国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

ミアシャイマーとウォルトによる『イスラエル・ロビー』の日本語版が9月4日に講談社から発売

2007年08月31日 | イスラエルロビー批判論文の日本語訳
●地政学を英国で学ぶ : いよいよ『イスラエル・ロビー』が発売開始  2007-08-29

今日のイギリス南部はまたしても良く晴れましたが、気温はもう夏ではありませんでした。近くの運河には子供用の砂場(ビーチ)があって家族連れがたわむれておりましたが、心なしかちょっと寒そうだったような。

さて、いよいよ話題のミアシャイマーとウォルトによる『イスラエル・ロビー』が、まずアメリカで今週の月曜日に発売されました。

イスラエルロビーがアメリカの対外政策、とくに中東の政策に関して異様に大きな影響力を持っていることを指摘した問題作ですが、アメリカのアマゾンのレビューにはさっそくコメントが書かれており、人々の関心の高さがなんとなく伝わってきます。

イギリスでは九月一日、そして日本では(残念ながら私の訳ではないですが)やや遅れて九月六日に発売されるとのことですが、とりあえず世界同時発売を狙っていたようで、ミアシャイマーのサイトを見ると

Translated into Arabic, Catalan, Danish, Dutch, French, German, Greek, Italian, Japanese, and Spanish.

ということで、発売当初からこれほど多くの言語に翻訳されることが決まっているそうです。これは私が翻訳をした『大国政治の悲劇』が、かなりの年月がたってから

Translated into Chinese, Greek, Italian, Japanese, Korean, Portuguese, Romanian, and Serbian.

という言語に翻訳されましたので、やはり今回の翻訳の注目度の高さがケタ違いであることがよくわかります(苦笑

おそらくこの『イスラエルロビー』のおかげで、日本でも陰謀論系の人からアメリカ政治に関心のある人まで、広範囲にわたってミアシャイマーとウォルトの名前は響き渡るようになるものと思われます。

アメリカとイギリスの出版社もどちらもマイナーなのでメディアで大きな宣伝はなされないものと思われますが、それでも議論を巻き起こすことは間違いナシで、逆にそうだからこそマイナーな出版社からでもオッケーということですな(ちなみに日本では超メジャーな講談社から出るらしいですが・・・・)。

ここで面白いのは、ミアシャイマー(おそらくオーストリア系)とウォルトの両人とも、ユダヤ系である可能性が非常に高いということ。

つまりユダヤ人がユダヤ人を批判しているという構造になっているわけで、現代国際政治の不可思議な(それとも必然的な?)対立構造が出来上がっているわけです。

私も以前ユダヤ人の方に「ユダヤ人はユダヤ人を批判しても殺されない、同じ民族だからだ」ということを聞いたことがありますが(まあこの言葉をそのまま信じないほうが良いかも知れませんが)、たしかに現代の世界ではユダヤ人を批判できるのは唯一ユダヤ系の人間だけ、ということが言えそうなのも事実です。

私はミアシャイマーとウォルトのものはけっこう読んでいるほうだと思いますので、日本語版の解説にどういうことが書かれているのか非常に興味があります。

ウォルトにとっては前著からの議論の延長、そしてミアシャイマーにとっては『大国政治の悲劇』でのサードイメージを中心とした分析からセカンドイメージ中心の分析への移行、という意味でも注目ですね。

英国版はすぐ読めると思いますが、当分の間は日本語版を手にとって見ることができそうにもないのが残念な限りです。
http://geopoli.exblog.jp/7364940/






●地政学を英国で学ぶ : さっそくイスラエルロビー本がニュースに 2007-08-30

今日のイギリス南部は数日間続いていた晴れ間も一休みで、朝から雲っております。気温もなかなか低く、さっそく暖房のお世話になりました。

さて、議論を呼ぶことが必至なミアシャイマーとウォルトの「イスラエル・ロビー」ですが、さっそくその発売が物議をかもし出しているようすです。ある人に教えてもらったニュース記事から。




米政治学者が、米国のイスラエル支援政策を批判する書籍を出版 2007年08月30日 13:57 発信地:ニューヨーク/米国

【8月30日 AFP】米国の対イスラエル外交・軍事支援が米国益に適うものかどうかに疑問を呈す内容の書籍が、9月4日に出版される。これまでタブー視されてきた問題も取り上げており、中東地域で米国が果たす役割をめぐって、議論が高まることが予想される。

「The Israel Lobby and US Foreign Policy(イスラエルのロビー活動と米外交政策)」と題したこの本は、シカゴ大学(University of Chicago)のジョン・ミアシャイマー(John Mearsheimer)教授とハーバード(Harvard)大学のステファン・ウォルト(Stephen Walt)教授の共同著作。

米国でも有数の政治学者である2人は、同じテーマで昨年発表した論文で、米国がイスラエルを支持する理由は、戦略的、倫理的な背景からでは十分に説明することができないと指摘。むしろ、在米ユダヤ人団体のロビー活動や、これに共鳴するキリスト教原理主義者、新保守主義者らの圧力によるとみるべきだと主張し、議論を巻き起こした。

今回出版される本でも、こうした「無条件のイスラエル支持政策」を長年続けてきたことが、中東地域における米国の外交政策のバランスを欠く結果を招き、イラク戦争や、イラン・シリア両国との関係緊張化、欧米諸国の安全保障面での脆弱(ぜいじゃく)化などにつながったと主張。

「イスラエルには、多くが主張するような米国にとっての戦略的価値はない。冷戦時代にはあったかもしれないが、冷戦後においては負債としての側面が大きくなりつつある」「イスラエルの厳しいパレスチナ政策を無条件に支持してきたことによって、世界中で反米主義が高まり、テロの懸念も増した。欧州、中東、アジアの重要な同盟国との関係にも亀裂をもたらした」などと述べている。

この本について、米ユダヤ人団体「名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League)」の最高責任者、アブラハム・フォックスマン(Abraham Foxman)氏は、「アラブ-イスラエル間の紛争や米国内のイスラエル支持者の役割について、陰湿で偏った視点に基づいて記述している」と酷評。対抗して同日付で、「The Deadliest Lies: The Israel Lobby and the Myth of Jewish Control(史上最悪のウソ:イスラエルのロビー活動とユダヤ人支配説について)」と題した自著を出版する予定だ。

http://www.afpbb.com/article/politics/2274301/2057665



ADLが騒いでいるんですねぇ。この団体はニューヨークの国連の目の前にあるビルに本部がありましたっけ。

とにかく今後の事態の成り行きが注目されます。本書についてのニュースを入手した方はぜひ教えてください。
http://geopoli.exblog.jp/7371831/








●地政学を英国で学ぶ : ウォルツの三つの「イメージ」 2007-02-15

今日のイギリス南部は一日中曇りでしたが、午後遅くになってスッキリ晴れました。気温はけっこう低めで、日本よりは寒いのでは。

さて、日本に行っていたときに気になったことをひとつ。

ミアシャイマーの翻訳本が思ったより好評だと個人的には感じたのですが、ここで重要なのはウォルツの言った三つの「イメージ」ということを認識して欲しい、ということです。

国際関係や世界情勢を論じる場合の考え方の枠組みとしてさまざまな方法があるのですが、これをわかりやすく分類したのがネオリアリストの創始者である、ケネス・ウォルツでした。

ここでも何度か紹介している名著、『人間、国家、そして戦争』(Man, the State, and War)という古い本(1959年刊)の中で、ウォルツは「ファースト・イメージ」、「セカンド・イメージ」、「サード・イメージ」というアイディアを提案しております。

これはどういうことかというと、国際政治の動きを分析する際に「どのレベルを見ればよいか」ということを言っているわけです。

たとえば今回のアメリカによるイラク侵攻という事件があったとして、これをブッシュとフセインの関係など、個人の関係などから分析するやりかたがありますが、これを「ファースト・イメージ」による分析といいます。

ところが同じ事件をネオコンや政府内の省内の権力争い、ロビーなどの団体や組織の面や、アメリカの文化などから分析する方法もあります。これは国内レベルを中心に見ますので、「セカンド・イメージ」。

そして国家同士の力関係や国際システムなどの枠組みの変化によってアメリカが侵攻した、という分析は、もっとも高いレベルの「サード・イメージ」による分析である、ということになります。

ウォルツはこの三つのレベルの強さを比較検討して、最終的には「サード・イメージ」、つまり国家の国際レベルの枠組みの力が国際関係を動かすもっとも強力な要素だという結論を出しております。

もちろんすべての国際政治の動きはこのように単純ではなく、ファースト・イメージからサード・イメージまでの力が複合的に組み合わさったものなのですが、とりあえずこの分析法を理解しておくととても便利だということです。

問題なのは、日本をはじめとする国際関係を分析する人々が、往々にしてこの三つのイメージの分析をごちゃまぜにしている、ということですな。

もちろんこの分析をごちゃまぜにしてもかまわないのですが、欧米の国際関係を分析する学者たちの間では、ウォルツのこのような分析の仕方を基本知識として持っている、という点で大きなアドバンテージなのです。

で、私が翻訳したミアシャイマーなのですが、完全に「サード・イメージ」による分析。

これを理解できているといないとでは、なぜミアシャイマーが「国際システム内の枠組み」の中だけで議論をしているのかわからない、ということにもなりかねません。

もちろんミアシャイマーはナポレオンやヒトラーについても論じているのですが、自身の国際関係の理論であるオフェンシヴ・リアリズムを説明する際には、下の二つのイメージを完全に無視して議論を行っております。

もちろんウォルツも言いだしっぺだったので、1979年に発表したネオリアリズムの聖書である『国際政治の理論』では完全に「サード・イメージ」だけの分析でした。

ところがウォルツの「サード・イメージ」だけによる理論では、うまく説明できないことがたくさんありまして、それを出版直後から色々とほかの研究者に突っ込まれておりました。

よって、彼の弟子たちは、この「サード・イメージ」だけの理論に、「セカンド・イメージ」の要素、つまり国内政治の要因(軍国主義、官僚政治、国内の政治闘争など)を含むことによって補ったわけです。

この続きはまた明日。
http://geopoli.exblog.jp/6482496





●地政学を英国で学ぶ : 「サードイメージ」だけではダメ? 2007-02-15

今日のイギリス南部はよく晴れましたが、まだまだ気温は低めです。

中東のほうがイスラエル周辺を核にして飛んでもない状態になっておりますが、本当にこの辺の地域というのは報われない不幸な場所ですなぁ。

さて、ウォルツやミアシャイマーなどのネオリアリスト達は国際政治の動きを見るためには「サード・イメージ」を中心に見ることを提案したのですが、これだけでは不十分ということが年々ばれてきてしましました。

なぜかというと、まあ当然なんですが、国際システムの中の強力な国の強さや数だけでは大枠の構造までは教えてはくれるかもしれないのですが、肝心の細かい動きまではカバーしきれないからですな。

で、ウォルツはその後、自身の構造理論の他に外交政策の理論が必要だ、ということを述べたわけです。

この言葉を受け継いだのが彼の優秀な弟子たちだったわけですが、彼らが何をしたかというと、主に「セカンド・イメージ」、つまり国内要因というものを考慮に入れたのです。

ところがミアシャイマーはウォルツとは直接の師弟関係にあるわけではなく、むしろ抑止理論を研究していたリベラル寄りの先生たちについていたので、ウォルツの顔色をうかがうことなく堂々と持論を発展させることができたのです。

もちろんミアシャイマーも「サード・イメージ」を中心に分析するという点ではウォルツと同じなのですが、これはとは別に外交政策の理論が必要だ、という意見には反対。

で、彼は何をしたのかというと、ひとつの理論だけですべてを説明できるように理論に幅をもたせようとしたのです。

そこで重要になってきたのが「地理」という要素。つまり、ここで理論はかなり地政学と近づいてきたわけです。

もちろんウォルツの弟子でも「地理」という要素をウォルツの構造理論に加えた人がいました。それはご存知の通り、「イスラエル・ロビー」という論文を一緒に書いて話題になった、あのハーバード大学教授のスティーヴン・ウォルト。

彼はウォルツの愛弟子だったのですが、博士号論文でウォルツのバランス・オブ・パワーを基礎においた構造理論ではなく、それを補うために「バランス・オブ・スレット」という理論を展開しております。

これ、どういう理論かというと、大国や国家というものは、勢力をバランスさせようとするのではなく、むしろ「脅威」の大きさに対してバランスをしようという動きをする、ということなのです。つまり「勢力均衡」ではなく、「脅威均衡」ということです。

ウォルトはこれを60年代から70年代末までの中東国家たちの動きを追いかけながら理論化したのですが、ここで彼が重要だとにらんだのが「距離」という、まさに地理的な要因だったのです。

たとえば何をするのかわからない国家が隣にあったとすると、近隣諸国はその国の実際に持っている力よりも、その国家によって引き起こされる脅威に対してバランスをとろうとする傾向がある、ということなのです。

それにはまさに「距離の近さ」というものが強力に働いているわけであり、極端に言えば戦前の日本がナチス・ドイツではなくロシア(ソ連)に対して抱いていた恐怖というのは、まさにここから発生していたのですね。

つまり遠くのパワーよりも近くの狂人のほうが恐怖を生み出しやすいということです。単純にいえばそういうことになります。

この続きはまた明日。
http://geopoli.exblog.jp/6486127/





●株式日記と経済展望 アメリカに依存する二つの国、イギリスとイスラエル。 2007年8月30日
http://blog.goo.ne.jp/2005tora/e/43b6eefd29c59b3e3a06a1df9ba5bf8b









ミアシャイマーとウォルトのイスラエルロビー批判論文の日本語訳part1

ミアシャイマーとウォルトのイスラエルロビー批判論文の日本語訳part2

ミアシャイマーとウォルトのイスラエルロビー批判論文の日本語訳part3

ミアシャイマーとウォルトのイスラエルロビー批判論文の日本語訳part4

ミアシャイマーとウォルトのイスラエルロビー批判論文の日本語訳part5

ミアシャイマーとウォルトのイスラエルロビー批判論文の日本語訳part6

ミアシャイマーとウォルトのイスラエルロビー批判論文の日本語訳part7

ミアシャイマーとウォルトのイスラエルロビー批判論文の日本語訳part8






【私のコメント】
私が昨年春に日本語訳したミアシャイマーとウォルトの連名によるイスラエルロビー批判論文がこのたび書籍として出版されることになったようだ。講談社に問い合わせたところ、発売日は9月4日だが出荷はもう少し早いという。東京都心部の大規模書店では少し早く店頭に並ぶかもしれない。なお、私の日本語訳は本ブログの「イスラエルロビー批判論文の日本語訳」というカテゴリーで上記の8つの記事に分けて全て収録されている。

ミアシャイマーとウォルトの両名がユダヤ系らしいとの情報、更に両名と対立する筈のネオコンの多くもユダヤ系であることは、一体何を意味するのだろうか?

田中宇氏の受売りになるが、彼らはイスラエルをわざと滅亡させようとしているように思われる。アラブ諸国の憎悪に包囲されたイスラエルという国には未来がないことを考えて、余力のある今の内にイスラエルをわざと滅亡させ、イスラエルのユダヤ人の未来を切り開くことがその目的だろうと想像する。具体的には世俗的なアシュケナジーが欧州に移住し、アラブ諸国などを出身地とする非世俗的なスファラディはパレスチナでアラブ人と共に暮らすか、あるいは中近東・北アフリカなどで別の安住の地を探すことになるのだろう。

イスラエルは建国以来存亡の危機に直面し続けており、その危機感故に国際金融資本の手先に成らざるを得ない状況にあった。国際金融資本による米国支配には、イスラエルが深く関与している(例えば、米国の主要都市や主要港湾にはモサドが核兵器を仕掛けているとの噂もある)のではないかと私は想像する。イスラエルは米国に対しては加害者であると想像するが、国際金融資本の被害者でもあるのではないだろうか。そして、そのことを理解する心ある米・イスラエル両国のユダヤ系政治家が協力して国際金融資本(その代理人である英国政府も含む)にとどめを刺すために開始したのがイラク戦争なのではないかと想像する。
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4 コメント

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Unknown (Unknown)
2007-08-31 14:23:39
日本の独立戦争が始まった。アメリカの衰退と中国の勃興。

この微妙な状態を打破できるのは理数系しかない。

【自立】アメリカの占領が終わる日本
http://www.teamrenzan.com/archives/writer/mineyama/seapower.html
返信する
Unknown ()
2007-08-31 15:08:56
ユダヤ人にもさまざまな人がいて
必ずしも一致団結してるわけではありません
アメリカ人化したユダヤ人も結構いますよ
返信する
聖書は何を語るか!? (蝦夷老羊)
2007-08-31 16:24:00
はじめまして。
お邪魔でしたらごめんなさい・・・・・。

人は何のために生きているのでしょうか?
人はどこから来て。。。。。
何のために生きて。。。。。
どこへ向かっているのでしょうか。。。。

神の存在、愛とは何か、生きる意味は何か、死とは何かな
どの問題などについて、ブログで分かりやすく聖書から福音
を書き綴っています。ひまなときにご訪問下さい。
http://blog.goo.ne.jp/goo1639/

「すべて、疲れた人、重荷を負っている人は、わたしのところ
に来なさい。わたしがあなたがたを休ませてあげます。」
                   (マタイの福音書11:28)。
返信する
ナチラエルは核兵器で世界を脅迫する (ユダヤ嫌い)
2010-12-09 09:40:38
>
(例えば、米国の主要都市や主要港湾にはモサドが核兵器を仕掛けているとの噂もある)

米国の主要都市どころか、世界中の主要国の主要都市に核兵器を仕掛けている、と言う趣旨の投稿を一部のブログに問うおぅしたところ、荒唐無稽なたわごとであると非常に非難されました。

 しかし、ナチスに勝るとも劣らない強盗国家ナチラエルの残虐非道な行為を見ると、ナチラエルが世界中の主要都市に核兵器を仕掛け、核兵器を爆発させると脅して自国の無法な要求を飲ませる事態が将来必ずやって来るだろう、と考えています。
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