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89式装甲戦闘車のオレンジ旗〜平成29年度富士総合火力演習

2017-08-27 | 自衛隊

  

今年の総火演、チケット応募数は150,361通。
なんと当選倍率は29倍だったそうです。

自衛隊となんのゆかりもなく、防大に通う身内もおらず、
防衛団体とも縁がないという人たちにとっては応募するしかありませんが、
なぜかどこからともなくチケットを手に入れて、木土日と
三回全部参加したという人もいました。

なんでもその人は土曜日明け方前から駐車場に車を停め、
タクシーで現場に行って4時ごろから並び、イベントが終わったら車で仮眠。

(お風呂はどうするんですか、と聞いたら聞かないでくださいと言われました。
本当に聞かなきゃよかった)

日曜日のイベントのためには前日の晩0時くらいから現地で夜を明かすのだそうです。
そんなにしてまで・・・・。

 

さて、総火演予行、特化火力の前半のハイライト、曳火富士が終わり、
続いては近距離火力の装備展示です。

全員が赤いヘルメットをつけて車から降りてきました。

スコップで足元の土を掘り返しています。
遠くてわからなかったのですが、狙撃の際のお立ち台となる
何か特殊なシートを敷くようです。

衝撃吸収のためとか色々あるのでしょう。

狙撃手と判定官?を乗せたジープが到着。
整備の時に豪勢に水を撒きすぎて、水たまりができてしまいました。

まあこういうのも効果としては陸自っぽくていいんじゃないかと思ったり。
トラックの後ろには120ミリ迫撃砲を牽引しています。

高機動車から通称120迫(ひゃくにじゅっぱく)を取り外します。

ほぼ数十秒後には迫撃の用意は終了していました。仕事早い。

120mm迫撃砲の発砲は、銃弾を落とし込んで行います。
砲手が銃撃を行うというより、筒の中に砲弾が落ちると自動的に発射されるのです。

モード切り替えによって、落とし込んで発射するモードにしたり、
砲手が任意のタイミングで撃発用のロープを引っ張って発射するモードに変えたりできます。

砲身後部の撃針を突出させておけば墜発式(砲口から装填された砲弾がすぐに発射される)、
逆に後退させておけば拉縄式(装填された砲弾は砲身後端にとどまり、砲手が発射させる)
と使い分けができます。

発射は、上げた旗を下ろすのではなく、旗を上げた時が合図です。
FH70とは逆なのですが、何か理由があるのでしょうか。

砲手は砲弾を支えていた手を離すと同時に体を沈めて爆風を避けます。

一人だけ耳を押さえている人がいますが、他の皆さんは大丈夫なんでしょうか。 

方向の先から銃弾が顔を出した瞬間、砲下方から白煙が立ち昇ります。

写真を見るとところどころに火花が散っていて、周りにいるのは
かなり危険なことに思われます。
砲弾の初速はそう速いものではないらしく、連写で撮れば失敗はまずありません。 

むしろ連写だと、こういう感じで弾がはっきり写ってしまい、今ひとつ迫力に欠けます。

今回唯一の成功例はこれ。

去年もこの形の炎を撮りましたが、『?』の形まで同じです。

次に中距離多目的誘導弾。


英語ではMMPM、通称「チュウタ」で、防衛省技研と川崎の開発によるものです。
対戦車・対舟艇ミサイルを車上の発射機から投弾する瞬間です。

これも発射時の速度が遅く、大きなミサイルが肉眼ではっきり見え、
何より写真が撮りやすいので好きです。

照準は「赤外線映像」、または「ミリ波レーダー」で行い、
誘導方式は光波ホーミング誘導方式です。

発射機の上に監視カメラのように立っているのがミリ波レーダーです。

総火演の射撃は赤外線画像による誘導方式で行われます。

ミサイルがはっきり写っているので、後部に翼がある形状がよくわかりますね。
一つの射撃機に砲弾は六発搭載することができます。

弾着した時、目標があまりにも遠いので、周りの人たちが

「あそこかー!」

「あんな遠くに飛ぶのか!」

とちょっとざわめいていました。

お次は指向性散弾の装備紹介です。

指向性散弾とは、要するに一定方向に対して仕掛けられた地雷みたいなもの。
地雷のようにその上を踏まなくとも、やってきた歩兵を全滅させることができます。

指向性散弾という武器そのものを知らない会場の人たちの多くは、風船が皆割れるので

「すげーゴルゴみたいー」

と感心しているわけですが、なんのことはない、ある場所に設置して
誰か通りかかったらスイッチオンで中に仕込まれた1センチの鉄球が飛び散る、
という仕組みなので、目をつぶっていても外しようがないわけです。

 

皆さんは「クレイモア地雷」って聞いたことがありますかね。
有名な対人地雷ですが、実は自衛隊の装備である指向性散弾は、
クレイモア地雷より大型で殺傷力、いや、威力が大きいのです。

日本は対人地雷の使用を禁ずる対人地雷禁止条約を批准していますが、
どうしてこんな地雷を持っているかというと、これがリモコン式で

「人がその上を踏んだら爆発する

という仕組みではないからです。

残存する対人地雷で一般人が被害に遭うことを人道的見地からなくすため、
結ばれることになった対人地雷禁止条約ですが、リモコン式で

「スイッチを押す」つまり攻撃の意図が介在しなければ使用できない

という条件が加われば、条約の対象外となるというわけです。

76式戦車が砲撃を行う坂の上の使用例。

ギリースーツを着た狙撃手が会場の車の中の人物を狙撃します。

しかしこの時車の窓の中の人物はいつものように倒れなかったような・・・。

違ってたらごめんなさい。
陸自のゴルゴに限ってそんなことありませんよね。

ちなみに目標までの距離は800mあるそうです。

軽装甲機動車、通称ラヴ (Light Armoured Viecleから)が入場してきました。
歩兵車としてジープと同じ使われ方をしているのですが、窓がご覧の通りだったりして
日常使いには向かないというか、

「目立ちすぎてコンビニに寄れない」

という切実なクレームが部隊からは上がっていたそうです。
高速道路のパーキンギエリアなんかでは時々見ますけどね

96式装輪装甲車が入場してきます。

操縦席は射手席の側の前部にあります。
上半身を出して立っていますが、これは車長か分隊長が必ずここに立ち、
周囲の安全確認をしながらでないと走行できないからです。

装輪装甲車備え付けの銃で目標を狙います。
青いヘルメットの人は安全確認を行う係だそうです。

総火演ではこのように隊員が赤ヘル(射撃補助関係)青ヘル(安全確認係)を
かぶって登場するのですが、もちろんこれは皆にわかりやすくするためで、
実際の訓練やましてや実戦では色分けは使用されません。

装輪装甲車の銃弾が目標の白いマーク真ん前に弾着。

狙撃手が目標に対し銃を構えました。
狙撃は狙撃手と観測手が二人一組で行います。

目標はこれも敵歩兵に見立てた青い風船。
敵歩兵ならきっとこんなにじっとしてませんが、そこはそれ。

ほぼ第1射で全部が割れてしまうのはさすが。

この射手の左側の人が撃った銃弾が赤く燃えた状態で飛来しています。

続いて84ミリ無反動砲。
自衛隊では使っていないかもですが、カールグスタフという名称がかっこいい。

無反動砲というくらいで本人は反動を感じませんが、その代わり筒の後方から
猛烈な爆風が発生するので、後ろに誰もいないことを確かめて撃ちましょう。

携帯用とはいえ対戦車砲ですから、威力はこの通り。
こりゃー撃ってて気持ちいいだろうな。

89式装甲戦闘車、通称FVの装備展示が始まりました。
全部で四台が目標に正対して35ミリ機関砲を撃ちます。

わたしは一番こちら側のFVの発砲の瞬間を撮ろうと狙っていたのですが・・・

周りの人たちが

「あれ?」「撃ってないよね」「故障か?」
「一番右側撮ろうと思って狙ってたのに撃たなかった」

などとざわめき始めました。

するとこちら側2台のFVが同時にオレンジの旗を揚げました。
総火演でオレンジの旗を目撃するのは初めてと記憶します。

何かトラブルがあって、どちらも発射ができなかったようです。

「よくあることなんですか?初めて見ますが」

「まあ今日は予行ですからね」

 総火演はショーではなく「演習」なので、さしもの精鋭部隊であっても
小さいミスが全日程通して一度も起こらないなどということはありません。
毎年来ていると、たまに戦車の履帯が外れたり、破片が飛んできたり、
そういう派手な事故に出会う確率も増えてくるわけです。

もしかしたら、そういうアクシデントが起こることを、常連さんたちは
実のところ楽しみにしているのではないか?
と、周りの人たちがオレンジの旗を立てたFVを見ながら、結構ウキウキと
盛り上がっているのを見て思ったわたしでした。

 

続く。