VIII
少なくともマルグリット嬢の側では、調べられることはそう多くはなかった。常識的に見て、今後の彼女の仕事としては、フォンデージ夫妻の生活をたゆまず観察し続けること、そして夫妻の支出を正確に記録しておくこと、だけだった。これは注意力と数字の問題だった。
ここまでの成果で自信を持ってもよかったのだが、彼女は自分の力の及ぶ範囲を過信することはなかった。これは大きな意味を持つものなのかもしれないし、あるいは何でもないのかもしれない。
『将軍』がド・シャルース伯爵の書き物机から消えていた二百万フランを盗んだという心証が得られたとしても、それで全てが終わるわけではないということを彼女はよく理解していた。その瞬間から真の困難が始まるのだ。一体どのような方法でフォンデージ氏がその大金をくすねることが出来たのか、それを彼女は探さねばならない。果たして彼女に発見出来るであろうか? その金を横領することは---横領が本当にあったとして---奇跡に近いということをよく頭に叩き込んでおかねばならない。紛失した金をめぐる謎は、これで終わりなのか? いや、断じてそうではあるまい。はっきりと衆人の面前で犯罪を告発する権利を持つためには、十分な証拠を集めねばならない。『将軍』の犯罪を。物的証拠、議論の余地のない証拠があって初めてこう言えるのだ。 『盗みが行われました。私がやったと非難されましたが、私は無実です。犯人はここにいます!』 と。そこに辿り着くまでにどれほどの苦難が待ち構えていることか! しかしやらねばならぬ!
現実的で確固とした出発点に立った今、彼女は力強いエネルギーが身体に満ちるのを感じた。それが遅々たる歩みであろうと、何年掛かろうと、自分に課されたこの仕事を根気よく続けて行くに十分なエネルギーを。
彼女を不安にさせているのは、敵たちの行動---フォンデージ夫人が息子と結婚してくれるようにと彼女に頼んだときから現在に至るまでの---を論理的に説明できないことだった。6.12