説で「モンゴル族の要求はには合理的な部分もある」と指摘。デモは「政治的に引き起こされたものではない」とし、2008年のチベット自治区、09年の新疆ウイグル自治区での騒乱とは性格が異なると強調した。

 中国外務省の姜瑜副報道局長も同日の記者会見で「ことさら誇張しようとする外国組織の試みは成功しない」と述べ、海外の人権団体などをけん制した。6月4日に天安門事件22周年を控え、混乱の広がりを防ぐ意図もあるとみられる。

 米国に拠点を置く「南モンゴル人権情報センター」によると30日には区都フフホトでも抗議行動が発生。千人近い市民がモンゴル族の人権尊重と拘束された人の釈放を求めて街に繰り出したとしている。「未確認情報」としながらも、警察がデモを解散させる際に10人以下の市民が死亡したと伝えた。
http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C9381959FE1E3E2E0E68DE1E3E2E7E0E2E3E39494E3E2E2E2




●中国外務省「外国が騒ぐ」…内モンゴルのデモ  2011年6月1日 読売新聞

 【北京=関泰晴】中国外務省の姜瑜(きょうゆ)・副報道局長は31日の定例記者会見で、内モンゴル自治区で抗議デモが起き、厳戒態勢が続いていることについて、「外国の一部の人々が事件を騒ぎ立て、邪悪な目的を果たそうと考えているが、成し遂げることはできない」と述べ、モンゴル族の苦境を訴える欧米人権団体などを批判した。


 姜氏はまた、「(同自治区の)地方政府は環境保護に努力し、必要な措置を取って各民族の基本的利益を守ろうとしている。犯罪者を法律に基づいて処罰するだろう」と語った。地元紙によると、抗議デモの発端となった石炭運搬トラックの死亡ひき逃げ事件で検察当局が容疑者を殺人罪で起訴しており、モンゴル族の懐柔策も打ち出されている。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110601-OYT1T00279.htm




【私のコメント】
内モンゴル自治区でモンゴル族と漢民族の対立が深まっている。5月10日に起きたひき逃げ事件がきっかけだというが、対立拡大の背景には深刻な経済格差があるものと思われる。

1990年頃の大学卒業者率という指標で見ると、中国では満州族が突出した存在であり、漢民族がそれに次ぐ。そして、チベット族・モンゴル族・ウイグル族などの少数民族は漢民族より大学進学率が低い。更に、モンゴル族について言えばモンゴル語で教育を受ける学科では中国語教育の学科に比べて就職が良くない。中国では、中国語を話すこと・漢民族であることが文明的であることを同義と見なされているからだ。このような相対的劣位に置かれた民族に不満が鬱積するのは当然である。これまでモンゴル族の抗議行動が少なかったことが逆に不思議なぐらいである。

このモンゴル族と漢民族の対立を解決するには、内モンゴルを分離独立させる他はない。しかし、それは重大な問題を抱えている。内モンゴル自治区の住民の80%は漢民族であり、先住民であるモンゴル族は20%に過ぎないのだ。従って分離独立しても内モンゴルのモンゴル族は差別された少数民族の地位から脱することができない。ウイグルやチベットも同様の域内漢民族を抱えているが内モンゴルより割合は少ないし、漢民族の多くは共産中国成立後の移住民であってウイグルやチベットが分離独立すれば出身地の中国本土に帰る可能性が高い。そもそも、チベットは農耕不能な高原、ウイグルも農耕不能な砂漠の国であり、漢民族の居住には適さない地域である。しかし、内モンゴルの場合は事情が異なる。清朝滅亡時に建国されたモンゴルは内モンゴルの征服を試みたが、既にこの時点で内モンゴルの人口の過半数は漢民族であり、内モンゴル領有によって新モンゴル国が漢民族を多数派とする国になり漢民族に乗っ取られることを恐れた指導者が内モンゴル征服を断念した経緯がある。内モンゴルは中国本土と広く接しており、黄河中流域などには農耕可能地域も多い。この地域は伝統的に漢民族とモンゴル族が混住してきた地域なのだ。

欧州の歴史は、このような多民族の混住が大きな軋轢をもたらすことを教えている。東欧諸国では凄惨な戦争や内戦を通じてこれらの混住問題が解決され、各民族が特定の地域に集中して居住するようになった。現時点で民族の混住が残存しているのはハンガリー周囲のハンガリー系住民のみである。これによって欧州諸国は民主主義の導入に障害が無くなった。民族の混住が存在する状態では、選挙の最大の焦点が民族対立になってしまうのだ。中国も将来民主主義が導入される可能性が高いが、内モンゴル自治区は漢民族が長年居住してきた地域であり、モンゴル族と漢民族のどちらに帰属すべきか決着のつかない問題になる。この問題を解決できるのか、解決できるとすればどのような方法で行うのかが重大な問題になってくるだろう。




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1 コメント

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戒厳令の日本へ (Unknown)
2011-06-03 12:57:18
【法を無視して浜岡原発を止めた事を人々は賞賛しました。その報いを受けるでしょう。狂王の地獄統治が始まります。】
辞任をちらつかせて延命を図ったのですから、いよいよ後戻りはできません。法的なプロセスなしに浜岡を止めた人です。フリーハンドを手にしたら…
http://p.tl/uVr7
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