国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

トルコ軍がイラク領内に侵攻することを認める法案をトルコ政府が議会に提出、17日に可決される

2007年10月18日 | トルコ系民族地域及びモンゴル
●国境を越えてトルコ軍がイラク領内に侵攻することを認める法案をトルコ政府が議会に提出、今週中に可決の見込み: 10月16日  – Turkish Daily News

<要旨>

・10月15日(月曜日)に政府が法案を議会に提出、今週中に可決される見込み。

・対象はPKK(クルド労働者党)の基地であり、北イラクの石油資源には関心がない。

・担当者は具体的な作戦内容については明言を避けた。作戦中に米軍兵士と遭遇した場合の対応についても回答しなかった。

・想定シナリオは三つ。

シナリオ1)2万人以上の兵士が国境を越えて約40kmイラク領内に侵攻、テロリストが殲滅できるまでそこに留まる。このシナリオは現地の冬の悪天候を考えると可能性が低い。

シナリオ2)空軍に支援されたトルコ陸軍がイラク領内で標的となるPKK基地を攻撃した後トルコ領内に戻る。このシナリオは政治的にもその他の条件からも考えやすい。

シナリオ3)トルコ陸軍は国境沿いに展開するのみで国境を越える作戦は行わない。トルコ空軍が標的となるPKK基地を攻撃する。
http://www.turkishdailynews.com.tr/article.php?enewsid=86052




●トルコ議会がPKKに対するトルコ軍の国境を越えた作戦行動を認める法案を10月17日に可決 10月17日 – Turkish Daily News
http://www.turkishdailynews.com.tr/excontent.php?htmlcon=operation.htm






●トルコ軍が国境沿いのイラクの村を砲撃: 10月16日  – Turkish Daily News

<要旨>

・10月14日(日曜日)の夜から15日朝にかけて、イラク北部のKani Masi村をトルコ軍が砲撃したとイラク国境警備隊が明らかにした。Kani Masi村はDohukの町から北東に25km離れた場所にある。14日の日中から行われていた砲撃によってKani Masi村の住民のほとんどは既に村を脱出しており死傷者はいない。

・10月13日(土曜日)の夜から14日日中にかけて、トルコ軍は国境沿いのイラクの村Zakho及び、国境から15km離れておりDohukの町から北東に50km離れているAl-Amadiyah地区を砲撃した。死傷者の情報は不明。
http://www.turkishdailynews.com.tr/article.php?enewsid=85993








●トルコ東部インジルリク基地の労働者たちは国益の観点から、政府命令で基地が閉鎖された場合の失業を容認: 10月16日  – Turkish Daily News
http://www.turkishdailynews.com.tr/article.php?enewsid=86045




●トルコ政界ではトルコ民族主義を主張する極右勢力として位置付けられている第三政党の民族主義者行動党(MHP)のAktan党首が、米国への報復としてインジルリク基地の閉鎖を主張: 10月16日  – Turkish Daily News
http://www.turkishdailynews.com.tr/article.php?enewsid=86044





●イラク首相、トルコに越境軍事行動の回避求める 2007.10.16- CNN

バグダッド(CNN) イラクのマリキ首相は15日、トルコ政府に対し、クルド人独立国家を目指す武装組織「クルド労働者党」(PKK)を標的とした越境軍事行動を回避するよう呼びかけた。

トルコ与党・公正発展党(AKP)は、イラク北部を拠点とするPKKへの越境攻撃を承認するよう、トルコ議会に請求している。これを受けてイラクのマリキ首相は、問題解決と両国関係の調整に向けて、トルコ政府高官との緊急対話に応じる用意があると述べた。

マリキ首相は16日の閣議で、対応を緊急協議する予定。また、ハシミ副大統領はトルコの首都アンカラを訪問し、トルコ当局者らと協議する。

PKKは米国と欧州連合(EU)からテロ組織に指定されており、イラク政府は先月下旬に取り締まりで合意した。しかしトルコは、PKKが先日イラク北部からトルコ南東部への越境攻撃を行い、トルコ兵や市民など30人が死亡した、と主張している。

トルコ軍は先週末にイラク北部を砲撃し、クルド人の農地などが炎上した。けが人は報告されていないものの、イラクの現地当局者は3万人が避難を余儀なくされたと述べ、こうした事態が続くことを望まない考えを明言した。当局者はまた、PKKがイラク国内にに攻撃拠点を設けているとの見方を否定した。
http://www.cnn.co.jp/world/CNN200710160007.html






【私のコメント】
米国下院本会議でアルメニア人虐殺問題に関するトルコ非難決議が採択される可能性が高まっているのと並行して、トルコ議会ではトルコ軍にイラク領内への侵攻を認める法案が提出されており、10月17日に可決された。作戦中に米軍兵士と遭遇した場合の対処を含め、作戦の詳細について関係者は明らかにしていない。最も可能性の高いシナリオとしてターキッシュデイリーニュース紙は、『空軍に支援されたトルコ陸軍がイラク領内で標的となるPKK基地を攻撃した後トルコ領内に戻る』というものを挙げている。

また、イラク国境警備隊の伝えるところによれば、国境沿いに展開したトルコ軍は国境を越えてイラク北部の村を砲撃している。地図で見ると、最新の攻撃対象となった村は国境から30ないし35km程度離れていると想像され、トルコ陸軍は国境を越えていないとしても既にイラク領内深部まで攻撃が及んでいることを示している。

トルコ第三政党の民族主義者行動党が米国への報復としてインジルリク基地の閉鎖を主張し、基地労働者も基地閉鎖を容認するなど、事態は一層混迷の度を深めている。米国下院本会議でトルコ非難決議が採択されればインジルリク基地閉鎖とイラク北部へのトルコ陸軍の侵攻が現実のものとなりそうだ。その場合、イラク北部で活動する米軍部隊とトルコ陸軍が遭遇した場合にどのような事態が起こるかという点が非常に注目される。場合によっては米陸軍とトルコ陸軍が激突するということもあり得るかもしれない。
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4 コメント

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米陸軍とトルコ陸軍が激突 (Aletheiajp)
2007-10-17 22:24:29
>場合によっては米陸軍とトルコ陸軍が激突するということもあり得るかもしれない。

→トルコはNATOから除名されるか、それとも、NATOが消滅するか? 既にEUは「独自の緊急執行部隊」を有しており、それはバルカン半島がメインの作戦領域である。
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ブッシュ涙目 (蔵信芳樹)
2007-10-18 18:03:33
トルコは米国政府に抗議するけど、非難決議を出すのは共和党政府ではなく民主党議会なんだよね。米国ではイラク戦争を終わらせるための民主党の戦略だと言われている。だからこそ民主党を応援する日本のマスコミはしかとを決め込んでいるわけだ。日本の世論に冷静に分析されたくないから。ユダヤ人が賛成するということは、ユダヤ人はイラクの消滅を望んでいるんだね。イラクは南部はイランに北部はトルコに占領されて消滅する。
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眼力恐れ入ります (面白い発想だが)
2007-10-18 22:10:54
トルコ問題についての眼力恐れ入ります。

イラク戦争の目的のひとつが、やはりクルド独立を煽り、トルコの存在を脅かすことだったとは。
米国の自爆に近いですが、国際金融資本による支配を脱するための、自爆テロに近いことをやっていると思われます。さらに言えば、米国の中東政策を「失敗」したことを米国内のアルメニア人移民によるロビー活動が原因として、こうした移民の排斥につなげる目的があるかもしれません。そしてこれは次への「ステップ」につながるはずです。

現在のトルコの行動が「でき試合」かどうかはわかるすべもありませんが、今のところトルコは他に道が取りようがないと思われます。次の覇権国がはっきりしない状況ではでき試合もしようがないです。トルコ指導部が親国際金融資本の方針をとり、国際金融資本陣営が反撃しない、見捨てるなどの場合にはトルコの完全な滅亡もあり得るかもしれません。

トルコのもうひとつの選択肢としてはロシアに寝返る方針もあり得ます。この場合はもちろん報復がありえます。どのような選択にしても、相当タフな外交をしないと、国家の存続は難しいと思われます。

なんらかの形でクルド独立派に核兵器が渡った場合には、トルコ本土はかなり悲惨なことになると思います。

最後のとどめの一撃がイランとの開戦になるでしょうか。
江田島氏のいう赤い盾の反撃はあるのでしょうか。
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チェイニー氏とオバマ氏は親せき=仏移民が共通の祖先? (時事通信) (Unknown)
2007-10-19 04:40:19
http://news.www.infoseek.co.jp/topics/world/n_bei_senkyo__20071019_3/story/071017jijiX425/

【ワシントン17日時事】ブッシュ米政権を支える共和党保守派の重鎮、チェイニー副大統領(66)と次期大統領選で初の黒人大統領の座を目指す民主党有力候補オバマ上院議員(46)は共通の祖先を持つ遠い親せきだった-。チェイニー副大統領のリン夫人が16日、こんな独自の調査結果をMSNBCテレビとのインタビューで語った。

 対イラク開戦を主導し、北朝鮮やイランへの強硬姿勢で知られるチェイニー氏と、イラク開戦に反対し、北朝鮮・イラン指導者との直接対話もいとわないリベラル派のホープ、オバマ氏は米政界の両極に位置する関係。

 リン夫人は自著執筆の下調べの過程で、チェイニー氏とオバマ氏が17世紀にフランスから渡ってきた移民を共通の祖先とし、「いとこ」「またいとこ」とたどっていくと、遠い「いとこ」関係になることを突き止めたという。同夫人は「驚くべきアメリカン・ストーリー」だと話した。 
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