2023年6月のブログです
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立原正秋さんの『春の鐘(上・下)』(1987・新潮社)をかなり久しぶりに読む。
1987年の単行本であるが、じーじが大学を卒業して、家裁調査官になって2年目、こんな小説を読んでいたんだ、と思う。
もともとはその前年に日本経済新聞の朝刊に連載された小説らしいが、こんな色っぽい小説(?)を朝刊に連載した日経もすごいと思う。
あらすじは例によってあえて書かないが、美術の専門家が主人公。
美術に没頭するあまり、妻がついていけず、夫婦仲が破綻する。
子どもにはいい父親である主人公の悩みは深まるが、夫婦の修復は難しい。
そんな時に、目の前に現われた薄幸の女性。
陶芸家の娘である女性とのつきあいが深まり、先の見えない関係が続く。
読んでいると、この先がどうなるのか、どきどきしてしまう。
それを救うのが、奈良や京都の仏像やお寺の美しさ。
読んでいるだけで、こころが豊かになる。
いい国に生まれたんだな、と改めて認識させられる。
結末は少し哀しい。
その先も心配になる。
しかし、筆者はあえて書かない。
余韻のあるおとなの小説だと思う。 (2023.6 記)