エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

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2020-09-19 09:18:50 | 地獄の生活

だが不幸なことに、こういう御大層な感情は法外に金が掛かる。ところが私は一文無しだ。それに、言っておくが、騎士道精神を映す鏡なんてものは壊れちまってる。私は聖人じゃない。人生を楽しみたいし、人生を素晴らしくするもの、安楽にしてくれるものが好きだ。女たち、賭け事、贅沢、馬……そういったものすべてを手に入れるためには、私が今そうしているように、今の時代に沿った武器で戦うのだ……。清廉の士であることは素晴らしい。しかし、どうせそうはなれないのだから、ちまちまと二十スーの金を巻き上げるケチなペテンより、十万リーブルの年利が入ってくるような悪事の方を私は好む。あの若造は目障りだ。だから抹殺する……お気の毒様だ。だが、なんでわざわざ私の邪魔をする? もしあいつを正々堂々と白日のもとにちゃんと証人を立てて、法の範囲内で片付けることができたなら……、しかしそんなことをすれば、マルグリット嬢の名誉を踏みにじることになる……。だから私は別の道を探らねばならなかったのだ。私には他に選択の余地はなかったのだ。そうではないか?溺れかけている人間は、目の前にある板切れが汚いからといって押しやったりはしない……」

彼はこれらの言葉よりもっと粗暴な身振りを一つすると、ソファに倒れ込み、顔を両手で覆った。そうでもしないと爆発してしまうかのように。彼は怒りで息が詰まっていた。しかし怒り以上に、彼が敢えて口に出さないもの、良心が胸の中で大きくうねり、正義感が最後の抵抗を見せていた。確かに彼は束縛されない男であり、世間でいう道義的な規律などは、長らく彼流の愚鈍なやり方で無視してきた。しかし、少なくとも今までは、良識ある人々が守る規範を明白に破ったことはなかった。だが、今回は……。

「あなたが犯したのはおぞましい行為です、侯爵」と冷たい口調でフォルチュナ氏が言った。

「ああ説教はよしてくれ」

「教訓は何度聞いても良いものです」

侯爵は肩をすくめ、苦々しい口調で嘲った。

「それじゃなにかね、フォルチュナ君、君は私に前貸ししてくれたあの四万フランを、どうあっても返して欲しくないと言うつもりかね? なら、簡単なことだ。ダルジュレ夫人のところへ行くんだな。コラルト氏に私からの命令の取り消しを求めればいい。そうすれば、あの男は救われる。そしてマルグリット嬢と結婚して百万長者になるのだ」

フォルチュナ氏は黙っていた。侯爵に次のようには言えなかったのだ。

「ふん。私の四万フランが帰ってこないことなんか、とうの昔に分かってますよ。マルグリット嬢には何百万もの持参金はつかない。あなたは無意味な犯罪を犯したんだ……」

しかしこの確信があったればこそ、良心を説く彼の口調が冴えわたったのだ。彼は失った金と引き換えにちょっとした美徳を持つという贅沢を自分に許したのだ。もし彼にまだ希望がたっぷり残されていたなら、今したような話し方をしたであろうか?それは大いに疑わしい。9.19

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