そして実際、捜索の結果、彼は親指ほどの大きさの紙片が五つ植込みの下に吹き寄せられているのを発見したのである。それらはか細い縦長の文字で埋め尽くされていたが、女の筆跡であることは明らかなものの、一つとして意味をなす文を構成することはできなかった。しかしそんなことは重要ではない! カジミール氏はそれらの紙片を後生大事に保管しておき、主人が知ったら快く思う筈のないその掘り出し物のことは誰にも言わないと決心していた。彼はそれらの破片から一貫性はないながら、数語の解読はしていた。それらを常に頭の中で考えているうち、伯爵の発作とその手紙とは大いに関係があるという思いが強くなった。というわけでマルグリット嬢が彼に書き物机の鍵を探すよう命じたとき、彼は大いに勢い込んでド・シャルース伯爵の上着のポケットを探ったのであった。そして幸運に巡り合い、それにつけ込んだ。というのは、鍵を見つけそれは渡したが、例の手紙も発見したのである。彼はそれをくしゃっと丸めて手のひらで隠し自分のポケットにこっそりと滑り込ませた。ああしかし、苦心も無駄であった! その手紙の空白の部分を自分の拾ってきた紙片で埋めようとしたが、何度読んでも、いくら頭を絞っても何も分からなかった。むしろ非常に曖昧で不完全な情報しか得られなかった為、また新たな苛立ちの種となったのである。
一度などは、それをマルグリット嬢に返そうかとも思った。が、こう考えて思いとどまった。
「ああ、馬鹿な!……それは駄目だ……いつか役に立つときが来るかもしれないじゃないか」
有能な人間であるカジミール氏は、自分ではマルグリット嬢の役に立つ気はまるでなかった。彼女から受けていたものは親切ばかりだというのに。彼女を憎んでいた。どこの誰かも分からないような女は、こんなところにいるべきではないというのがその言い分であった。そして、この自分、カジミールが彼女から命令を受けるなどとは笑止千万と思っていた。マルグリット嬢が通路を歩いていたとき耳に入って来た心無い中傷の言葉『あそこに行くのはお金持ちのド・シャルース伯爵の愛人だ』はカジミール氏の仕業であった。彼はこの高慢ちきな女に仕返しをしてやる、と誓っていた。治安判事が毅然たる態度で中に入らなかったら、彼がマルグリット嬢に何をしていたか、誰にも分からない。
彼は治安判事から厳しく叱責されたが、八千フランを渡され暫定的に屋敷内を取り仕切ることを任されたとき、受けた侮辱を大目に見る気になった。それ以上に嬉しいことはなかった。これはまず第一に特別に与えられた素晴らしい機会であり、権限を持って行動し、主人のようにものを言うことが出来るのだ。それ以外にも、ヴィクトール・シュパンと共に葬礼を取り行うことが出来るし、イジドール・フォルチュナ氏に申し込んでいた面談に出かける時間も作れる自由をも意味していた。
というわけで、同輩たちには治安判事に言われた仕事をさせておき、ブリジョー氏には役場に届けを出すよう言いつけ、自分は葉巻に火をつけるとゆっくりした足取りでクールセル通りを上っていった。約束の場所はオスマン大通りにある真新しい建物でビンダー(ヘンリー・ビンダーがパリに作った馬車製造会社)の工場のほぼ真正面にあった。9.22