2018年のブログです
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遊戯療法の田中千穂子さんの『ひきこもりの家族関係』(2001・講談社+α新書)を再読しました。
これもかなり久しぶりの再読です。
田中さんは(じーじが勝手に尊敬し、大ファンである)本当に信頼できる力のある臨床家。
子どもの遊戯療法などの本をこのブログでも何回かご紹介していますが、その臨床場面のていねいさと細やかさはすばらしいものがあります。
その田中さんの「ひきこもり」論。
本の帯には、「ひきこもる」ことは、そんなに悪いことなのか!?とあって、なかなか刺激的です。
今回もいろいろと示唆を受けたのですが、その一つめは、ひきこもりは「対話する関係」の喪失、という視点。
個人の病い、というとらえかたでなく、家族や友人らとの間で、対話をする関係が不十分なために、傷つき、人間関係から撤退している状態、ととらえます。
二つめは、ひきこもったあとの親への試し。
親からの安全感が十分でなかったという感情を抱きがちな人が多いので、親がどれくらい本気で心配をし、考えているのかを試す、といいます。
これについては、田中さんは、無駄を承知で、無駄なことを繰り返して、行動で心配していることを示すのが大切、と述べます。
三つめは、本人がひきこもりから脱出しようとする際に、うまくいけば吉、失敗すれば死、という極端さの傾向。
そうではなくて、必要なことは、少しずつ徐々に成功と失敗をくり返していくことである、と説きます。
田中さんは、本書では、ひきこもりの本人との心理療法ではなく、親ごさんとの心理療法をいくつも提示しています。
いずれのケースでもその面接の中で細やかでていねいな関わりを示し、そのことが親子関係のありかたの見本やとらえ直しになって、回復に結びつく様子を見ることができます。
難しい治療ですが、ていねいで確かな心理療法の一端を垣間見ることができると思います。 (2018 記)
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2021年秋の追記です
同じ遊戯療法家で、精神科医、心理療法家の山中康裕さんが、お得意の「窓」論のほかに「内閉論」ということを述べられています。
蝶が成長する時に、さなぎという、一見成長していないように見える時期があることに比して、人間も若い時に「内閉」の時期があり、実はそこでちからをたくわえているという視点で、ひきこもりにも有効な見方だと思います。 (2021.9 記)