国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

シリアのアサド大統領がトルコ軍のイラク領内侵攻を支持する発言。その真意は何か?

2007年10月19日 | トルコ系民族地域及びモンゴル
●イラク北部のクルド人、トルコ軍越境攻撃反対デモ  2007/10/19 世界日報

【カイロ18日鈴木眞吉】イラクの首都バグダッドから約260マイル北西のトルコとの国境の町ダフク市(クルド人居住地域)で18日、数千人のクルド人が、トルコ軍の越境攻撃阻止を掲げてデモ行進を行った。トルコ国会が17日、イラク北部を拠点とするトルコの非合法武装組織クルド労働者党(PKK)掃討の為の越境攻撃を承認した事態を受けたもの。
 AP通信によると、デモ参加者は政治家や一般市民を含む男女5000人以上。

 デモ隊は、旗を振り、クルド国民の歌を歌いながら、同市の国連事務所に向けデモを行った。デモ隊が掲げたスローガンは、トルコ政府に対し越境攻撃を停止するよう呼びかけるものや、国連を始め米国、欧州連合(EU)など国際社会に対し、トルコ軍の侵攻を思い留まらせるよう要請するものなど。

 デモ隊は、トルコ及び国際社会が、イラク居住のクルド人とPKKとを混同しないよう訴え、トルコに対し、PKKに対しては暴力ではなく対話による平和的手段で解決するよう訴えた。

 デモ隊は、トルコ軍の越境がPKK掃討目的としても、戦乱が生じた場合、クルド地域を不安定化させるとして反対している。
http://www.worldtimes.co.jp/news/world/kiji/071019-030210.html






●「イラクの分離を願ってはいない」-トルコ外相 2007/10/19 世界日報
エジプト大統領と会談
 【カイロ18日鈴木眞吉】トルコのアリ・ババジャン外相は18日、エジプトの首都カイロにある大統領宮殿で、ムバラク・エジプト大統領及びアブルゲイト・エジプト外相と会談した。

 会談後、記者会見したアリ・ババジャン外相は、「トルコはイラク北部のテロリストの掃討を主張しており、トルコ国会はその権限を承認した。しかし軍の侵攻はイラクを分離させる為に使用されることはない」と語り、トルコはイラクの統一を願い、クルド人による独立国家建設には反対であるとの姿勢を強調した。

 アルジャジーラが同日、解説者を通じ、アラブ世界の見解を説明したところによると、トルコのイラク北部への侵攻は、アラブ世界が恐れているイラクの分離を推し進める結果を招き、結果的に米国を喜ばせる結果を招く可能性があるという。トルコは、アラブ世界を不安に落とし込むことにより、アラブ世界への影響力を行使したい意図があるとの見方も示した。
http://www.worldtimes.co.jp/news/world/kiji/071019-030438.html








●トルコ「虐殺」決議案、下院での採決延期か 2007.10.17- CNN

ワシントン(CNN) 第一次世界大戦当時にオスマントルコが実施したアルメニア人殺害を「大虐殺(ジェノサイド)」と認定する米下院外交委員会の決議案について、民主党のホイヤー下院院内総務は16日、下院本会議での採決が延期される可能性を示唆した。

民主党のペロシ米下院議長は来月にも決議案採決を実施する意向を表明しているが、ホイヤー院内総務は採決が休会前に実施されるとの見解を変えていないとしたうえで、「はっきりとは言えないが、かなり大勢の議員が自分の立場を見直している。全議員の立場を確認する必要がある」とコメントした。

下院軍事委員会のスケルトン議長は先週、決議案への反対案を表明済み。また、北大西洋条約機構(NATO)の下院代表を務めるハスティングス議員とタナー議員はペロシ議長への書簡で、トルコ南部インジルリク空軍基地の使用を拒否された場合の米軍への影響を指摘し、採決再考を促した。
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200710170006.html








●トルコ軍 攻撃に踏み切る可能性 2007.10.18 産経新聞

 【イスタンブール=村上大介】トルコ国会は17日、イラク北部を拠点とするトルコの非合法武装組織、クルド労働者党(PKK)掃討のための越境攻撃の権限をトルコ軍に与え、不安定なイラク情勢がさらに流動化する懸念が強まってきた。長年PKKのテロに悩まされてきたトルコの世論は軍事作戦を支持しており、テロが続けば、北大西洋条約機構(NATO)などを通じて伝統的な同盟関係にある米国の「反対」にもかかわらず、トルコ軍が攻撃に踏み切る可能性は強い。

 PKKはイラク北部のクルド人自治区の山岳地帯に逃げ込み、トルコ国内でのテロ攻撃の出撃拠点としており、トルコ側は、イラクの中央政府と北部のクルド自治政府、さらにイラク駐留米軍にPKK取り締まりを、再三、要請してきた。

 しかし、米国は、2003年のイラク攻撃に協力し、戦後もイラク新政府の重要な一角を占めるイラクのクルド人勢力への配慮や、イラク北部に新たな不安定要因を持ち込みたくないことから、反応は鈍かった。イラクのクルド人勢力も対策を約束しながらも、放置状態を続けてきた。

 こうした状況に対し、トルコ軍は1年前から、越境攻撃承認を政府に要請してきたが、トルコの国是である「政教分離政策」をめぐり軍と対立する公正発展党(AKP)のエルドアン首相は、対米関係も考慮に入れつつ、これまで慎重な姿勢を示してきた。

 だが、10月に入り、南東部で民間人の乗った車が襲撃され、12人が死亡、さらにパトロール中のトルコ軍の車両が攻撃を受け、15人が死亡する事件が相次ぎ、対PKK強硬策を求める世論が沸騰。首相も国会審議に踏み切らざるを得なくなった。

 これに対し、イラクのタラバニ大統領(クルド人)は17日、「PKKが攻撃を停止しないなら、イラクを去るように要求する」とする一方、トルコ側にも自制を求めた。しかし、トルコ側の不信感は根強く、イラク政府が本格的な対策を取れるのか疑問視されている。

 トルコでは、PKK対策に乗り出さないイラク駐留米軍にも不満が高まっていたが、そこに米下院委員会でのオスマン帝国時代の「アルメニア人虐殺」を非難する決議の採択が重なり、反米感情が一気に高まっている。同盟国である米国も、トルコに自制を説得するテコを失っている状況だ。
http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/071018/mds0710180120001-n1.htm








●Syrian leader sides with Turkey on PKK  Thursday, October 18, 2007 Turkish Daily News



'We accept this (cross-border offensive) as Turkey's legitimate right. As Syria, we support all decisions by Turkey and we stand behind them,' says Syrian President Assad

ANKARA – TDN with wire dispatches


Turkey has a legitimate right to stage a cross-border offensive against the outlawed Kurdistan Workers' Party (PKK) based in northern Iraq, Syria's president said yesterday.

“We understand that such an operation would be aimed toward a certain group that attacks Turkish soldiers,” Bashar Assad said during a press conference with his Turkish counterpart, Abdullah Gül.

“We accept this as Turkey's legitimate right. As Syria, we support all decisions made by Turkey and we stand behind them,” he added.

Assad said U.S.-led coalition forces in Iraq have the responsibility to curb terrorist attacks stemming from within the country. “Forces that have invaded Iraq's territory are countries that are primarily responsible for the terrorist attacks, because these countries control Iraq,” he said. The Syrian leader said Turkey and Syria were ready to hold talks with the Iraqi administration on how to increase border security.Meanwhile, the foreign ministers of Turkey and Syria signed a memorandum for greater coordination in their efforts to contribute to peace in the Middle East. “We have agreed that reducing tensions and achieving lasting and just peace in the Middle East is of vital importance for the stability in our region,” Gül said.

“We have agreed to contribute to the solution of problems in a coordinated effort,” he added. The visit comes weeks after Israeli warplanes carried out an air-strike in northeastern Syria, near the border with Turkey.

Gül commented on a planned U.S.-sponsored international peace conference on the Middle East in November, and said, “all sides should expend great effort for peace.” “Problems in the Middle East cannot be solved without first finding a solution to problems between Palestinians and Israel, Syria and Israel, and Syria and Lebanon,” Gül said. “Unfortunately, no calm exists in the region, everybody should engage in a great effort, and the Arab peace plan should be on the table.

Washington has said it will invite adversary Syria to the conference. But Assad said earlier that his country would not attend the meeting if it did not address Israel's occupation of the Golan Heights, which it captured from Syria during the 1967 Mideast war.

Later in the day Assad met with former President Ahmet Necdet Sezer who has visited Syria even though he rarely traveled abroad during his tenure.
http://www.turkishdailynews.com.tr/article.php?enewsid=86231






●中東TODAY: NO・730イランのトルコ情勢判断は最も正確 2007年10月19日

 トルコの議会が軍に対して、イラクのクルド地域に侵攻することを、許可する決議を出した。この結果、世界のマスコミは、明日にでもトルコ軍が北イラクのクルド地域に軍事侵攻する、といった予測報道を行っている。
 周辺各国は、トルコが軍事行動を起こさないように、ブレーキをかけるのに必死だ。クウエイトはいち早く、トルコ軍のイラク侵攻に反対の立場を表明したし、ロシアも軍事行動を避けるように働きかけている。
 アメリカが軍事行動に反対するのは、自国のイラク駐留軍の補給路を戦争によって、断たれる心配があるからであろうし、トルコが軍事的に進出して来れば、すべてのゲームのルールが変わってしまうから当然であろう。
 こうしたなかで、イランが以外に冷静かつ、沈着な情勢判断をしている。たとえば、10月19日のイラン報道では「トルコ議会が軍事行動を許可」と報じている一方で、「イラク副大統領トルコとの交渉に満足」「トルコはイラクとの共同軍事行動否定」「イラク政府はPKKに国外退去促す」「トルコ政府には最大限、外交努力をする意思がある」「「イラクのクルド人はPKKで、トルコ側に対話を希望している」といった記事を並べている。
 イランは同時に、トルコの怒りを十分に理解していて、PKKに対する攻撃を、必ずしも反対していない。それはクルド問題で、イランも困惑しているからだ。イランに対しても、クルドの一派がゲリラ活動を展開しているのだ。
 イランのトルコ・PKK問題に対する、分析が冷静なものであることを評価し、そこからわれわれは学ぶべきではないか。戦争は人が死に物が破壊され、大きな経済的負担を伴うものであるだけに、軽々に「明日にでも起こる」といった判断をすべきではなかろう。
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2007/10/no_112.html






【私のコメント】
トルコの英字紙ターキッシュデイリーニュース紙の10月18日付け記事によると、シリアのアサド大統領は「トルコが国境を越えてイラクを攻撃することはトルコの正当な権利である。我々はトルコの全ての決定を支持し、トルコを後押しする。」と述べている。米国を含め世界各国がトルコのイラク侵攻を阻止しようと外交努力を行っている中でこの発言は異例である。その真意は何だろうか?

ヒントとなるのは中東TODAYの「イランのトルコ情勢判断は最も正確」と題する記事である。イランに対してもクルドの一派がゲリラ活動を展開しているため、イランはトルコの怒りを十分に理解していて、PKKに対する攻撃を、必ずしも反対していないという。トルコ国内でのクルド人の分離独立運動は、イラン国内のクルド人の分離独立を引き起こしかねないという危惧がその裏に存在することが示唆される。

クルド人はトルコ・イラク・イランの他に少数だがシリア北東部にも居住している。このことを考えると、トルコ・イラン・シリアがクルド分離独立運動阻止で協力関係にあるという仮説が成立するだろう。

ただ、私はこの仮説に今ひとつ納得しきれないものを感じる。例えば、トルコ南東部のシリア国境沿いには本来シリアに所属すべきアラブ系住民が居住している。欧米が植民地支配のために引いた国境線が民族の境界と一致していないことが全ての元凶なのだ。この問題を解決しない限り、中東諸国は国内での民族対立を回避できない。民主主義を導入しても民族対立が国政の主要な争点になってしまい、結果的に民主主義が機能しなくなるのだ。ネオコンが主張する「中東の民主化」の為には、民族の分布に一致した新たな国境線の引き直しが必要不可欠であり、米国のイラク侵略はそれを実現することが大きな目的であると私は想像している。また、クルド語はペルシャ系言語である事を考えると、クルド人国家の成立はイランにとって兄弟国家が成立することを意味すると考えられ、国内クルド人の分離独立によって領土が減少することを上回る利益がある、とも考えられるのだ。

このように考えると、シリアやイランのトルコ支持の姿勢は、建前では国内クルド人分離独立運動の抑制という国内事情が理由ということになるが、両国は本音ではクルド人国家の成立とそれに伴う中東の国境線の引き直しを支持していると想像される。そして、トルコの支配階層もまた本音では貧しくイスラム原理主義的なクルド人をトルコ国家から切り捨てることを願っており、PKKの活動を好ましいと考えていると想像する。

トルコのイラク領内侵攻は北イラクのクルド人自治区との戦争を引き起こし、トルコ・イラン・シリアのクルド人の分離独立運動を巻き起こして結果的にクルド統一国家を建国させる引き金になりうると私は想像する。この引き金をトルコに引かせるためにシリアのアサド大統領はトルコ支持発言を行ったのではないか、というのが現時点での私の想像する仮説である。
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