エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-IV-5

2020-10-25 08:58:11 | 地獄の生活

「で、それが悪いことかい?」

「そうなんだ。というのは、この最初の勝利の味というのは忘れられないものでね、それで人はゲームを辞められなくなる……またゲームをやる、負ける、負けを取り返したいと思う……そうなったらもうおしまい、病みつきになるのさ」

パスカル・フェライユールは口元にほほえみを浮かべていた。自分に自信のある者の微笑だ。

「僕の頭はそう簡単に正気を忘れないよ」と彼は答えた。「僕は自分の名前を大事にしなくちゃいけないし、これから一財産作らなくちゃならないから、軽はずみなことは出来ない……」

「頼むから」と子爵は強調した。「僕の言うことを信じて! 君にはこれがどういうものか分かっていない。どんなに強靭な意志の持ち主でも、どんなに冷静な人でもこれに執りつかれることがあるんだ……賭け事なんかしないで、帰ろう」

彼は声を大きくしていた。まるで、そのときソファに近づいてきた二人の客にわざと聞かせようとしているかのようだった。彼らは彼の言葉を聞きつけた。

「これはこれは、我が目と耳を疑うところです!」二人のうちの一方、年配の男が叫んだ。「これは本当にフェルナン君なのかい?スペードのクイーンの愛好者をゲームから引き離しにかかろうとしているのが?」

ド・コラルト氏はさっと振り向いた。

「ええ、ええ、僕ですよ」彼は答えた。「僕は自分の財産を注ぎ込んで、うぶな我が友にこう教えてあげる権利を買ったんですよ。『用心せよ。僕のようにならないように』とね」

最上の忠告というのは、あるやり方で与えられると、まさに真逆の効果を必ず引き起こすものだ。ド・コラルト氏のしつこさ、愚かな言い回しに込められた尤もらしさは、どんなに辛抱強い男をも苛立たせずにおかなかったであろう。彼の保護者ぶった態度はパスカルの神経に障った。

「君は何を言おうと自由だよ、だが僕は……」

 「どうしてもやるのかい?」とド・コラルト子爵が遮って尋ねた。

 「ああ、どうあっても」

 「なら、仕方がないな。君はもう子供じゃないんだし。慎重にと、僕は十分に君を諫めたわけだからね……それじゃやろうか」

 彼らはテーブルに近づいて行った。席を指定され、パスカルはフェルナン・ド・コラルトの右手に座った。ゲームはバカラで、子供でもできる単純なルールながら情け容赦のないものだった。技術も作戦も必要なく、知識や計算も無意味なゲームである。偶然のみが支配し、しかも恐ろしい速さで決定されて行く。愛好者たちは、冷静さと長い経験があれば、ある程度ツキの悪さに対抗できると主張する。そうなのかもしれない。確かなことは、このゲームは二人、三人、あるいは四人のプレイヤーで行われるということである。順繰りに親になった者が適当と判断した額を決め、それが通れば、カードが配られる。親が勝てばそのまま続けるか、親を譲るか、自由に決められる。もし負ければ、次のプレーヤーが親になる。10.25

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