パスカルは喜びに身を震わせた。
「運は僕の味方をしている!」と彼は思った。「カミ・ベイのおかげで男爵邸で十五分ほど足止めを喰らったが、あれがなければ、あの憎きド・コラルトとここで鉢合わせしていたろう。そしたらすべてがおじゃんになるところだった……」
そして彼はこの思いを抱いて意気揚々と邸へと近づいていった。
「侯爵は本日非常に多忙で」と鉄格子の扉の前に立っていた召使の一人が彼に言った。この男がド・ヴァロルセイ付きの下男であった。「貴方のお相手をする時間はないと思います」
しかし彼がモーメジャンという名前の書かれた名刺を取り出し、『トリゴー男爵の代理として』という鉛筆の添え書きがしてあるのを見ると、下男の横柄な態度が魔法のように一変した。
「ああ、そうでしたか!それなら話は違います!」と彼は言った。「トリゴー様からのお使いの方が見えたらすぐにお通しするよう申しつかっておりまして……もう貴方様のことは救世主のように待ち望んでおられます……どうぞこちらへ。私の口から主人に伝えますので……」
そして実際、彼はお喋りを中断し、先に立って案内した。男爵邸と同じようにド・ヴァロルセイ邸もまたすべてが大変な富を物語る壮大さであった。が、よくよく観察してみると、銀器とリュオルス洋銀(銅・ニッケル・銀の合金で、開発者のリュオルス侯爵の名に因んでこう呼ばれた)の違いのようなものが感じられた。ヴィル・レヴェック通りの男爵邸での贅沢さはどっしりした現実的な性格を帯びていたが、シャンゼリゼー通りの侯爵邸ではそうではなかった。家というのは、多かれ少なかれ、その主の人と為りを反映しているものだ……。貴族の中でも高い地位にある侯爵の舘ではあったが、どんなに低い身分の人々にも影響を与えずにはおかないこの時代の特徴といったものがそこにも刻み込まれていた。
「お入りください」とドアを開けながら下男は言った。「私は主人を探して参ります……」
パスカルは広々とした豪華なサロンに入った。が、その豪華さはどことなく精彩を欠いていた。絨毯は確かに見事なものではあったが、ところどころに染みが着いていた。夏の間、窓のブラインドを常に閉めておくという手間をかけることはしなかったらしく、カーテンが陽に焼けて色褪せしていた。サロンで目を惹くものは、夥しい数のカップ、皿、小立像といったものであり、銀であれ、金であれ、それぞれまとめて飾られていた。それらがすべてのテーブルに乗せられていた。それぞれのオブジェに刻まれた文字を読むと、それらはド・ヴァロルセイ侯爵所有の馬が獲得したものであることが分かった。何年の何月何日にどこで行われたどのような競技会であったか、及び優勝した馬の名前も記されていた。これぞ侯爵の栄光を語る陳列品であった。それはまた、彼が巨大な富の大半をそこに費やしたことをも示すものであった。
パスカルはこれらのものには興味がなく、やがて待たされることに苛立ちを感じ始めた。
「ヴァロルセイの奴、駆け引きをしているな」と彼は思った。「待ってました、という印象を与えたくないんだ。だが残念なことに、召使がばらしてしまったんだがな」
やがてついに現れたのは召使だった。8.12
「運は僕の味方をしている!」と彼は思った。「カミ・ベイのおかげで男爵邸で十五分ほど足止めを喰らったが、あれがなければ、あの憎きド・コラルトとここで鉢合わせしていたろう。そしたらすべてがおじゃんになるところだった……」
そして彼はこの思いを抱いて意気揚々と邸へと近づいていった。
「侯爵は本日非常に多忙で」と鉄格子の扉の前に立っていた召使の一人が彼に言った。この男がド・ヴァロルセイ付きの下男であった。「貴方のお相手をする時間はないと思います」
しかし彼がモーメジャンという名前の書かれた名刺を取り出し、『トリゴー男爵の代理として』という鉛筆の添え書きがしてあるのを見ると、下男の横柄な態度が魔法のように一変した。
「ああ、そうでしたか!それなら話は違います!」と彼は言った。「トリゴー様からのお使いの方が見えたらすぐにお通しするよう申しつかっておりまして……もう貴方様のことは救世主のように待ち望んでおられます……どうぞこちらへ。私の口から主人に伝えますので……」
そして実際、彼はお喋りを中断し、先に立って案内した。男爵邸と同じようにド・ヴァロルセイ邸もまたすべてが大変な富を物語る壮大さであった。が、よくよく観察してみると、銀器とリュオルス洋銀(銅・ニッケル・銀の合金で、開発者のリュオルス侯爵の名に因んでこう呼ばれた)の違いのようなものが感じられた。ヴィル・レヴェック通りの男爵邸での贅沢さはどっしりした現実的な性格を帯びていたが、シャンゼリゼー通りの侯爵邸ではそうではなかった。家というのは、多かれ少なかれ、その主の人と為りを反映しているものだ……。貴族の中でも高い地位にある侯爵の舘ではあったが、どんなに低い身分の人々にも影響を与えずにはおかないこの時代の特徴といったものがそこにも刻み込まれていた。
「お入りください」とドアを開けながら下男は言った。「私は主人を探して参ります……」
パスカルは広々とした豪華なサロンに入った。が、その豪華さはどことなく精彩を欠いていた。絨毯は確かに見事なものではあったが、ところどころに染みが着いていた。夏の間、窓のブラインドを常に閉めておくという手間をかけることはしなかったらしく、カーテンが陽に焼けて色褪せしていた。サロンで目を惹くものは、夥しい数のカップ、皿、小立像といったものであり、銀であれ、金であれ、それぞれまとめて飾られていた。それらがすべてのテーブルに乗せられていた。それぞれのオブジェに刻まれた文字を読むと、それらはド・ヴァロルセイ侯爵所有の馬が獲得したものであることが分かった。何年の何月何日にどこで行われたどのような競技会であったか、及び優勝した馬の名前も記されていた。これぞ侯爵の栄光を語る陳列品であった。それはまた、彼が巨大な富の大半をそこに費やしたことをも示すものであった。
パスカルはこれらのものには興味がなく、やがて待たされることに苛立ちを感じ始めた。
「ヴァロルセイの奴、駆け引きをしているな」と彼は思った。「待ってました、という印象を与えたくないんだ。だが残念なことに、召使がばらしてしまったんだがな」
やがてついに現れたのは召使だった。8.12