国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

女性の髪を隠すか隠さないか:トルコで起きている文明の衝突

2008年02月13日 | トルコ系民族地域及びモンゴル
●トルコ、女子大生のスカーフ規制撤廃で拡がる国家分裂の懸念
2008年02月11日 16:23 発信地:アンカラ/トルコ

【2月11日 AFP】トルコ国会で大学内での女性のスカーフ着用を認める憲法改正案が可決されたことから、国是である政教分離の世俗主義をめぐる政府と世俗主義擁護派の対立激化を懸念する声が国内で拡がっている。

 改正案はレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)首相率いるイスラム色の強い与党・公正発展党(AKP)が提出したもので、同党が過半数を占める国会で9日、可決された。

 これに対し主要日刊紙ヒュリエト(Hurriet)やミリエト(Milliyet)は10日、それぞれ「カオス(大混乱)」、「危険な分裂」などの見出しで改正案可決を報じた。

■大学が論争の最前線に

 イスタンブール大学(Istanbul university)で経済学を教えるAhmet Insel教授は、大学構内がイデオロギー論争の最前線となる可能性が高いと指摘。「スカーフを着用した女子学生を締め出す大学も出てくるだろうし、教授陣の中にも意見の対立が起こるだろう」と述べた。

 他の大学関係者らも、スカーフ着用をめぐって構内で衝突が発生し、授業をボイコットする女性教授も出てくるのではと懸念する。

■「国是への挑戦」か「思想の自由」か、割れる見解

 大学でのスカーフ着用の禁止は1980年、無血クーデターで実権を掌握した軍部によって導入された。この措置のため、これまでイスラム教徒の女子学生はカツラでスカーフを隠して授業に出席したり、高等教育そのものをあきらめる女性も少なくなかった。

 与党・公正発展党は、禁止令は「思想の自由」「教育を受ける権利」に反する人権侵害だと主張している。

 一方、国軍や司法関係者、教育関係者に多い世俗主義の支持層は、大学内でのスカーフ着用の許可は「政教分離」への挑戦であり、今回の改正が女性にスカーフ着用を強要する圧力となりかねないと指摘。着用の対象がさらに高等学校や政府機関に拡大し、トルコがイスラム教国に傾くのではないかと警戒している。

 また、改憲支持派の一部からも、政府は十分な審議を行わないまま可決を急ぎ、女性の教育をめぐる問題の根本的な解決を図らなかったのは「不誠実」だとの批判が出ている。(c)AFP/Nicolas Cheviron
http://www.afpbb.com/article/politics/2348889/2620603







●トルコ国会がスカーフ容認の改憲案可決、世俗派は抗議デモ
2008年02月10日 07:35 発信地:アンカラ/トルコ

【2月10日 AFP】トルコ国会は9日、女性が大学でスカーフを着用することを許可する憲法改正案を賛成多数で可決した。イスラム色の強い与党にとってこの改憲案可決は「大勝利」を意味する一方、世俗派の反発を招き、大規模な抗議活動に発展する可能性が出てきた。

 国会で採決が行われる中、首都アンカラ(Ankara)市街地の広場には改正案に反対する数十万人が集結。同国建国の父、ムスタファ・ケマル・アタチュルク(Mustafa Kemal Ataturk)初代大統領の写真ともに、国旗を掲げて抗議デモを行った。

 スカーフ着用を、建国以来の国是である厳格な政教分離に対する挑戦ととらえる軍、司法界、学界関係者はAKPの改正案に激しく反発していた。(c)AFP/Hande Culpan
http://www.afpbb.com/article/politics/2348548/2619764







【私のコメント】
南欧を旅行して感じることだが、黒髪を金髪に染めている人が非常に多い。生え際を見ると自毛が黒髪であることが一目瞭然である。金髪=美しいという観念が常識化していることの証拠だろう。そして、欧米文明では美しさの象徴である髪は見せびらかすべきものである。一方のイスラム文明でも髪は女性の美しさの象徴であるが、それが故に女性は人前では髪を隠さねばならないのだろう。

この「女性の髪を隠すか隠さないか」は欧米文明とイスラム文明の相違点の象徴である。現在トルコで起きているスカーフを巡る議論は、欧米文明の影響下に置かれ世俗化したトルコ支配階層と、イスラム文明に所属し世俗化していないトルコ一般住民(トルコ人+クルド人)の間の対立を深刻化させており、これは欧米とイスラムの二大文明の衝突に他ならないのだ。具体的には、トルコ支配階層の多く居住するイスタンブール・イズミル・アンカラの三大都市とその他の地域の対立と言うことになるが、これらの大都市にもクルド人や一般のトルコ人が多数居住していることが問題を複雑化させている。世俗派と宗教原理派の混住というこの現状は、カトリック・セルビア正教・イスラム教の三宗教の教徒が混住していた内戦前のボスニア・ヘルツェゴビナに類似している様に思われる。

以前から述べているとおり、トルコの支配階層はトルコという国を複数(おそらく三つ)に分裂させることを狙っている様に思われる。分裂の理由は一つはクルド人かトルコ人か、そしてもう一つは世俗派か宗教原理派かである。トルコ政府はクルド民族を認めず分離運動を弾圧することで逆にクルド人の分離独立の意志を煽っている様に思われる。近未来にイラク北部に石油で潤う富裕なクルド国家が誕生すれば、トルコ国内のクルド人はその引力に引かれて分裂することだろう。そして、もう一つの分裂は世俗派トルコ人と宗教原理派トルコ人の間で煽られている。これによって、トルコの支配階層はクルド人と宗教原理派トルコ人という二つの不良資産をリストラして、富裕かつ世俗的な支配階層だけから成る小国を作り出すことを狙っているのだろう。

トルコの分裂は旧ソ連の中央アジアとも類似した状況を作り出すと思われる。最も奥地にありペルシャ系のタジキスタンに相当するのがクルド人国家であり、ロシアの影響が強く世俗的なカザフスタンに相当するのが世俗派トルコ人国家、ロシアの影響力が相対的に弱いウズベキスタンやトルクメニスタンに相当するのが宗教原理派トルコ人国家になる。このようにして生まれる複数の国家はキリスト教圏とアラブ圏・ペルシャ圏の間の緩衝国家として有効に機能することだろう。私は、トルコの分裂は欧州(独仏連合)が裏で筋書きを書いており、将来世俗派トルコ国家だけはEUに加盟させることでトルコ支配階層と話がついているのではないかと想像している。
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5 コメント

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矛盾 (けんじ)
2008-02-14 20:22:34
トルコ国防軍はどのように動くかによって決まるのではないか。
国防軍の首脳部はどの様に考えているだろうか。
 彼等は第一次世界大戦による敗北を学び、第二次世界大戦では中立を守り、私は知らなかったが、大勢が決まって、参戦した。この故事を自覚しているから、分裂は考えがたい。
 トルコが第一次世界大戦で、国が分裂した経験をどのように考えているだろうか?
 逆にスカーフをつけようがつけまいが関係ないとなれば、それでよいのではないか。

 この西欧化した上層部と、一般イスラム教徒との確執の構造は、我国にもある。ただ我々は、地理的、階層的に確執しているのではなく、同一人物の行動において分裂し、確執しているにも拘らず、それにきずかない状態であるから、トルコより始末が悪いであろう。
 例を挙げる
BSEで被害が出ていないのも関わらず、輸入禁止だが、被害が出て、危うく死にそうになったにも関わらず史那冷凍食品は禁止にしない。それに矛盾も感じていない。
 これが大東亜戦争のある面における原因だが、私はいずれこの矛盾は我々を原爆へと向かわせると思っている。
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Unknown (Aletheiajp)
2008-02-17 12:43:16
>トルコの支配階層はトルコという国を複数(おそらく三つ)に分裂させることを狙っている様に思われる。

→私は、あり得ない話ではないと思う。
返信する
Unknown ()
2008-02-23 18:22:37
早く中国も分裂しますように・・・。
返信する
分割 (ジェーン)
2009-09-06 23:56:17
はじめまして。随分前の記事にコメントするのもどうかと思ったのですが、気になったので。

トルコ分割案大賛成です…。西洋化した人たちと宗教的で非西洋的な人たちの間の違いは大きいですから。それこそ女性が満足に学校に行けないような所もあります。同一の国の国民とは思えない違いです。

国是があるので難しいかもしれませんが、宗教的な国民と「離婚」してやっかいばらいできれば世俗派も内心ではせいせいするでしょう。もう宗教問題で悩まなくていいわけですから。
そうなれば宗教的な人たちの方も堂々と穏健な?イスラム国家を作れますし。世俗主義反対派の人たちにとっては万々歳でしょうね。実際宗教的な人がイズミルとかの開放的な地域で暮らすのは結構大変なようですし、もともと同じ国の国民になるのは無理があったのだと思います。

EUも世俗国家なら受け入れるはずです。実際あちらの世俗主義の人はヨーロッパ人とほとんど変わりないですから。
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Unknown (Unknown)
2009-12-26 22:12:42
>トルコ分割案大賛成です…。西洋化した人たちと宗教的で非西洋的な人たちの間の違いは大きいですから。それこそ女性が満足に学校に行けないような所もあります。同一の国の国民とは思えない違いです。

賛成である。

>EUも世俗国家なら受け入れるはずです。実際あちらの世俗主義の人はヨーロッパ人とほとんど変わりないですから。

コンスタンティノープルのギリシャへの返還が先だ。
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