もしも貴重品がなくなったとしたら、疑われるのは誰です? 毎度同じことですが、可哀想な召使です……。そうですとも、罪を被せられるのはいつも私ら使用人です。鞄の中まで調べられ、何も見つからなくても、どっちみち刑務所に送り込まれる……ところが、その間に分捕り品を持ってドロンを決め込む他の人間たちがいるってわけで……。そいつぁ御免だね、リゼット、って奴ですよ(リゼットは当時の喜劇でよく使われた抜け目のない女中の名前らしい)。警察が来るまで誰もここを動かぬ方がよろしいかと」
マダム・レオンは怒りのあまり口角に泡を溜めていた。
「上等じゃないの!」彼女は遮って言った。「ド・シャルース伯爵の親しいお友達の方にお知らせするわ、将軍を……」
「はん!誰があんたのいう将軍なんか……」
「無作法者!」
ここでマルグリット嬢が割って入った。次第に激しさを増してきたこの破廉恥な言い争いが、茫然としていた彼女を現実に引き戻したのだ。徹夜させられた鬱憤をぶちまけているかのような下男の無礼な態度に、彼女の顔は赤くなり、こわばった足どりで一歩前に踏み出した。
「お前は忘れているようね」はっきりした口調で彼女は言った。「死者が安置されている部屋の中では声を荒げてはならないことを!」
この言葉は大層威厳のある口調で言われたので、カジミール氏もぺしゃんこになった。彼女は指を一本持ち上げ、ドアを指し示し、冷たく言った。
「治安判事をお連れしなさい……。判事と一緒でない限り、ここに足を踏み入れてはなりません」
カジミール氏は頭を下げ、口の中でむにゃむにゃと謝罪を呟きながら出て行った。
「まぁやっぱり一番分別のあるのは彼女だろうな……」と彼は独り言ちた。「ああ、そうだ、封印をするんだ。ああ、そうだ、そうだ!」
門番小屋に入ると、ブリジョー氏は起きたところだった。妻が徹夜で起きている間、彼はたっぷりと眠ったのだった。
「急げ!」とカジミール氏は彼に言った。「早く着替えて治安判事を呼びに行くんだ……そうしなくちゃならないんだ……なにもかもきちんとやることになったからな。俺はお嬢様にしっかり活を入れてきてやったぜ」
門番は愕然とした。
「なんてぇこった!」彼は口の中で言った。「また厄介事が起きちまったな……」
「それは俺の言いたい台詞だ。こんな目に遭うのはこれで二度目だぜ。こうなりゃ、あいつの言うことを聞いときゃよかった、って気になるぜ。俺の知ってるシュパンて若造だ。いろんな仕事に首を突っ込んでいて、よく頭が回るんだ。『あっしがどっかの家事使用人になるとすれば、雇われる前に生命保険てやつに入って貰うようにしときやすね』とそいつは言うんだ。そしたら主人が死んだ暁には、ちょいとした金を手に入れられるってもんだ、とね。さぁブリジョー親爺、着替えるんだ」2.1