ネイビーブルーに恋をして

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旅しながら淡々と写真を貼る 小倉

2011-10-28 | つれづれなるままに

皆さま、お鮨はお好きですか?
我が連れ合いであるTOは、築地の朝鮨に通い詰め、
外国から来た友人に「本当のすし」の布教をすることを使命と定めていたすし好きです。

最近、外国人観光客がうろうろしすぎて入っていはいけないところにも入り込むため、
築地の気の荒いお兄さんたちは今やガイジンさんに向かって
「ゲットアウト!」
なんて言っちゃうそうですが、そのころは外国人はほとんどいなかったそうで、
TOがネタの説明を英語でするのでお店の人からお礼を言われたこともあるそうです。

アメリカによくある「ご飯丸めて生魚乗っければスシ」という態度の雑駁なジャンクフード
(チャイニーズやコリアンのインチキジャパニーズ)しかしらなかったアメリカ人は、
一様に口の中で渾然一体となってとろけるスシにまず茫然とし、
次に「ここに世界一のスシがある!」と陶然とするものだそうです。

わたくしも何度か「これは芸術だ」と思う味に出会ったことはありますが、
きっとこれからも記憶に残るであろう鮨屋に、この日遭遇しました。

博多滞在中、有名な食通の方に教えていただいた「天寿司」です。
 
博多から新幹線でひと駅。
このためだけに訪れた小倉。生まれて初めての訪問です。
駅から歩いて3分くらいのビルの一階にその小さな(カウンター5席)店はあります。

 

分かりにくいのですが、カウンターの奥から一筋の水が絶えずちょろちょろと流れていて、
そこで手を清めながら手でつまんでいただきます。

当たり前のようにここは予約で、他のお客さんはいません。
席に客がついてから、おもむろに大将登場。

我が家は「子供を一流鮨屋のカウンターに座らせない」という教育方針を守ってきたのですが、
息子はこの日誕生日。

「今日は誕生記念に最高に美味しいお鮨食べに行こう」
とTOが言うと
「スシロー?」(震災後避難していた関西で一度行った)
「違うっ!」

しかし、食物のアレルゲンが多く、そのせいで食べず嫌いなものがある息子を、
このようなお店に連れていくのはなかなか勇気のいることでした。

大将、息子に「なんか嫌いなものは?」
TO、気を使って「大人と同じものを出していただいて結構です。私が食べますから」
大将「いや、食べられないもの出すわけにもいきません」
息子「マグロ好きです」
大将「そう、じゃ最初はマグロ尽くしで行きますか」

大人たちには寿司の上にゆず胡椒や梅肉、ショウガや薬味を巧みに乗せた芸術品のような
寿司が次々と出てきます。


何しろカウンター越しに会話しながらですので、写真を撮るのも遠慮がち。
慌てて撮ったのでピントがことごとく後ろのキュウリやネタに合ってます。とほほ。


大将はまるでカウンセラーのように息子の好きな魚を聴きだし、
「サバが好きならこれはどうかな」
と太刀魚を炭火で炙ったものを出してくれ、
大将「これ(漬け寿司)どう思う?正直なところ聞かせて」
息子「うーん、普通」
大将「普通かー。じゃ、少し焼いてみよう」

お鮨っていうのは、もともと一人ひとりの好みを聴きだして対応していくものですから、
と淡々とおっしゃる大将です。
「味はだんだん覚えていくものですから、大きくなれば何でも食べるようになりますよ」

あれ嫌いこれ嫌いが母親のせいのように思えて小さくなっているわたしにはほっとする言葉です。

このお店は勿論禁煙ですが、さらにびっくり、お酒も置いていません。
禁酒禁煙の鮨屋です。
「ビールくらい置いてないの?」
とよく客から聞かれるそうですが、先代からの信念で一切お酒は出さないとのこと。
日本でお酒を出さない鮨屋というのは大将の知る限り全国で二軒だけだそうで、
もう一軒は石川県にあるのですが、なんと
その石川の禁酒鮨屋に前日行って、次の日九州小倉のこの店に来た方
が過去いたそうです。

「やはりお酒が出るとお鮨をカウンターに置いたまま飲んでしまったり、っていうことがあるからですか」
と訪ねると
「直ぐに食べてくれないで『不味かった』なんて言われたくないですから」

この店でお寿司を頂くというのは、まさにこの大将と対峙してその職人の匠を全身全霊で味わう
「真剣勝負」かもしれません。

しかし、職人として決して譲らない頑固さを持っていながら、決して威圧的だったり押しつけたりすることなく、
「味はついていますが塩でも醤油でもお好みでどうぞ」
といった鷹揚なもてなしをしてくれる大将です。

大将は二代目です。
先代が亡きあと、先代の一番弟子、商社マンだった大将の兄上、そして大将がその味を引き継いでいます。
一番弟子の方はもう御年77歳ですが、いまだ現役で握っておられるそうです。
(ちなみに魚町にある「もり田」というお店)
「普通に観たら『もうお爺さんだなあ』と思うんですけど
仕事になるとスイッチ入る
ようですね」
さすがは職人さん。
このお店は松本清張氏も贔屓にしていたとのこと。


息子が誕生日であることを会話の途中で話したのですが、なんと。
「おじさんからのお祝い」
と、息子の食べた分をサービスしていただきました。
マグロ尽くしを始め、結構食べたのに・・・。

誕生日に寿司カウンターデビュー。
好みを聴きだしてアレンジを加えてくれるような職人の技を舌に学ばせてやることができたのですから、
息子にとってはとても意義深い記念の食事となったかもしれません。


と言うわけで用事の合間に美味しいものも味わいつつ、旅は次の地へと駒を進めます。
さあ、明日はどっちだ?(なし崩し的に続く)