「まあね」と彼は答えた。「最初はちんぷんかんぷんでしたよ……。はっきりしてるのは、書き手が女だということです」
「ほほう!」
「そう、まぁ昔の愛人てとこでしょうな……で、子供のために必要だと言って金の無心……女ってもんはそういうところ抜け目のないもんでしてね……ここだけの話ですが、私なんぞ十回はそんな目に遭ってますよ……ですが、あたしゃそんな手には引っかからない」
それから彼は自惚れにはち切れそうになりながら、三度か四度の自称『恋物語』を語り始めた。が、それはどう見ても彼の卑劣さの印象しか与えないものだった。フォルチュナ氏はまるで真っ赤に焼けた鉄板の椅子にでも座っているかのようにじりじりしていた。相手のグラスになみなみと何度も酒を注いた後、ちょっとやり過ぎたことに気づき、これ以上引き延ばす必要はないと判断した。
「で、その手紙というのは?」ついに彼は尋ねた。
「え?」
「その手紙を私に見せてくださると言われたではないですか」
「ああ、そうだった……そうでしたね……でもその前に、コーヒーを一杯飲みたいもので。コーヒーを注文してはどうでしょう?」
コーヒーが出され、食堂の主人がドアを閉めるとすぐカジミール氏はポケットから手紙を取り出し、広げながらこう言った。
「ちょっと待ってくださいよ……私が読み上げますから」
それはフォルチュナ氏の流儀ではなかったので、彼は自分で読みたかったのだが、酔っ払い相手に逆らっても無駄であった。カジミール氏はますますもつれ気味になる舌で読み上げ始めた。
「『186*年十月十四日、パリ』 てぇことは、この御婦人パリにお住まいですな……まぁ大体そんなもんでしょうて……だがその後、『拝啓』も『親愛なる誰それ』も『伯爵様』も何もなしで、いきなり文面が始まってますよ。
『もう何年も前になりますが、一度貴方にお願いをしたことがございます。無慈悲にも貴方はお返事すら下さいませんでした。その当時私は苦境の淵に喘ぎ、貴方にも申し上げましたが、逆上し、眩暈に襲われました……誰からも見捨てられ、私はパリに流れ着きました。住むところもパンもなく、私の子供は飢えていました!』
カジミール氏はここで読みやめると笑い声を上げた。9.29