レストランというよりはワインを提供するのを旨とするこの店は見栄えはぱっとしないが、食事も出来、とりわけ昼食は非常に良いということをカジミール氏は経験で知っていた。
「誰か私を訪ねてきた人がいるかい?」と彼は店に入るや否や尋ねた。
「いいえ、誰も」
彼は時計を取り出し、驚いた素振りを見せた。
「まだ正午にもなってないのか……早かったな……ということなら、アブサンをグラスで、それと新聞を頼む」
店のサービスは迅速で、ド・シャルース伯爵が彼からこのような対応を受けたことは一度もないほどだった。それから彼はまるで投資資金をふんだんに持っている男のような様子で、証券市場の動向をじっくり読みふけった。アブサンのグラスが空になったのでお代わりを注文したとき、誰かに肩を叩かれた。彼が飛び上がるように立ち上がると、目の前にイジドール・フォルチュナ氏がいた。
いつものように、相続人追跡者たるフォルチュナ氏のいでたちは高度に洗練され、靴も手袋も非の打ちどころがなかった。が、口元に漂う微笑はいつもより思慮深くかつ相手を励ますようなものだった。
「御覧のように」カジミール氏は叫んだ。「お待ちしていましたよ!」
「確かに! 私は遅れてしまいました」とフォルチュナ氏は答えた。「しかしその分はすぐ取り返せますよ。と言いますのは、お昼をご一緒して頂きたいと思っておりまして。よろしいですね?」
「それは、その、お言葉に甘えて良いものかどうか……」
「ああ、もちろん、そうして頂きたいものですね。個室を使わせてくれるでしょうから。いろいろお話したいことがありますのでね……」
フォルチュナ氏がカジミール氏と友好関係を結び、しょっちゅう食事を共にしていたのは、友情のためではなかった。誇り高いフォルチュナ氏はカジミール氏のことをいささか見下していた。しかしこのところの出来事で、そうもしていられなくなり、更には彼の商才が彼の背中を押し、嫌悪感をぐっと呑み込むことにしたのであった。
カジミール氏を知ったのはド・シャルース伯爵を通してであった。相続人を見つけ出すという仕事で雇われ、まぁまぁ信用できるということを見せておいたので、伯爵は様々なちょっとした問題を解決する仕事を彼に与えるようになった。そしてその度に伝令となったのは下男のカジミール氏であった。当然ながらカジミール氏は調子に乗って喋りまくり、相手は聞き役となり、そこから表面的な関係が出来上がった。9.24