前回に引き続き、日高盛康少佐の語る着艦訓練です。
画像は、ご存知の方はご存知、日高少佐の隼鷹乗組み時代の部下、
母艦戦闘機乗りの有名人、菊地哲生上飛曹(死後飛曹長)。
対象になる他の人物を描いていないのですが、
隣りの人物や、日高少佐と比べるとゆうにサイズは1,5倍の巨漢です。
ちばてつやがもし「飛鷹のタカ」という母艦乗りが主人公の漫画を描いたら、
即刻脇役キャラに採用しそうです。
七人のサムライの塙兵曹プラス菅野大尉(漫画の方ね)という描き分けで。
というこの見かけも実際もキャラ立ちまくりだった名物男菊地上飛曹。
あまりに身体が大きいので、機体に乗り込む時は
整備員の助けが必要だったといわれています。
あまったところを無理やり押し込んでもらったりしたんでしょうか。
「上飛曹、もう少し膝曲げないとお尻が入りません!」
とか・・・。
しかし、いったん空に上がるとその飛行技術は軽快で、
戦闘技術は巧妙、かつ豪快で闘争心溢れる戦闘機乗りだったということです。
見かけどおり母艦戦闘機隊のヌシを自負し、後輩の教育にも熱心でしたが、
準士官(飛曹長)への昇進の内示が上からあっても、
頑なに辞退し続けました。
この昇進を勧めたのが日高少佐だったということです。
昭和19年6月19日、「あ」号作戦の帰途、
身をもって艦爆隊を守り、力尽き自爆戦死。
今度は昇進を拒むわけにもいかず飛曹長になりました。
さて、その菊地上飛曹が熱心に訓練を施して、
あなたは母艦着艦の第二段階に進んだとします。
第二段階からは実際に母艦で訓練が始まります。
しかし、まだまだ実際に着艦はしません。
停泊中の母艦の飛行甲板を目標に、誘導コースを廻り、
最終着艦コースを艦尾近くまで降下接近。
10mまで近づいたときにエンジン全開。
再び上昇、もう一度やり直し。
このようにして、誘導コースの取り方、母艦の見え具合、
第四旋回を廻ってからの降下の要領などを頭と体に叩きこみます。
そして、この段階では、飛行機隊だけでなく、
母艦の方でも「受け入れ」の訓練が行われます。
錨をあげて出港し、訓練海域に出て、近づいた訓練飛行隊のために
艦首を風に立てて、合計風速が14m/秒になるように、
そのときの地上風速に合わせて調節しセットするのです。
飛行機隊指揮官はフネのマストに
「着艦準備よし」の旗旒信号が上がったら、いったん編隊を解散。
一番機から順次誘導コースに入り、接艦訓練を行います。
この接艦訓練は着艦訓練の一歩手前状態の訓練で、
要領はほとんど同じですが、唯一違うのが飛行機は着艦用フックを下ろさず、
母艦も着艦ワイヤーを立てない状態で行うという点です。
つまり「タッチ・アンド・ゴー」ですね。
そのやり方。
第4旋回を終わり、グライドパス(降下率)に乗って艦尾に接近、
艦尾上方でエンジンを絞ります。
同時に操縦桿をじわっと引き、尾輪から先に甲板に着くように操作し、
3輪ともスムーズに甲板に着いたのを確認したら
直ちにエンジンを全開して発艦します。
これを何度も繰り返し、接艦に問題が無くなって、
初めて着艦訓練が実際に行われるのです。
接艦を何度も行うわけは、具合が悪いと思ったら
どの段階でもすぐパワーを入れてやり直しができるので、
心理的負担が少ないという理由です。
着艦の場合はぎりぎりの判断では失敗の危険が増大するので、
このような訓練をまず行い、十分な心の余裕を与える、というわけです。
真正面からくる理想的な合成風速に合わせるわけですから、
着艦の態勢としては本来一番容易な方法であるにもかかわらず、
これを難しいと考えるのは、ひとえに心理的な恐怖によるものです。
”あんな小さなところに降りられるんだろうか・・・
失敗したら海にボチャン”((((´・ω・;`))))
それから、こういうことをしたことのある人にしか分からない苦労として、
艦尾付近の気流の乱れによるコントロールの困難さがあるそうです。
つまり、煙突から出る煙と、飛行甲板の最後端の形状が
下降気流を生むせいだとのこと。
この空母の煙突の形は造船屋さん泣かせで、
いかに着艦の邪魔にならない形状にするかについて
改良に改良が重ねられたようです。
ホ―ネットやレキシントンなどは、
煙突が塔型艦橋の上に折り曲げて取り付けられており、
日本も戦争が始まってから出てきた隼鷹、飛鷹などはこの形状です。
ただし、空母の敵味方識別という点から見ると、
こういうタイプが出てきて以降は、すこし厄介になってしまいました。
空母を間違えて敵艦に着艦しそうになった話は、
彼我双方に数多く残されています。
さて、先ほど「ワイヤー」と言いましたが、この直径10ミリのワイヤーは、
艦尾付近の飛行甲板上に、横幅いっぱいに、
首尾線と直角に5メートル間隔で6本くらい張られています。
両端は、ドラムに巻きこんであり、このドラムがおもりとなります。
そして、このワイヤーは甲板上40センチの高さに張られ、
普段は倒しておけるような装置が両端に仕掛けてあり、
着艦のときに飛行機が下した尾部の着艦フックを
ワイヤーが引っ掛けて受け止め、機をストップさせるのです。
ワイヤーに引っかかった途端、搭乗員には約6Gの重力がかかりますから、
慣れないうちはこの重力に耐えるのも一苦労です。
シートベルトが緩いと、ショックで前の照準器に
頭をゴツンとやってこぶを作ったりすることになります。
百田尚樹氏の「永遠の0(ゼロ)」には、
ワイヤーに脚を刎ねられる整備員のエピソードが出てきます。
ワイヤーに機が引っ掛かって止まるまで、整備員は
飛行甲板の両側にあるポケットで待機しているはずですから、
実際にはありえないことのように思えますが、
戦闘中は退避どころではなかったのでしょうか。
さて、あなたの着艦させた機が止まると、
一斉に皆が飛び出してきて、ワイヤーをフックから外してくれるので、
後はフックを巻き上げ、前部リフトに向かってタキシングします。
と言うわけで、あなたは菊地上飛曹の熱血指導の末、
母艦着艦ができるようになりました。
おめでとうございます。 v(・∀・*)
日高少佐にはそのうち着艦の失敗談なども語っていただきましょう。