今回の旅のクライマックスといえば、何と言っても台風だろうと思う。
台風は旅の二日目にソウルを直撃した。
幸い私たちはバスで南下、慶州へ向かっていた。
その日は旅程のうえでも盛りだくさん。
忠州湖、安東河回村、海印寺、仏国寺、その途中途中で、紫水晶の店、
青磁の窯元を回るという、かなりハードなスケジュールになっていた。
問題はいつ台風に遭遇するかということだけれど、
天気予報では午後、私たちのスケジュールでは海印寺の辺りだろうということだった。
車中でもガイドさんは、ソウルと連絡をとっているようで、
「ソウルは今とんでもないことになっているようです。台風がすごくて
みなさん、ホテルの中で外を見ながら震えているようですよ。
飛行機は全面ストップで、今日帰る予定の人は帰れません。」
それを聞いて、え、大変じゃない、困るよね~などとざわつきながらも、
みんな顔が笑っているのは、なぜかしら?
ガイドさんのかなりブロークンな日本語が、笑いを誘ったような気もするけれど。
他人の不幸は蜜の味の類かしらね
そうこうしているうちに、傘がいるかいらないかという程度の小ぶりだった雨が
バスの窓を叩き付けるほどの勢いに変わって行く。
バスは山中に入り、だんだん細くなる道路を、海印寺目指して登って行く。
雨脚は更に激しく、周りの木々が大揺れしている
どう考えたって山中のお寺を観光するのに適した日とは言えない。
「ひどくなってきましたね~、現地についたら晴れた、なんてことはないでしょうかね~」
なんて、添乗員さんが、ありえそうもないことを言っていた。
私は、この時点で、たぶん観光はないだろうと思っていた。
怪我人でも出たら、責任問題になるだろうしね。
ところが、駐車場に着いてみたら、
「行けるところまで行ってみましょう。ダメだと思ったら途中で引き返しても良いですよ」
添乗員さんは、当然のように言う。
ということは、引き返したい人はこの嵐の中一人で引き返せということですか?
添乗員としては、あまりに能天気じゃないですか?
・・・・・
でもまあ仕方がない。
せっかくだから行きたい気持ちは、ある。
というわけで、私たちは、唯一守ってくれていたバスを降り、
荒れ狂う台風の中へと足を踏み出したのだった